838 骨太方針 実現可能性に疑問大きい山陽新聞社説 2023年6月17日

 一般国民の疑問は以下の社説とまったく同じ。

 政府の骨太方針の問題点を指摘する。

 コロナ対策で不用意に膨れ上がった歳出構造を平時に戻す。当然のことだ。わざわざ書くまでもない。

 平時に戻しても年度予算は100兆円規模である。税収はこれよりはるかに低い。赤字国債依存の予算編成。平時に戻すというのであれば、財政法の原則に戻り、税収の範囲内に歳出を抑え込まなければならない。

 そうしたなかで少子化や防衛費で経費増が求められる。その新財源を岸田総理は示さない。そのうえで国民の新たな負担増はないという。どうしてそんなことが可能なのか。方法があるなら国民に示せ。

 他の歳出費目を削るという方法はある。予算は単年度で編成される。補助金などの類は政策効果が上がれば必要なくなるはずであり、ゼロべースで査定すれば、防衛費の上乗せ数兆円程度は捻出できるのだ。ところがいったん組んだ補助金などが既得権益化することで予算内容の新陳代謝が進まない。

 財務省は財政健全化を口では唱えるが、彼ら自身が既得予算の権益を享受しているのだ。この点に切り込むというのが岸田総理の腹案であるとすれば「頼もしい」宰相ということになるのだが、果たしてそういう肚があるのかどうか。

 昔のサラリーマン歌謡曲にこんなのがあった。サラリーマンが妻や子どもに、これを買ってやろう。あれを買ってやろうと、大盤振舞の約束をしている。さすがお父さんはすごいと家庭内での人気は上々だ。「ところでその財源の給料はいつアップする」と一人が聞く。

「そいつが分かれば苦労はない」。これが歌のオチ。

社説本分

 書き込まれた中身の実現可能性を疑わざるを得ない。

 政府は、経済財政運営の指針となる「骨太方針」をきのう、閣議決定した。新型コロナウイルス対策で大きく膨らんだ歳出構造を「平時に戻していく」と縮小方針を掲げたのが特徴である。

 国の一般会計歳出は2019年度以降、5年連続で100兆円を上回り、借金に当たる国債の発行残高は1千兆円を超える。コロナや物価高騰の対策によって極度に悪化した財政の立て直しが急務となっている。一方で、骨太方針には巨額の予算を伴う少子化対策と防衛費増額が柱に据えられている。

 岸田文雄首相が年明けに表明した異次元の少子化対策は「最も有効な未来への投資」と位置付けた。先日決定した「こども未来戦略方針」では児童手当の所得制限の撤廃や育児休業給付の引き上げといったメニューが並び、24年度から3年間の集中対策期間に年3兆円台半ばの追加予算を投じるとしている。

 少子化対策が必要なことに異論はない。問題なのは裏付けとなる財源の確保策が不透明なことだ。歳出削減や社会保険料への上乗せを念頭にした「支援金制度」などが浮上しているものの、結論は年末に先送りされた。首相は以前から骨太方針までに子ども予算倍増の大枠を示すと繰り返していただけに、肩透かしの印象が否めない。

 防衛費の増額も同様だ。政府は昨年末に23年度から5年間で計約43兆円をつぎ込むことを決めている。現行水準から増額分となる約17兆円は歳出改革や税外収入、決算剰余金、増税などで賄うが、税外収入は国有ビルの売却など一度きりの財源も含まれるため、安定的に確保できる財源とは言い難い。増税は自民党の慎重論も踏まえ「24年以降」から「25年以降」に実施時期の先延ばしを示唆した。

 看過できないのは、財源が曖昧なまま首相が予算の「規模ありき」で政策を打ち出していることだ。少子化対策で首相は5月末の会議前日に5千億円の上積みを指示し、省庁幹部が「財源をどこから持ってくるのか全く分からない」と困惑したという。首相は「国民の実質的な追加負担を求めない」と説明するが、にわかには信じられない。

 骨太方針で大型政策を盛り込む一方で、国と地方の基礎的財政収支を25年度に黒字にするとした財政健全化の目標は「旗を降ろさない」と維持する方向を明記した。24年度には取り組み状況を検証する。だが、内閣府の今年1月時点の試算によると、高い経済成長を実現すると仮定した場合に25年度の収支は1兆5千億円の赤字となる。目標達成は極めて困難だ。

 

 財源議論に踏み込まないまま、実現可能性が疑われる政策を打ち出す首相の姿勢は国民に対して不誠実と言わざるを得ない。しっかりと説明責任を果たすべきである。

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