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533客人それとも出稼ぎ労働者? 技能実習生への暴行事件

情けないことだが、この国はどうして原理原則に無頓着なのだろう。
新聞報道(2022.5.19)によると、「外国人技能実習生が勤務先の岡山市内の建設会社で暴行を受けたと訴えていた問題で、古川法相は18日の記者会見で、同社の技能実習計画の認定を取り消したと発表した」。法相は会見で「実習生に対する暴行などの人権侵害行為は決してあってはならない。技能実習制度の適正な実施を徹底していく」と述べた。(傍点は付け足した)。
 暴行の内容は「ベトナム人の実習生は2019年10月に来日してから約2年間にわたり、日本人の複数の社員から背中や腰を棒でたたかれるなどした」とのことだ。
認定取り消しは出入国管理庁と厚生労働省が行い、同社は今後5年間、実習生の受け入れができない。「男性と同社で働いていた他の実習生は、別の受け入れ企業で実習を続けられるよう調整している」。
同庁は「(実習生の)管理団体の対応に問題がなかったかも調査する」そうだから、本気で監察してもらいたい。悪質、いい加減なものがゾロゾロ見つかるはずだ。

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記事はこのベトナム人を労働者として捉えている。それがヘンだ。技能実習生とは、実習のために来ているはずだ。いうなれば位置づけは留学生のはず。ベトナム人は暴力を振るわれたことを不法としているが、目的の技能習得は成果が上がっていたのか。技能の本来の言葉感覚からすれば、先輩の作業を見て学ぶ要素が多いはず。熱心な指導者では、覚えが悪いと思わず手が出ることだってあるだろう。そこで「熱心のあまりか」それとも「明らかに行き過ぎか」が問われるはずだが、法相の記者会見ではただ「暴行は人権侵害」で片づけ、指導成果についての記述はない。実習生ではなく、労働者(労働基準法の対象)と捉えているからだろう。
今さら言うまでもないが、わが国は「単純労働者の越境出稼ぎを認めない」のが国是。シンガポールやアラブ産油国などのような、出稼ぎ労働者を底辺労働者とし国民とは別扱いする方針を採らない。「国民総活躍施策」で老いも若きも、男性も女性も、健常者もそうでない者も、それぞれができる分野で能力を発揮し、前向きに社会参画しようとしている。これと国際的出稼ぎを不要とする社会なのだ。
外国人を受け入れるのは、該当能力を満たす上級技術国民が不足している分野に限られる。そこで在留資格の付与には、受け入れる範囲と共に、能力を示す学位などの条件が課されている。この方針が正式に変更されたとは聞かない。
しかし現実にはこの国是がないがしろにされている。原則を変えることなく、姑息な手段で抜け道を作る。要するに無原則なのだ。その一つが技能実習制度。留学生制度もそうだ。わが国の学術に刺激を与えるための研究者やその候補者の来日は歓迎だが、留学生の名を借りた出稼ぎ労働目的の者が大挙流入している。コロナの入国規制でようやくそれが途切れ、日本人学生にアルバイト先が回ってきて、日当アップの条件が満たされてきた。それなのに入国制限を緩和せよとの声を挙げる業界団体や企業がある。
国内で必要な労働力は国内で調達する。それによって労働需給がバランスし、岸田総理が目指す国民の賃金アップが可能になる。GDPの観点からも、出稼ぎ労働者やアルバイト専門留学生は、賃金を本国送金するだけでなく、国内福祉制度を利用する。国民健康保険などの実態を見よ。かくして国民の所得や資源は奪われる。
わが国は民主主義、国民主権の国家のはず。そしてこの場合の国民とは文字通り、国籍を持つ者。国民の定義は「法律で定める」と憲法10条は規定する。カネ稼ぎのために一時的に滞在する者を「国民に含める」のが正しいとの突飛な発想は、あの鳩山由紀夫氏でも言いづらいだろう。
佐渡金山のユネスコ登録に関して、例によって「日本の強制労働」を言い募る隣国がある。政府の説明では「そういう事実はない」とのことだ。なばら「個別のひとりごとに事実認定をしよう」となるはずだが、人権を持ち出されると日本政府は腰が引けるようで心もとない。慰安婦のように個別検証もせずにズルズル譲ることになりかねない雰囲気だ。
技能実習も位置づけを明確にしておかないと、30年後、50年後に「日本政府公認による奴隷労働であった」と騒がれることになるだろう。目先に低賃金労働者を求める企業、仲介手数料で荒稼ぎを狙う監理団体の責任者の自覚度を国会参考人質疑などで質す必要がある。野党の出番ではないか。ここで攻めれば、岸田流のウナギ答弁術も窮するはずだ。「技能実習生の滞在目的は、技能の持ち帰りか、賃金の持ち帰りのいずれか」と質せばいいのだから。これが第一問。返答ぶりで第二、第三の追及はより厳しくなる。

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