喪失
渋谷の街を歩く
東京生まれの僕は
渋谷に遊びに来るようになって40年以上
再開発の波は僕の思い出の渋谷をどんどん消去していく
いつも予備校の帰りに寄った立ち食いソバ
初めて自分のお小遣いで服を買ったショップ
初めて同級生たちと繰り出したディスコ
限られたお小遣いで名盤を探した中古レコード屋
テレビでエアチェックしたライブ映像を見せてくれた喫茶店
短い時間で必死で飲んだカウンターだけのもつ焼き屋
そのすべてが今はない
見上げる夜の渋谷は
まるで映画「ブレードランナー」に出てくる風景のようだ
僕は確かにこういう未来がやってくることを感じていたけど
決っしてそれを望んでいたわけではないことが
最近はっきり分かった
僕が知っているあの頃の渋谷の息遣いを探して歩く
たまに懐かしい臭いを見つけて嬉しくなることもあるけど
でもそんなノスタルジーはすぐに消え
新しい渋谷がはじまる
それでいい
その渋谷はまた若い誰かの青春の思い出になり
それが失われるときが来るのだから
なくなった中古レコード屋で買ったビートルズの海賊盤は
もうどこかへ行ってしまった
でもその中に入っていた曲はいまでも頭の中で再生できる
そう、あの頃の渋谷の響きは
僕の中でずっとリフレインしているのだから
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