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647要人警護 憲法19条

所長:安倍元総理の遭難で要人警護のあり方が問われている。2008(平成20)年の秋、自宅マンションに警察官が立っていて驚いた。元厚生次官連続襲撃事件で犯人が分からず騒然としていたときだ。事情通が「キミも警備対象になっていたのさ」と教えてくれた。“警備された”のは、後にも先にもこの一回だけだと思う。
香澄:通常市民が警察に警護していただくなってことはないですよ。お孫さんに誇っていいのはないですか。でも警護対象が所長だったとは限りませんよ。マンション住民の中にほかに重要人物がいて、所長は警護のおこぼれにあずかっただけとか…。
輝明:その点、安倍さんは正真正銘の警護対象。対象人物の行動の自由を尊重しつつ、姿が見えない襲撃に備える。駆け寄って刺殺する。望遠鏡付きライフルで銃撃する。オウム真理教のように致死性有毒ガスを撒く。方法はさまざま。それに加え、いつ襲撃を実行するかを決めることができる。警備する側が、仮に「こいつが怪しい」との情報を入手しても、相手が具体的準備行動に入るまで手を出せない。
香澄:国民には思想信条の自由が保障されているから、過剰警備はきびしく批判される。しかし要人が襲撃されると世論マスコミは一転して、「警備は何をしていた」「責任者は腹を切れ」となる。今回がその一例。警察長官と奈良県警本部長が引責辞任したわ。
輝明:そこが核心。引責というけれど、警察庁の長官は終身ポストではない。辞め時を調整しただけのこと。隠居して身を隠し、どのような地位処遇の誘いを断ると宣言したわけではない。マスコミも確認していない。本部長の方も、同期の官僚同様に組織事情で肩叩きされる年齢で驚くことではない。逆に「引責」辞任が先行き、組織の功労者となる可能性もある。
香澄:北朝鮮などの専制社会では、引責すなわち機関銃で身体をばらばらにする処刑を意味するから、自分から「警備対象への襲撃を防げなかったのは私の責任です」とは言えない。
先に挙げたように警備が難しいのが民主主義社会の特質。軽々に「引責」という言葉を使うべきではない。要人警備に名を借りて、その行動を警察が規制し、聴衆など一般国民の行動監視が強化されれば、プーチンの古巣のKBGのような思想警察組織が日本社会に出現しかねない。
輝明:警護があることで要人襲撃の企みを未然防止できていることは明らか。しかし絶対ゼロにはできない。動員できる警察官の数も限られる。効率的な警備が求められている。
安部さんは所信が明瞭な政治家。政治信条で相容れない者からの反感は大きかった。「安倍をぶっ殺せ」アジる勢力がいた。それに迎合して襲撃実行を企む者がいるはずと、放任していいのかと眉をひそめる声はあった。今回の実行犯の供述に引きずられて、国民の憤激は別方向に向いている。
安倍さん襲撃が政治信条を理由にしたものだったらの想定で警備のあり方を見直すのでなければ、民主主義者であった安倍さんの霊が浮かばれない。
香澄:安倍さんに対する誹謗中傷であれば何でも許されるとの風潮があったのは事実。その行き過ぎへの対処もまた民主主義を守るうえで重要なことだわ。政治信条を理由にその人への襲撃は正当化されるような風潮を煽るのは、本来の民主主義者のすることではない。言論の自由の保障は民主主義者に対して与えられるもので、民主主義をつぶして日本を専制社会に引きずり込みたいとする者は排撃されなければならない。それが日本国憲法の心髄。ただし民主主義者かその仮面をまとった偽物かの判別が難しいのが現実。
輝明:警察庁長官は 「引責」を強調しているけれど、どの部分で自分の行動に不足があったと反省しているのか、そこがわからない。「権限を逸脱するかもしれないが」との前置きをして、「一部の安倍叩き言論は目に余ります。これを放置したならば、いずれ襲撃に発展しかねません」と警告していたら、7月8日の惨劇を防げていたかもしれない。その心残りが「引責」理由ならば納得できないこともない。
そうではなく「引責」を機に要人警備権限を警察庁に集中させたいというのであれば、組織の権限拡大の宣言であり、地方分権破壊の試みに見える。
香澄:警察庁に権限集中していたら安倍さん襲撃を防げたとするのは疑問よね。官僚組織では地位が上がるほど、前例踏襲や形式バランスに傾く。元総理相互で警備に差があっていいのかとなりかねない。奈良県警本部長の不手際は、政治家個々への襲撃確率などに分析を欠いたこと。想像性がない者に組織運営を任せられない。
輝明:政府要人の警備は特殊な分野。アメリカの警備(シークレットサービス)部門は警察ではなく、財務省の管轄下にある。警備に政治配慮は無用。予算内で要人個々に応じた最適警護を尽くす。これに特化した単独組織がよいのでは。
香澄:襲撃の可能性は要人ごとにさまざま。その分析が出発点だから科学的要素が大きい。麻薬・覚せい剤犯罪に特化した麻薬取締官事務所という警察とは別個の組織がある。要人警護も同じように考えるのがよさそうね。多方面からアイデアを募集し、望ましいシステムを検討するべきだわ。
輝明:思想信条の自由と政治テロの防止。政治家は国民と身近であるべきだし、身の危険を防げないとなれば委縮してしまう。塩梅が難しい。来月に予定されている国葬において、岸田総理が居並ぶ各国の要人を前に「これぞ民主主義社会での警護体制というものを構想して安倍さんの墓前に報告します」と演説すればインパクトがありそうだ。

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