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675”生”と”死”と社会保険

 子どもは社会の宝。産みたい人には産ませてあげなければなりません。産院に払う出産費用の負担が足かせになって「子どもは後回し」とする風潮があるのでは困ります。
 そういう声に押されてのことでしょう。健康保険の出産育児一時金が増額されてきています。産院費用の足しでもなればといったささやかな金額だったのが、今では平均的な産院費用になるようにということで42万円になっています。でも平均は平均。
 これより金額が張る産院では健康保険の給付金では不足して“自己負担”が残ります。それは問題だ、ということで関係者はこの給付金のさらなる増額を考えているようです。
 産院費用の全額を健康保険から給付してもらえれば、産む側の親も安心だし、生まれてくる子どもも「お世話になります。健康な成人に育って社会に恩返ししなければ」と誓うことでしょう。健康保険を含む社会保険の精神で「お互い様」精神が生かされます。

 健康保険は病気治療費だけを対象とするものではありません。このように出生費用も給付対象になっています。健康保険法においても「“疾病”“負傷”“死亡”“出産”に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与する」(第1条)となっています。
 そうすると健康保険で産院費用を賄える金額給付をすることは、政治的思惑によるいわゆるバラマキではなく、きちんと法律上の根拠があることになります。この増額は、健康保険料を負担している人は、心おきなく主張してよろしい。
(ただし保険料増額を抑えるために、医療費の適正化にも賛成する必要があります。)
 
 ここで気になるのが、先ほどの健康保険法の給付事由の一つである“死亡”です。死亡すれば火葬するのが今の常識。ほぼ100%火葬場に運ばれ、会葬者の念仏に送られて荼毘に付されます。この部分は必須です。
(人の遺体はゴミであり、その辺に捨ててかまわないという主張は、日本社会では通用しません。)
 先ほどの出産育児一時金をなぜ健康保険が負担しているのか。生まれてくる赤ちゃんを健康保険の加入者みんなで歓迎する意味があるとすれば、健康保険加入者であった仲間が死亡したときにみんなで感謝の気持ちで送るということが必要というのが、健康保険法の考えではないでしょうか。
 さてその給付金額です。基本的に5万円とのことです。
  
 死亡に際して火葬を省けません。健康保険からの給付金の適正額について考えることが必要と思われます。今後死亡者数は4割方増えるなどの見通しもあり、火葬場(かそうじょう)の不足が懸念されています。
(火葬待ちの親の遺体に何日もドライアイスを加え続けた体験談を聞きます。)
 
 ちなみに健康保険では「埋葬料」(第100条)となっていますが、法律制定の大正時代ではありません。当時は裏山の共同墓地に村人総出で穴を掘って遺体を埋めましたから。支払う費用はほとんどありません。健康保険から支給された埋葬料は、協力してもらう村人に御礼の振る舞いをする飲食費に当てられたのではないでしょうか。
 ともあれ5万円では火葬場の適正運営費にも足りるかどうか。いずれにせよ実態に合わせて「埋葬料」は「火葬料等」に改めるべきでしょう。

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