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658偽議員バッジで国会侵入 顔パスの功罪

‐‐‐ 偽の国会議員バッジをつけた男が8月下旬に国会議事堂に侵入していた疑いがあることが10日、関係者への取材で分かった。この男は東京・霞が関の外務省に侵入したとして8月に逮捕され、他の中央省庁への侵入も判明。民間警備会社などが守衛にあたっている国家の中枢で、セキュリティチェックの甘さが露呈した格好だ。安部晋三元首相銃撃事件後、警察は警護要則を全面的に改めたが、要人や国家中枢の警備体制の「隙」が再び浮上した。‐‐‐
以上は8月11日のある全国紙記事のリード部分。
記事によるとこの男は22歳で職業不詳の日本人。国会議事堂のほか、厚生労働省、経済産業省、国土交通省にも、スーツの襟に議員バッジを着けてビルの正面玄関に表れ、身分証提示の要請や手荷物検査など、一般来訪者に求められる手続きいっさいを省略、堂々と館内に入っていたという。
なぜそんなことをしたのか。彼は館内のだれかに会いたかったとかなどの特定目的はなく、“顔パス”で敬意をもって迎え入れられる「偉い人の気分」を味わいたかったとのことだ。なので館内では執務室などに立ち入ることなく、廊下などを歩き回っていたという。その不自然な行動が館内の監視カメラに捕らえられ、「建造物侵入」容疑で警視庁に逮捕された。外務省内の監視カメラと、その映像で不審者と判断した守衛の直感がなければ、無断侵入が明るみになることはなかった。国会議事堂やその他の中央省庁では、今になって監視カメラの映像を見返しているところだろうか。
この男はたまたま逮捕されたが、同様のことをしているよからぬ輩はどの程度いるのか。この男が身に付けていた議員バッジはネットで購入できる偽物とのことだ。つまりだれでも、日本人でなくても、人間の姿かたちをしていれば、だれでも入手できる。そして国家中枢部に自在に入れる。悪意を持つ者が同様の手口で侵入したら、「大臣を襲うことも可能であった」と警察幹部が記者に述べたと記事にある。
プラスチック時限爆弾をトイレなどに仕掛けて館外に出れば、自分の身は安全、事後に逮捕される恐れはない。館内の監視カメラシステムごと吹っ飛ばせば、自分の姿映像を消せるし、残っていても昨今はコロナでマスク装着。だれにも顔全体を見せていないのだから追及の手が及ぶはずがない。さらに外国人であって、犯行後にさっさと母国に逃げ帰っていれば万全だ。
何を言いたいか。国家の中枢機関でのセキュリティ・システムは、一般国民の政治からの遮断としては機能しているだけが、肝腎の悪意を持って破壊行為を企む勢力に対してはまったくの無防備になっている。偽の議員バッジをスーツの襟元につけることで、いっさいのチェックを免除されるのだから。
 
ではどうすればいいか。まず“よくない方法”から述べよう。「議員を特別扱いするからよくない。議員にも一般市民同様に、身分証明書の提示と手荷物検査と訪問先部署への確認を厳格実施するべきだ」。こういう意見が出てくるだろう。だがそれは代議制民主主義の形骸化につながる。
議員は国民が選んだわれわれの代表。中央省庁にアポなしで入っていく権利があるはずだ。われわれ有象無象の庶民とは違う。事前アポなしで議員がやってくることがあるという緊張感は必要だろう。それが“顔パス”の意味のはず。
逆説的かもしれないが、ここは“顔パスの徹底”があるべき方策だと考える。守衛が訪問議員に「ご用件は?」と聞くと、「自分を知らないのか」と叱責する議員がいると記事は(批判気味に)書いている。ここが肝腎。議員本人であると確認できれば、手荷物検査など省略すればよろしい。まさか国会議員が大臣を殺しに来るとか、館内に時限爆弾を仕掛けにくるはずがない。だって代議制民主主義社会での国民代表(憲法前文でそう定義されている)なのだから。
そこで「自分は議員である」と名乗る(つまり襟元の議員バッジを示す)相手については“顔パス”で通す。そのためにはマスクを外してもらい、顔全体をしっかり観察して当人であることを確認する。守衛に自信がない場合は配布されている『議員要覧』の顔写真と見比べる。もちろん「議員全員の顔が頭に入っていないので申し分かりません」の言葉を添えて。
人間の感覚だけでは間違いもある。そこで背後の防犯カメラで撮影し、コンピュータで議員本人であるかを照合する。たいがいは一秒以内で済むだろう。
これならば議員の「自分を知らないのか」の叱責を受けることもないだろう。そしてこれでもすり抜けて侵入する者がいて事件が起きた場合、守衛の責任を問うことをしない。その事件での被害者は、民主主義実践の犠牲と考えることにする。そして再発防止のためにシステム改善を考える。イタチゴッコになるが、しかたがない。
ところでこの男が問われている罪科は住居侵入罪とのこと。刑期は懲役3年“以下”。軽すぎないか。議員の身分を詐称したわけであり、民主主義の根本を侵す大罪のはず。内乱や外患誘致など国家の統治機構や安全保障に関わる案件だ。議員身分詐称罪(仮称)を設け、3年“以上”の懲役など下限を設けた罰を与えるべきだと思う。参考までに殺人では死刑又は無期もしくは5年“以上”の懲役と下限設定されている。わが憲法の趣旨に照らせば、代議士を僭称する者の罪はこのうえなく重いはずだ。

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