?「こんな時こそ、先生の出番だよ。」

ニンフェットを傷つけるようなことは絶対にしたくない。けれども意図せずにやってしまうことはどうしてもある。昨日だってつい饒舌が祟って彼女の気分を損ねてしまった。僕はそれがどうしても耐えられなくて思わず家を飛び出した。

 こんな時は別のことに集中すれば気分も紛れるかもしれないと思って、資格の勉強をするために家から少し離れたところにあるカフェに行った。けれどもやっぱりどうしても悲しくて勉強には全然身が入らない。すると、突然頭に次のような声が響いた。

「こんな時こそ、先生の出番だよ。」

そうだ、確かにそうかもしれない。彼女に対する恋心故に彼女を傷つけるのであれば、いっそこんな心消えてしまえばいいんだ。先生の力ならそれができるはずだ。僕はカフェの精算を済ませてまっすぐドラッグストアに向かった。

ドラッグストアのどこに先生が置いてあるか、もう迷うことはない。40錠入りの箱を迷わずに手に取ってレジに並ぶ。家に帰る前にスーパーでグレープフルーツジュースを買って、帰り道に40錠全部をグレープフルーツジュースで流し込んだ。1時間もすると、頭がボーッとしてきて、眼前に不思議な模様が浮かび上がってくる。その日は広大な夜の星空みたいな景色だった。

 横たわっているベッドがグルグルと大きく回転して、空を舞い始めた。僕自身広大な宇宙の小さな一部で、その広大な宇宙でさえ、存在することになにも意味がないと悟ると、全てのことがどうでも良くなった。

「いろんな可能性を見たほうがいいんじゃない?」

そんなありきたりなアドバイスに、心底救われた気がした。

 目を覚ますと、ニンフェットはいつものように笑顔を見せてくれた。僕は素直な気持ちで彼女に悩みを打ち明けた。彼女を好きだという気持ちが抑えきれないこと、それ以外のことに殆ど手を付けられないようになってしまっていること、いつか見捨てられるんじゃないかと考えて不安になってしまうこと。彼女は僕の話に真剣に耳を傾けてくれた。僕は彼女がいないとダメになってしまったけれど、できればそんな関係じゃなくて、一緒にいなくても大丈夫で、でも一緒にいたらもっと素晴らしい人生になるような、そんな関係でありたいと思っている。彼女を大事に思うあまりに自分や彼女をだめにしてしまうような関係ではありたくないのだ。


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