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610南の島への関わり 忘却するのは無責任

ロシアのウクライナ侵攻の陰で着々と進むのが中国のアジア・太平洋地域での進出。その重点対象になっているのが太平洋島嶼(しょ)国と呼ばれる国や地域。
 それぞれの島の陸地面積は小さいけれど、多数の島々から構成されるから、周囲の排他的経済水域は非常に大きい。日本とオーストラリア、オーストラリアとアメリカの間の通商路にあたるので、ここを抑えられれば環太平洋の民主主義陣営の結束に甚大な影響を受ける。それで中国がさまざまな工作をしている。
 中国はじわじわと経済進出し、関係を強化したら台湾との国交断絶を強要する。この地域でもかなり成功している。そして頃合いもよしと判断して、先月末には中国の王毅外相が、国交を持つ国々をフィジーに集めた第2回中国-太平洋島嶼(しょ)国外相会議に参加して、安保・経済協力の協定をまとめる手はずになった。
 ただし上手の手から水が漏れ、事前に協定案が漏出したから民主主義陣営は騒然となった。債務の罠などにより中国の影響圏に飲み込まれる懸念が当時国の国民に広がって、この会議での協定成立は見送りになった。専制国の習性で簡単に引き下がることは期待薄であり、いっそうの警戒が必要とオーストラリアやアメリカは気を引き締めている。

協定案で予定されていた「包括的開発ビジョン」には、中国が太平洋島嶼の国々と安保協力関係を結び、中国式の公安鎮圧警察体制を組織することが盛り込まれている。サイバーセキュリティ問題などネットワーク協力の強化、中国による各国との政治的関係拡大、海図の作成、天然資源への接近権拡大なども含まれている。見返りとしてこれら諸国への中国からの数百万ドル規模の支援、中国との間での南太平洋諸国FTA(自由貿易協定)の展望や中国市場に対する接近権なども盛り込まれていた。ゆくゆくはこれら地域一帯を、中国の属領にするつもりなのだろう。
これは冗談ではなく、例えば地域国の一つバヌアツでは中国系国民が急増中だ。同国では財政対策として国籍を一人1400万円で販売しており、それが最大の政府歳入源。これに目をつけた金持ち中国人が続々と取得し、バヌアツ国籍者として経済活動をしている。在住は国籍取得条件になっていないし、法人税・所得税もない。中国本土や香港に居住したまま、投資をして、荒稼ぎを送金させているわけだ。国民だから政治権限を持つ。人口比でも支配力を得れば、中国支配からの脱却は不可能になる。
https://www.asahi.com/articles/ASN931H71N8XUHBI00T.html

またソロモン諸島でも2019年に唐突に、外交関係を台湾から中国に切り替えている。その後、親中政府への抗議行動が起きると、今年4月にはその抑圧のために、中国の軍や警察の派遣を要請する合意がなされた。
バヌアツやソロモン諸島は地図で見るように、オーストラリアとは目と鼻の先。ソロモン諸島で起きていることの衝撃で、政府の対中国対策が甘すぎたとして5月の総選挙で政権交代になった。

すべての国が中国傾倒ではなく、フィリピン、台湾、日本に近いパラオ共和国などは、中国の餌に飛びつかず、台湾を含む民主主義側との関係を重視している。

そうした情勢の中でまったく目立たないのが、日本の外交力。アメリカ頑張って!オーストラリアしっかり! と声援しているだけにしか見えない。
これら地域は大きくメラネシア、ミクロネシア、ポリネシアに分けられる。そのうちミクロネシアのパラオ共和国、ミクロネシア連邦、マーシャル共和国の各独立国やアメリカ領のマリアナ諸島は、第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約によって日本の委任統治領となった経緯がある。1922年に南洋庁と支庁が設置され、1945年まで日本が合法的に統治していたのだ。今はこうして史実は学校で教えないのだろうか。こうした歴史もあり、総じて住民は親日である。この地域の政治的安定や国民生活の向上に、日本がアメリカやオーストラリアと同レベルで関与する責任があるように思える。

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