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人生の失敗ですら、どう転ぶのかわからないことを教えてくれるマンガ 『僕の小規模な失敗』

福満しげゆき先生の『僕の小規模な失敗』が2020年7月ごろ電子書籍化されたので、ようやく読めました。工業高校を留年して退学したり、なんとか大学に行っても通うことが苦しくなってしまうなど、作者の小規模な失敗が描かれているエッセイマンガです。

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▲『僕の小規模な失敗』52ページより

僕が本作で特に好きなのはこのコマ。大学に行くことを苦しむ自分を分析したところ、「バカなので将来が不安」と「女にモテない」というしょうもない理由しか思いつかなかったシーンです。

自分が苦しい立場に追いやられているとき、どう考えるでしょうか。他人が悪い、社会が悪いなどと責任を転嫁すれば気持ちは楽になりますが、話は進まない。一方で、自分に非があることを認めると自身のダメさを噛みしめることになってしまう。

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▲『僕の小規模な失敗』52ページより

そして、ダメさを再確認したあと無表情でつらさを感じる……と、自分の愚かさに向き合う姿が丁寧に描かれているわけですね。本人は真剣に悩んでいることがわかるし、薄暗い雰囲気になっているのだけれども、冷静に見つめているだけあってどこか滑稽になっています。

好意を持っていた女性にストーカー扱いされたあと心療内科に行って、医師にすぐ失恋だと看破されるシーンも笑えます。一方で当人にとっては深刻な問題でもあるのも理解できて、ダメさを描くのが本当にうまいですよね。

そんな福満先生ですが現在では結婚して子供がふたりいて、『妻と僕の小規模な育児』なんて育児エッセイマンガまで描いているのです。「なんだよ! ダメ人間を気取っておきながら自分もオーケンと同じような立場じゃねえか!」と怒りたくなる気持ちもわかります。ただ、『僕の小規模な失敗』では何もかもダメだったわけではないんですよね。

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▲『僕の小規模な失敗』78ページより

たとえば、好意を寄せていた女性に「どっちかと言うと嫌いかな……」と言われたあと。一度こそ電話番号の登録を消して忘れようと考えるのですが、その後にもう2度と会えないことを後悔して動き出します(また失敗するんですが)。

そして、本当にいろいろあってその女性と付き合えたあとも問題が起こります。彼女の母親が「ひとまず実家に帰っては」と強引に別れさせようとしてくるのですが、そこでも自分のために彼女を離さないと決意するのです。いやまあ、そこでうまく説得できたわけでもないんですが……。

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▲『僕の小規模な失敗』128ページより

恋人ができたあとはとにかく入れ込んでいたらしい福満先生なのですが、その最中でも自分のなかにマンガを描きたい気持ちが湧き上がっていることに気づきます。つまり、失敗こそ多いものの自分の欲しいもの・したいことに関して努力をしたことは間違いないんですよね。

福満先生が漫画家となり、奥さんと子供2人と一緒に暮らす未来を手に入れられたのは、過去の努力が実を結んだといえますし、ずっとマンガを描き続けたからでもあり、もっといえば能力があったからなのも間違いない。ついでにいえば、運もよかったでしょう。しかしながら、要所で本人が奮起しなければ、自分の欲しいものを手繰り寄せることはできなかったはず。

『僕の小規模な失敗』では本当に失敗ばかりが描かれますが、あとから振り返ってみると「むしろこれが正解だったのか」と思える要素がいろいろとあるのです。まさしく、人間万事塞翁が馬。自分のダメさに落ち込む気持ちも理解できて、それがおもしろい瞬間もあって、将来的には意外な方向に転ぶ決断もあるようなマンガになっているといえます。

このあとも福満しげゆきサーガは続き、『僕の小規模な生活』、『うちの妻ってどうでしょう?』、『妻に恋する66の方法』、『妻と僕の小規模な育児』と続きます。さらに妻と一緒に運営しているTwitterアカウント(@fukumitsuu)が人気になり、ビッグコミックスペリオール2020年17号では『妻観察日記』という新連載まではじまるようです。

シリーズを追って、福満しげゆき先生の人生の変遷を眺めるのも楽しいですよ。特に、お子さんに「僕パパのマンガ好きだよ」と言われて感涙するシーンは本当にいい(『妻に恋する66の方法』5巻に収録)。小規模な失敗を繰り返していた人が、こんなに報われる日がくるなんて……と思わずにはいられません。

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