トミーキャビンメイト

アジアからみたアジアを知る-羅針盤#4-1

✔ アメリカで,アジア人としてのステレオタイプを経験.
✔ そのステレオタイプから「アジア人としての自覚」や「アジアとは何か」を求め,東ア船へ.
✔ 自分が日本やアジアを知ると同時に,「日本を好きになってもらいたかった」.

内閣府の青年国際交流事業である「東南アジア青年の船」(東ア船)に参加した青年たちの物語を特集する「羅針盤」.今回から第4弾のスタート!

登場いただくのは,前田智美(トミー)さん.羅針盤のインタビュー連載では初の学生です!

今回は,東ア船を知ったきっかけと過去の話,そして参加前抱いていた東ア船での目標を語っていただきました.

※「東南アジア青年の船」に関する詳細は,こちら内閣府のウェブサイトをチェック!

そもそも「アジア」って何?

———宜しくお願いします.簡単に自己紹介からお願いします.

トミー:前田智美です.東京大学の教育学部実践政策コースの3年生です.趣味は野球と音楽です.

———東ア船を知ったきっかけって何ですか?

 これがものすごくダサいんですが(笑)私の弟か誰かがいたずらで,私のラインで首相官邸の公式ラインをフォローしてて(笑)それでその公式ラインからある日,「東南アジア青年の船追加募集中!4月19日まで」っていう情報が流れてきたのがきっかけです.それが応募する3週間くらい前だったんですけど,直感で「これは行きたい!」ってなって,応募しました.なのでまったくそれまで東ア船に関することは何も知らなかったし,参加した知り合いもいませんでした.とにかく,「よくわかんないけど面白そう!」って感じで応募しました(笑)

———首相官邸のラインで流れるんだ(笑)

 そう(笑)公式ラインで流れてきましたね(笑)

———そしたら結構スピード応募だったんですね.

 そうですね,大学の単位とかも全く考えずに応募したので後々苦労したんですけど(笑)まあ,でも受かるかわかんないし,受かったら縁だし,受かったら受かったで後から考えよ,って感じでした.

———具体的に何に惹かれたんですか?

 1つは,船であるってことですね.私,実は国際交流系はあまり好きではなくて,すごく表面的だなって思ってしまうことがあるんですよ.でももし,船という隔離された空間でずっと共同生活をするならば話はち違うんじゃないか,って思ったのが1つあります.2つ目は,東南アジアだったということです.私アメリカで育ったんですけど,よくAsian-American(アジア系アメリカ人)っていう風にアジア人として見られることが多かったんですね.それがすごい息苦しかったんですよ.例えば,頑張って勉強してると,「お前やっぱアジア人だわ」って言われたりとか,少しいい成績を取ると「やっぱアジア人の頭は違うね」とか.別に蔑まれてるわけではないんですけど, いろいろなことが「アジア人であること」に結びつけられるような気がしていたんです. あと,言い方が正しいかわからないんですけど,アジア人ってあんまりプライドを持てる人種ではないなと個人的に思ってしまっていて,そのコンプレックスもありました.ステレオタイプ的にアジア人として見られることと,自分の中でアジア人であることにプライドを持てない,この2つがすごい嫌だなって思ってたんですよね.でもよく考えたら,そもそもアジアのこと全然わかってないな,中国・韓国・日本しかしらないよなって思って,だからこそ一度アジアにどっぷり浸かって,アジアの素晴らしさとか,アジアの凄さとか,そもそもアジアとは何か,とかを知りたかった,っていうのが参加した目的にありました.

———でも,アジア蔑視じゃないけど,アジア人自身,自分たちを自虐してる感はありますねよ.

 そうそうそう!自虐だね.さっき言ったステレオタイプとかも貶してるわけではないから,いわゆる「差別」ではなくて,モデルマイノリティ(注)として見られてるんですよね.それでも,言われると自虐的に「いや~,私アジア人だからさ」みたいな感じになってしまう.そうするとプライド持てなくなってしまうんですよね.

———差別意識のない差別,みたいな感じですね.それはやっぱりアメリカで生活する中で,日々感じてたことなんですか?

 ずっとではないけど,やっぱ局所局所では感じるから,そのたびに自分のAsian Pride(アジア人としてのプライド)が削ぎ落される感じでした.

———なるほど.

(アメリカに滞在していた時,学校で撮った写真.最前列右から3番目がトミー.)

 あと,参加を後押しした3つ目の理由があって,これは大学に入って思ったことなんですけど,大学には自分と似たような人が集まっているな,と思ったんですよ.勉強をしてきた人とか,ある程度社会経済的に豊かな人とか,将来のビジョンが似てるような人とか.そういう似た者同士の環境にいると,私の人生が豊かにならないな、「これはダメだ!」って思って,全く別のコミュニティがほしかったんですよ.

———なるほど.ちなみにアメリカはどのくらいの期間住んでたんですか?

 5歳から高校卒業までですね.だから日本の学校に行ったことないんですよ.

———それでここまで日本語ペラペラってすごいですね(笑)

  塾とかは遠くて行けなかったんですけど,大使館で無料の教科書配ってるので,それ使って母に教えてもらってました.

(弟と一緒に漢字を勉強してる様子.)

———なんで大学のタイミングで日本に戻ってこようと思ったんですか?

 日本に戻ってきたのは,一度日本を経験しておきたいなというのが大きな理由です.1回ここで日本に帰って日本に拠点を創ろうと思ってました.多分あのままアメリカの大学に進学してずっとアメリカにいれば,完全にアメリカ人になってたので.

「日本を好きになってもらいたい」

———東ア船知った時は,東ア船に対するイメージはどんな感じでしたか?

 もっと堅苦しいものかと思ってました.チアーとか,ナショナル・プレゼンテーションとか文化祭チックな側面があるんですけど,もっと外交的なものかと思ってました.ずっと日本にいなかったのに,日本代表って大丈夫かな(笑)って不安でしたね

———まあでも,十分堅いとは思いますけどね(笑)あれはあれで.

 まあ確かに(笑)チアーとか,パフォーマンスを披露する機会がたくさんあるけど,やっぱり政府の事業だな,って感じはありますよね.

———東ア船乗る前に,「船でこれをやりたい!」みたいな個人的な目標はありました?

 個人的な目標は4つあって,まずアジアを知ること.そして日本を知ること.3つ目は,とにかくいろんな人と出会うこと.最後に日本を好きになってもらうこと.船に乗るまでは,歴史的背景を考えると日本って東南アジアにあんまり好かれてないだろう,ていう印象を持っていたんですよ.私は日本について教えられることは少ない,むしろ教わるような人だけど,もし日本人である私のことを好きになってもらえれば,間接的に少しでも日本に好的な印象を持ってもらえるんじゃないかなあと思って.

———日本に対する思いがすごいですね.

 そうかな(笑)なんか憧れみたいなものかもしれない.

アイデンティティの挾間での葛藤

———自分みたいに,ずっと日本にいて育った身だと,良くも悪くも日本のことについて無自覚なんですよ.自分がすべての日本国民の意見を代表してるわけではないですけど.

 なるほど.私はずっとアメリカにいて,しかも基本的には日本人一人だったんですよね.だから,それこそアニメとか,地震のニュースとか,何があっても「日本については智美に訊け」みたいな感じだったんで.

———その頃からずっと日本代表だったんですね(笑)

 そうそうそう(笑)勝手にね(笑)日本についてあまり知らないのに、小さい頃から勝手に「親善大使」みたいな想いがあったのかなあとは思います.だから,正式に日本代表になったら「これはもう日本を好きになってもらうしかない」って思ってました.

———そういう,アイデンティティの難しさみたいなものは,当事者にしかわかんないですよね.

 深く考えすぎなのかもしれないですけどね.

———それこそハーフとか,二重国籍の友達とかに話を聞いてみると,だいたい「自分の立場が分からない」って主旨の答えが返ってくるんですよ.普通に生活してる限りでは別に何ともないけど,国の問題や枠組みが絡んだりすると一層.例えばオランダに住んでた友達は,「とにかくオランダのことはあいつに訊け」みたいに思われるのが窮屈で,「オランダにいたからオランダのこと何でも知ってる」みたいなステレオタイプを持たれるのが苦しい,みたいなことを言ってました.

 アイデンティティの面で言えば,私は冷めてるかもしれない.アメリカ人だったら建国理念に誇りを持つとか,日本人だったら,おもてなしみたいな日本人らしさを誇りに持つとか,愛国心ってものが少なからずあると思うんですけど,それを冷めた目で見てるというか,どっちかに完全に振り切れないんですよね.相対化してるからこそ,そういう目線で見てしまうのかもしれないですけど.例えば日本だったら,「別におもてなしの国じゃないよね」とか,アメリカだったら「皆にとって機会の国ではないじゃん」とか,客観的にみてしまう.

———確かに相対化できてるからこその客観視はありますね.

注)モデルマイノリティ
差別をされていても教育やビジネスで成功を収めたりするなど,社会の中でも手本になる少数派の事.(参考→https://anthrojp.wordpress.com/2018/03/18/modelmoniritymyth/

>次回,#4-2「日本人らしくない日本代表に」に続きます!

(編集後記~ざーたくの戯言#4-1~)
 トミーは参加を決めた理由の1つとして,「似た者同士の環境」とは別のコミュニティが欲しかったことを挙げてましたが,実はざーたくも同じような理由でこの東ア船に参加しました.大体同じくらいの年齢の集団で,同じ文化集団で,同じようなことを勉強したり研究したりしてる人しか周りにいないと,気付かないうちに価値観が凝り固まっていくんですよね.そうすると知らず知らず視野狭窄になってしまって,どんどん異質な意見とかを受け付けなくなって「おじさん化」していくわけです(ざーたくはトミーと同じく,研究型総合大学の教育学系所属の学生ですが,教育学界隈は特にこの傾向が激しいと勝手に思ってます笑).
 そういう視野狭窄状態になりたくないと思えば,「付き合う人」か「環境」を変えるのが手っ取り早いです.これは学生目線からみた東ア船かもしれませんが,社会人の方や,国籍の異なる人たちと密に一緒にプロジェクト動かしたりすることは普段滅多にないので,トミーの言う通り東ア船は新たな「コミュニティ」としてはめちゃめちゃいい環境です.なんだか「新しいコミュニティが欲しい」だと参加理由としてあまりにも私利私欲的に感じられますが,「東ア船というコミュニティを使って何をしたいか」が明確であれば十分貢献度高く参加できる事業だと思います.

この記事がいいね!と思ったら,是非♡&(感想と共に)facebookやtwitterなどでシェアをお願いします!また,定期的に記事を更新しておりますので,フォローもお忘れなく!!twitterもやってます→こちら
※東南アジア青年の船に関する詳細は,こちら内閣府のウェブサイトをチェック!
※「東南アジア青年の船」に参加した青年たちの物語を紹介する本プロジェクト「羅針盤」に関する詳細はこちら

※本note,及び「羅針盤」ウェブサイトに掲載されている内容の一切は,「東南アジア青年の船」事業主催である内閣府の公式見解ではありません.