ロシアのプロパガンダ

ロシアによるウクライナ侵攻から2年が経とうとしている。プーチンが停戦に前向きな姿勢を示しているとする情報もあるが、依然として先行きは不透明である。

 開戦の2022年2月24日、SNSでまずその情報を知って衝撃を受けたことを覚えている。それからは授業もロシアによるウクライナ侵攻一色に変わって、侵攻の理由とかを色々議論したのを覚えている。このときすでにロシア側の主張はただのプロパガンダであるという風なところは前提として成り立っていた。もちろんNATOやウクライナ側に問題がないとは言い切れないものの、基本的にはウクライナ支持という立場が大半だっただろう。ロシアからの情報を馬鹿正直に受け取る人はごく少数だったはずだ。

 ところが中には「ゼレンスキー政権はネオナチ」とする主張をそのまま信じている日本人もSNS上には少なからずいた。日本に住んでいたらそんなことはありえないというのが一般的な発想だろうが、世の中にはやべーやつもいるものである。彼らはどうしてロシアのプロパガンダを信じてしまうのだろうか?

 データサイエンス系の鳥海先生がこれに関して興味深い事実を明らかにしている。それは「ウクライナはネオナチ」というロシアのプロパガンダを拡散しているアカウントの9割が過去に反ワクチンに関連する投稿も拡散していたということだ。反ワクチンといえば頭のおかしい陰謀論とみなされている主張群で、中にはワクチンにマイクロチップが埋め込まれていて、ワクチンを接種すると5Gで政府に監視される、とか言っちゃってる奴らまでいる。SNS上でロシアのプロパガンダを信じているやつを見つけたら、90%の確率で反ワクということになる。

 しかし、じゃあどうして親露派の連中は反ワクなのか?という話になる。直感的にはメディアリテラシーの低い「騙されやすい人達」という一言で片付けられそうだが、騙されやすいのであれば日本のマスメディアの情報をそのまま信じていそうなのに、そこはなぜか反対の主張を支持しているわけだ。

 ここには陰謀論という要素が重要な役割を果たしている。陰謀論というのは、ある重要な社会的出来事の最終的な原因を、権力者たちによる陰謀によるものだと説明しようとする主張のことで、反ワクチンで言えば「政府によって監視される」とか「コロナは医療業界が金儲けするための茶番だ」とかいう主張が陰謀論に該当する。だいたいこういう主張は科学的っぽい根拠を上げているが、もちろんそれらの根拠は全部科学的に否定されている。

 で、この反ワクチン、実はロシアのプロパガンダにも利用されているのである。国営放送で堂々と「ワクチンはビル・ゲイツによる人口削減計画だ。」ということを言ってしまっている。さらにいえば911同時多発テロに関する陰謀論(アメリカ政府はテロを知っていたのにわざと見過ごした)みたいなものもプロパガンダとして利用していて、反欧米的な主義主張を裏付ける根拠にしていた。

 ワクチン陰謀論者からすればロシア国家という権威が自分たちの主張を権威づけてくれるありがたい話だが、一般人の我々からすれば大迷惑な話だ。

 当然特殊軍事作戦におけるプロパガンダも、陰謀論ないし、それに類似する特徴を持っている。ウクライナ政府はネオナチで、東部ロシア系住民の虐殺を止めるための解放戦争だ。」という主張は、自分でやった侵攻の最終的な原因をウクライナとかNATOとかに帰している。

 ちなみに、ある陰謀論を信奉するものは、別の陰謀論も信奉しやすいということが統計的に明らかになっている。さらに彼らには、共通の心理的特徴が見られることも示唆されているのだ。

 一応実証研究として、反ワクのSNSアカウントを100個調べた。100個中37個はロシアのプロパガンダをそのまま信じて、やれディープステートだの、レプティリアンだの、わけのわからない陰謀論の根拠付けに使っていた。ちなみに信じているかどうかはわからないが親露的なアカウントが15で、残りはロシアウクライナ関連語彙のヒットがなかった。信じいないと見られるアカウントは17程度あったが、これらは俗に言うネトウヨである。

 結論として言えば、日本でロシアのプロパガンダを信じた奴らは、陰謀論の一つとしてそれらを取り込んだということが言える。こんなくだらない話もないとは思うが、逆に荒唐無稽な陰謀論を対外政策のプロパガンダに採用しなければならないロシアのオワコンぶりがわかる。普遍的な正義を掲げられないからこそこういう陰謀論をプロパガンダに採用してしまうわけである。プーチン政権も地に落ちたというお話でした。


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