見出し画像

【感想】舞台『眠れ』

2022年5月8日 space korallionにて行われた 自由落下企画第三回公演『眠れ』を観てきました。

普段お笑いの舞台しか観に行かない人間なので、お芝居の舞台は新鮮で、いろいろと発見や思うところがありました。

なので、感想というか、ほぼ覚書として以下を記します。一日経って書いているので誤りや抜けはあると思います!

・場所について

space korallionは木や漆喰といった温かみのある素材を基調とした落ち着いたカフェのような箱。舞台には椅子やソファーが配置され、その足元に演者の名前が予め提示してある。一帯が木のような匂いに満ちていて、全体は仄暗く、天井に下がっている明かりは月のようにも見える色合いだった。

・『眠れ』の簡単なあらまし

白い衣装の女性七人による会話劇。タイトルの『眠れ』に示されているように観客を眠らせることをゴールとした演劇。冒頭で演者の一人からこの趣旨の説明がある。この演目は観客を眠らせるものであり、起承転結といったストーリーはないと言う。一般的に演劇を観ている観客が眠ってしまうのは演目が面白くない、演技が響いていない等と考えられ、良くないこととされる。しかし、ここでは製作側の考えとして、敢えて眠らせることを目的とすることで観客に迫ろうとする。理由は冒頭の時点で説明されていたように記憶しているが、演目の中でも何度も示されていたとも思う。

演者の一人が宣言した通り、大きな事件や何か目標があるわけでもなく、七人は何でもなさそうな会話を淡々と展開していく。そうしていつの間にか六人は眠りにつき、冒頭の一人が六人に本を読み聞かせる。読み聞かせが徐々に文として成り立たなくなり、夢と現が曖昧になる。すると、今度は本ではなくフリップを取り出して、起きている観客に黙って手を挙げるように頼み、眠っている観客を数える。そして、最後はフリップで「ありがとうございました」と沈黙のまま伝え、演者は一人ずつ黙って一礼して舞台を去った。

・繰り返すこと

単調なことを繰り返すと眠たくなるが、そうした要素が会話の端々に込められていた。「ドリームキャスト」で昨夜遊び、寝不足だと言う演者。変哲のない暮らしを繰り返す大学生をただただ眺めるゲーム「ルーマニア」。ただただ人面魚を眺めるゲーム「シーマン」。なかなか眠付けなかった演者が眠るために観ていたフランス映画「去年マリエンバートで」。そして、淡々と繰り返される会話劇。

・眠ること

眠ろうと思うとなかなか眠れなくなってしまうと演者たちは話す。眠る前になると不安が頭を巡ってなかなか寝付けない。それは暗くなるからだろうかとそれぞれが考える。人の声があれば眠りやすいと誰かが言うと、たしかに電車は眠りやすいと誰かが言う。人の声と繰り返される揺れが眠りに誘うのではないかと言う。

この演劇が眠らせることを目的としているのなら、繰り返される会話劇も揺れの一つなんだなとここで思った。

・意思の所在

六人が眠ってしまった頃、演者の一人が本を読み聞かせた。眠りやすいように難しい話を、と話し始めたのが昆虫の話だった。昆虫に意思はあるのか。昆虫は痛みは感じないと言う。親や仲間が殺されることにも反応しない。プログラミングを実行するように決まった行動を繰り返す昆虫に意思があると言えるのか。戦争時でのトラウマ対策として、痛みは感じるものの、それに恐れを抱いてパニックにならないようにする実験があったという。痛みや恐れを感じずにただ戦いを繰り返す人間に意思があると言えるのか。

本演目では、演者は開演前から予め名前が提示されている。役名はなく、名前はそのままで各々が女優であることもそのままであるが、脚本がある以上そっくりそのまま当人であるとも言い難い。では、誰なのか。先述の話を聞いた時に、舞台上の演者らは脚本というプログラミングを実行しているだけの存在ではないのかなと思った。冒頭で説明をし、終盤で本を読んだ演者はある種メタ的な立場で観客に語りかけるが、完全なメタではなく、それもまた脚本上の演出を実行しているに過ぎない。そんな彼女らだが、完全に意思がないはずもない。各々が己の意思で舞台に臨み、演技をしている。意志を持って意志の持たない役を全うしている。これが昆虫へのアンサーとなるのではないか。

・演者/観客という関係

本作はタイトルで提示されている通り、観客に「眠れ」という意思をもった演劇であった。冒頭と終盤で演者は直接観客に語りかける。舞台から客席、客の顔が見えていること。眠っているところを見てがっかりしてしまうことがあったこと。これから眠らせようとしていること。ここで結構ドキドキした。観客とは字の通り「観る」客であるが、「観られる」ことは基本的に想定していない。それが「観られて」いて、「語りかけられて」いる。単なる観客としての消費行動ではなく、演者と対峙して眠る/眠らないの勝負に挑まねばならなくなった瞬間であった。これはとても刺戟的だった。


なんかいろいろ書けそうだなと思ったけど、記憶の限界が来たのでこのへんで。たのしかった!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?