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国民年金保険料をなぜ払わない

国民年金保険料を納付するのは20歳から59歳まで。年金財政が厳しいのであればもっと長く、例えば64歳まで納付させることにすればいいのではないか。そういう議論が国の審議会でされていることを紹介する福祉民友新聞の社説(2023.12.20)。
便宜上、社説の論説事項にAからDの番号を付した。順次論評しよう。
Aでは保険料納付年齢を64歳までに引き上げることで納付年数の5年延長を狙っている。40年間が45年間になれば1割ほどの財源増になるというのだろう。ならば20歳の方はなぜ18歳に引き下げないのか。そうすればさらに2年間分の増収が見込める。
想定される反論は「18歳になるのは高校3年在学中。ほぼ義務教育化している高校生に保険料を負担させるのか」だろう。そこに視点が行くことが重要なのだ。各自の誕生日から保険料納付開始になるのが実態に合っていない。就職は学卒時に一斉であるのがわが国の特色。そこで18歳の4月からとすれば、保険料納付開始と時期が重なり、実務も含めて簡便で国民にも理解がしやすくなる。
保険料納付の終期も同じで、多くの企業では定年は年度末の3月だ。同期入社組の一斉定年に合わせる意味でも65歳の誕生日前月までではなく、65歳到達後最初の3月までをもって保険料納付終了とするべきだろう。

Bでは基礎年金の半額が国庫負担であることを述べている。実はここが大問題なのだ。高度経済成長期で国に自然増収という打ち出の小槌があった時代の感触を忘れられない者たちが、基礎年金国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げた。だが国庫負担は今では税金とは言えない。国債収入という将来世代への借金が基礎年金国庫負担の財源なのだ。これは常識的には”禁じ手”だろう。「国民年金制度ができた時から国庫負担(3分の1)はあったよ」というだろうが、その頃には財政規律が守られていて赤字国債は発行されていなかった。つまり国庫負担は純粋に税収であり、税金は高齢者も払うから、現役のみが払う保険料と違って全世代負担の色彩が濃かった。要するに生まれてもいない将来世代に負担を先送りする考えはなかったのだ。

Cでは世代間扶養すなわち賦課方式の仕組みがおかしいという。この指摘をするならば論説委員はもっと勉強すべきだ。国民年金の出発時には積立方式だった。同世代内で均等に保険料を積み立て、長生きして生き残った者のみが受け取る仕組みだったのだ。国庫負担も保険料納付額に対応して振り込まれた。これがなし崩し的に世代間扶養方式に切り替えられた。保険料徴収を先送りしたいと厚生省と、国庫負担繰り入れを先送りしたい大蔵省の悪しき意図が合致したから。立法者たる国会は異論をはさまず、唯々諾々と法律改正に応じた。この経緯を踏まえているのか、社説の切込みは甘い。

Dがもっとも重要な部分。しかし踏み込みがない。まず年金額6万6千円で話にならないのは指摘のとおり。国民年金の典型的加入者である当時の農家では当人が90歳のときには60代の息子と30代の孫が生業を継いでいるイメージだったから、じいちゃん、ばあちゃんの年金はひ孫への小遣い用だった。ところが時代が変わって今では基礎年金が基本生活費。3倍の20万円くらいが望ましい。「そんなの不可能」とはお役人の発想であり、主権者の国民としては法律をどう変えるかを考えることができる。「65歳から年金支給に繰り下げられた」と社説は書くがこれも間違い。国民年金は最初から65歳支給。繰り下げられたのは厚生年金で55歳から65歳へと10年遅くなっている。高齢化を踏まえて、基礎年金の支給開始を75歳に繰り下げたら、あるいは80歳に、この際思い切って85歳に…。というように思考実験すればどうなるか。年金が必要なのは生き残っている人のみ。そういう制度趣旨だから基礎年金には厚生年金と違って、幼少の子以外への遺族年金はない。超長命になった人にこそ生計費歩保障をするという考えで支給開始年齢を目いっぱい繰り下げる。そうすれば年金額3倍増に加えて、保険料を半減、国庫負担の軽減と三位一体を実現できるのだ。頭を柔らかく、現行制度に縛られなければ可能なのである。超高齢になれば病気や要介護が切実になるが、潤沢な基礎年金で当人に十分な資力があれば、医療保険や介護保険の自己負担分を払える。

≪新聞社説≫
【年金制度の見直し/将来の不安払拭する制度に】
A 厚生労働相の諮問機関、社会保障審議会が国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を現行の20歳以上60歳未満の40年間から、65歳になるまでの45年間に延長する案を議論している。狙いは、財源を増やし、受け取る年金の水準低下をできる限り抑えることだ。
 委員の多数は納期延長に賛成意見を述べている。政府が2025年の通常国会への提出を目指す関連法改正案には、延長が盛り込まれる公算が大きくなっている。既に国民年金の支給開始年齢は65歳まで引き上げになっている。60~64歳の男性の8割、女性の6割以上が働いている。基礎年金のみ受給の人の負担が増えるなど、検討すべき課題はあるものの、こうした働き方の変化を考慮すれば納期の延長は避けて通れまい。

B 基礎年金は国民の支払う保険料と同額を国が拠出しており、納付期間が延びれば、国の負担も増える。5年の納期延長で追加負担は40年度時点で1兆7千億円が必要となる。審議会では加えて、厚生年金の加入者と事業主が拠出している財源の一部を基礎年金に充てるとの案も出されている。 基礎年金で国が拠出する財源を安定的なものとするには、増税などの対応が避けられまい。厚生年金の加入者は、自身の支払う保険料が基礎年金に充てられることへの拒否感も強いだろう。公的年金の財源については、現役世代の負担が過大とならないように配慮しつつ、これまでの負担に応じた支給が受けられるようにしていくことが重要だ。

C 現行の公的年金は、いずれも現役世代の保険料をその時の高齢者の給付に充てる「仕送り方式」だ。この方式を取ることで、人口が増加する時代は物価や賃金の上昇に対応した給付が可能だった。しかし、現役世代と高齢者のバランスが崩れ、この方式では十分な支給が難しくなりつつある。また、核家族化で家族間の扶助機能が下がったことなどにより、公的年金への依存度も高まっている。

D 基礎年金の現在の月額は満額で約6万6千円にとどまり、年金のみで生活できる水準ではない。
 国はこれまで、保険料の上限を固定し、支給額を抑制する「マクロ経済スライド」を導入し、厚生年金の加入要件緩和などの対策を進めてきたが、国民の将来への不安を払拭できていない。財源や負担割合の議論と並行し、高齢化が進む中での医療負担や、困窮世帯へのケアをどうしていくのかなどを含め、全ての人が安心して暮らせる社会をどう構築するのかを考える必要がある。

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