『ロクアカ』完結・『これがま』発売記念! 羊太郎先生インタビュー

こんにちは! 東京大学アニメーション研究会、21年度入学のryoと申します。
『ロクアカ』の完結と『これがま』の発売を記念し、ライトノベル作家の羊太郎先生をお呼びしてインタビューを行いました!
(注意)本記事は『ロクでなし魔術講師と禁忌教典アカシックレコード』24巻までのネタバレを含みます。『これが魔法使いの切り札』パートは誰でも楽しめる内容となっておりますので、新規読者の方はぜひ『これがま』パートからお読みください!(目次から飛べます!)


☆羊太郎先生プロフィール

主に富士見ファンタジア文庫にて活躍されている作家さん。第26回ファンタジア大賞にて「大賞」を受賞、『ロクでなし魔術講師と禁忌教典アカシックレコード』でデビュー。昨年11月に『ロクでなし魔術講師と禁忌教典アカシックレコード』が完結を迎え、また同時に新作『これが魔法使いの切り札』を発売。今年でデビュー10周年を迎えられ、今一番アツい作家さんです!

☆ロクアカ本編

○お気に入りエピソード

――本日はよろしくお願いします! さっそくですが、羊太郎先生の好きなエピソードについて教えてください。
 
羊太郎先生(以下、羊):全部ひっくるめて好きなエピソードというと、グレンとアルベルトがガチンコ勝負する13巻と、イヴが頑張る17巻が特に気に入っています。
 
――私も13巻大好きです! 過去の読者投票でも一番人気のストーリーになっていましたよね。
 
:僕は元々「男同士の殴り合い」みたいな展開が大好きなので、やっぱり13巻が一番に思いつきますね。次に17巻みたいな感じかな。
 
――イヴも凄く人気があるキャラだと思います。
 
:イヴも複雑なキャラではあるんですけど……元々読者にめちゃくちゃ嫌わせるつもりで書いていたんですよね。それで、後半の11・17巻あたりで巻き返して人気が出ればいいな、と思っていたんですけどなぜか7巻での登場初期から人気があって……。
まぁ、そんなわけでこの二人のエピソードが特に気に入っています。
 
――13巻はアルベルトが変わるきっかけになった、という意味でも重要なストーリーだったと思います。
 
:そうですね。そこから少しずつ柔らかくなっていきました。復讐鬼であることに変わりはないんですけど、それよりも大事なものを優先するようになってきています。
 
――仇討ちに囚われるのではなく託されたもののために戦う、21巻のルナとの対比はとても印象的でした。
 
:13巻でのグレンとの一幕はアルベルトが変わるきっかけとなった戦いでした。それだけに印象深いですね。
 
――13巻といえば、グレン君とアルベルトが対峙している口絵も凄く印象的でした。まさに「男同士の殴り合い」といった感じで! こういったイラストは、羊先生から描くシーンを指定するんですか?
 
:いえ、大体編集さんのセンスで決まっています。僕はあんまり「こういうシーンで描いてくれ」とは言わないですね。キャラデザに細かく指示を出すことはありますが。

13巻口絵より。睨み合うグレン君とアルベルト。 お互い譲れない信念のために、かつての相棒同士で殴り合います。
11巻口絵より。生徒達を守るために自らを犠牲にするイヴ。 尊い希望の灯火、儚い笑顔…人気が出るのもうなずけます。

○セリカが魔王だろうって、ミスリードしようと思ってたんですよ

――他にも印象に残っているエピソードはありますか?
 
:色々ありますが……19巻の、グレンが古代文明に行っちゃう話ですかね。過去でいろいろやって非常に楽しかったです。
 
――19巻は凄かったですよね! 目次開いた時点で「メルガリウスの魔法使い」と書かれていてもう……!!! 今までの様々な謎が一気に解明されて凄く面白かったです!
 
:何年越しの伏線回収だみたいな(笑) 過去にタイムトラベルするとかいう、だいぶぶっ飛んだ、難しい構造をやったなぁと自分でも思っていました。
 
――かなり早い段階、それこそ6巻のあたりから伏線がありましたもんね。
 
:そうですね、凄く細かくってわけではないですけど、あの時点から大体のストーリーは想定していました。こんなに回収が遅くなるとは思っていませんでしたが(笑)
 
――そうすると、12巻でのセリカは不穏な描写が目立っていましたが、あれはちょっとミスリードを意識されていましたか?
 
:そうですね。実は、セリカが魔王だろうっていうふうにミスリードしようと思って書いていました。ちょっとやりすぎたかもしれませんが(笑)

19巻口絵より。 「正義の魔法使いとその弟子の、世界を救う物語」

○ずっと書きたかったお話

――『ロクアカ』を書くにあたって、構想段階から「いずれこういうシチュエーションを書きたいなぁ」と思っていて、後々それが結実した、みたいなシーンはありましたか?
 
:まさに今お話ししたお気に入りのエピソード達ですね。
1、2巻時点では新人賞作品を形にしましたって感じであんまり深くは考えていなかったんですけど、話に広がりを出すためにお空に城を浮かべた時点でああしてみようこうしてみようってアイデアが浮かんできて、その時考えたお話が19巻で結実したって感じです。
13巻のアルベルトの話もやりたいと思っていました。いつかやってやろうと思って書いていたのはこの二つですね。
イヴに関してはこの時点では影も形も無かったので、17巻は当初あまり想定していませんでした。

○「ジャティスはグレン以外には負けないだろうと思って。」

――逆に、想定外に膨らんだお話はありますか?
 
:ジャティスですね。ジャティスは本当に想定外でした。5巻で初登場してからジャティスの顛末を考え始めたんですが…こんなにもトリックスター的な存在になるとは思っていませんでした。
 
――そうだったんですね。ラスボスが天の智慧研究会からジャティスの方にシフトした時は本当にビックリしましたが、あれも当初想定されていた展開ではなかったのですか?
 
:最初はやっぱり天の智慧研究会の大導師様がラスボスなんだろうなと想定していました。まあ無垢なる闇もチラっと出てきてはいましたが……。
ただトリックスターとして登場させたジャティスのせいでどんどん曲がっていきました。コイツは本当にもうキャラが強くて、大導師様あたりじゃ止まらんだろうと。
 
――どんどん大きくなって、逆に食っちゃうだろうみたいな(笑)
 
:出した当初は中盤の強敵みたいな役回りのはずだったんですよね。『フルメタ』のガウルンみたいな。この戦いを通して主人公の運命が変わっていくみたいな。
でもジャティスはそれだけじゃ終わらないだろうと思いまして。コイツは絶対最後の最後まで何かやるだろうと思って、展開が変わっていきました。
 
――確かにそうですよね。ジャティスがフェロードに負けている姿は想像できないです。
 
:アイツはもうグレン以外には負けないだろうと思って。どんどんキャラが大きく、ストーリーが大事になっていきました。
 
――ジャティスとグレン君の師弟関係も、後から膨らんだ感じですか?
 
:そうですね。やっぱり最初にジャティスというキャラクターを考えた時には師弟関係とかはなかったんです。あくまでもライバル関係だった。
でも、実際に5巻で争わせてみたら、なんでコイツらは争いあっているんだろうって、愛憎渦巻く裏側にこういうのがあるんじゃないかって。登場させた後から、こうだったに違いない! というのが見えてきて、どんどん膨らんでいきました。
どうやって差し込もうかなとはずっと考えていたんですけど、チラチラ匂わせるようなことは伏線として書いていました。グレンは全く分からないんだけど、一方的にジャティスが悟ったようなことを言って、みたいなシーンは書き続けていました。
 
――確かに「今の君には分からないだろうけど……」みたいなセリフが度々挟まっていましたね。
 
:こういうセリフって、普通後ろに引き伸ばすために使われることが多いんですけど、ジャティスに関しては本当に「今の君には分からないだろう」って状況になっていますからね(笑)
 
――そういうところも『ロクアカ』の魅力の一つですよね。先ほどのセリカの話や、ルミアまわりの話などもそうですが、全部分かった上で序盤の巻を読み返すとその時点でもう伏線が散りばめられていて。序盤から既によく練られている設定や関係性が後ろにいくほどどんどん煮詰まっていって、最後に結実した時の感動が凄まじいです。
 
:結構無意識のうちにやっているところもあるんですけどね(笑)

22巻口絵より。いつの間にかラスボスになってグレン君と対峙するジャティス。 似た者同士でありながら不俱戴天の敵同士、果てには師弟関係でもあった二人の関係には非常に惹きこまれました。

○「リィエル、当初は死ぬ予定だったんですよ。」

――結実といえば、21巻はリィエル、イヴ、アルベルトの三人分のフィナーレが重なっていて、読んでいて本当に倒れるくらい面白かったです。

:あれはまさに集大成でしたね。

――個人的にリィエルが大好きなんですが、リィエル周りで印象に残っているエピソードについてお聞かせください。

:やっぱりリィエルまわりで一番印象に残っているというと、エリエーテとの戦いですよね。
リィエルってキャラクター自体が不完全でいびつな状態から始まっていて、そんな子がグレンや仲間たちと関わって、少しずつ変わっていった。その集大成がまさにリィエルとエリエーテの戦いでしたから、やっぱりこの戦いが気に入っています。

――大切なものを見つけて、他の誰でもない自分の意志でそれを守るために戦う、みたいな。

:でもね、リィエル、当初は死ぬ予定だったんですよ。

――その構想、ドラマガのインタビュー記事で読んだ時本当にびっくりしました。

:でも、実際にいろいろなお話を書いてみて、まあこの子ならなんだかんだ生きてるだろって思い直しまして(笑)

――エリエーテ戦、最後あの展開で死んじゃったら悲しすぎますよ……

:そうですよね。でも死んでもおかしくない展開ではあったんですよね。

――1回死んじゃってますもんね。予備生命力があって本当に良かったです。

:殺さなくて良かったです。ある意味、その後のジャティスとグレンとの戦いでも結構重要でしたからね。
 
――いや本当に、最終決戦は三人娘揃ってこそでしたね。最後、三人全員が正義の魔法使いになる展開も凄く感動しました。
 
:さすがにあれはリィエルいないと書けなかったです(笑)
 
――あそこで二人だけだったらちょっと、アレ?ってなっちゃいますよね(笑)
 
:だいぶ無理やりでしたけど、それでも生き返らせて良かったです。

22巻より。最終決戦に向かう三人娘。 リィエル、生きててくれてありがとう……!

○「タイトルが意味不明」とか、結構ツッコまれていました(笑)

――少し話が戻りますが、他にも想定外に膨らんでいったお話はありますか?
 
禁忌教典アカシックレコードですね。あれこそ全く想定していませんでした。
当時の編集さんが、「なんか名前がカッコいいから」みたいな感じでタイトルに入れてきて(笑)
 
――確かに当時、2014年くらいって漢字にカタカナのルビみたいなタイトルのラノベが大流行していた時期でしたね。
 
:全盛期でしたね(笑)
でも、入れたからには回収するしかないと思いまして。天空城と共になんとかして物語に組み込みました。回収するまでにえらい時間かかりましたが……。それまで「禁忌教典アカシックレコードって何だよ」とか「タイトルが意味不明」とか、結構ツッコまれていました(笑)
 
――確かに、ハッキリ出てきたのは18巻になってからでしたね(笑)
 
:初めてまともに出したのはそうですね(笑) チラチラと思わせぶりに名前は出していましたが。
 
――イクスティンクション・レイの詠唱にも禁忌教典アカシックレコードと関連するフレーズが入っていると思うんですが、これはどういった経緯でしたか?

《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・
其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・
象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は須らく此処に散滅せよ・
遥かな虚無の果てに》

:あれはもともとイクスティンクション・レイの詠唱ありきで、逆説的に考えました。この詠唱フレーズは新人賞の投稿当時から変わっていません。
「このフレーズやっぱり良いな」と思って、それが関わるように天空城や禁忌教典アカシックレコードなどの設定を考えました。「神を斬獲せし者」とか「始原の祖と終を知る者」とか、なんとか綺麗に収まりました(笑)
 
――『ロクアカ』の全体を通してのテーマの一つだった「一度挫折してしまったグレン君が、もう一度前を向いて歩き始める」というストーリーを受け、他のキャラ達もグレン君の背中を見て歩き始め、それがタイトルの『禁忌教典アカシックレコード』に繋がっていく……凄く綺麗なタイトル回収だったと思います。
 
:我ながらよくやったな(笑)

○『ロクアカ』がどういう話かって、グレンがセラを喪ったことを乗り越える話ですからね。20巻以上もかけて(笑)

――好きなキャラクターについては、ドラマガのインタビューでグレン君、アルベルト、ジャティスを挙げられていたと思うのですが、キャラ同士の組み合わせで好きなものはありますか?
:もう既にって感じですが、やっぱりグレンとアルベルト、グレンとイヴ、グレンとジャティスですね。
関係性によってキャラクターってできてくるので、二人の間にあるドラマの強さがキャラの強さに繋がってくるというか。だからやっぱり好きなエピソードでお話したのと同じ組み合わせになってきます。
 
――キャラクターとエピソードは切っても切れない関係なんですね。
私は個人的にグレン君とセラの関係がめちゃくちゃめちゃくちゃめちゃくちゃ大好きなんですが、この二人のエピソードについてもお伺いしたいです。
 
:グレンとセラは、とにかく悲劇になるんだろうなと思いながら書いていました。多少女々しくはあるんですが、昔の女を忘れられない湿っぽさがある意味グレンっぽいかなと思っていて、そういうところが気に入っています。「幸せだったあの頃……」みたいな。

短編集7巻『特務分室のロクでなし達』より。 グレン君に大きな影響を与えたセラ。セラへの想いは、夢への想いはそう簡単には煮え切らなくて……。

――グレン君が夢に向かって真っすぐ進むシスティとかを見て、「でも俺の方は……」とか思いながらセラのことをほんのり思い出す……みたいなシーン大好きでした。セラは基本回想でちょこっとしか出てこないので、物量としては全然大きくないんですが、キャラクターの存在感はこれ以上ないくらい大きかったです。
 
:確かにそうですね。自分でも言うのもなんですが、思い返せば良い話でした。
元々『ロクでなし』がどういう話かって、グレンがセラを喪ったことを乗り越える話ですからね。20巻以上もかけて(笑)
そういう意味では23巻も、これは絶対やろう! と当初から想定していたエピソードではありました。
 
――セラの最期の言葉も、セラが登場した当初から温められていたシチュエーションでしたよね。
 
:あれも20巻越しの伏線回収でした。

23巻より。夢の中でセラの最期の言葉を受け取り、ついに過去を振り切って前へ歩き始めるグレン君。 20巻以上続いたグレン君の物語の一つの集大成です。

○「こんなにヒロイン度が下がるとは」

――グレン君とシスティーナの関係も大好きです。最初は守られるばっかりでしたがどんどん成長していって、道を間違えそうになるグレン君を引き留めるシーンや、ジャティスとの最終決戦でグレン君を信じて戦う姿が本当に印象的で……
 
:ヒロインというか相棒みたいですよね(笑)
 
――当初、システィはヒロインの想定だったんですか?
 
:そうですね。まあ弱かったからヒロインだったっていうところもあるんですが。
最初は庇護する対象だったのが、どんどんやたらめったら強くなって、おかげでヒロインというより主人公を引っ張っていく相棒みたいになっちゃいました(笑)
 
――システィのテーマとして「先導」を挙げられていたと思います。
 
:成長してグレンを追い越していく過程で、「先導」ってタイプになっていきました。もともとグレンの後ろをよちよち歩きで付いてくるタイプだったんですが、超加速で成長して先に行っちゃって、グレンを「先導」するようになっていきました。
 
――そしていつの間にか相棒ポジションに。
 
:こんなにヒロイン度が下がるとは思っていなかったです(笑) いや、ヒロインではあるんですけど、それ以上に相棒だよね、みたいな。

ドラゴンマガジン2024年1月号より。 「何やってるんですか先生! ほら、早く行きますよ!」みたいなセリフが、今にも聞こえてきそうです。

○魅力的なサブキャラ達

――グレン君以外のサブキャラ同士で、気に入っている関係はありますか?

:アルベルトとルナが好きですね。恋人関係がどうとかではないんですが、いがみ合っている感じというか、ぶつかり合っている感じが好きです。

21巻より。 不器用なキャラ同士、他では見られない絡みが見られて面白いです!

:他にも、これは本当にちょっとしたエピソードなんですが、20巻でイヴとフォーゼルが喧嘩するシーンが好きです。

――エレノアが操る《最後の鍵兵団》の攻略法のヒントをイヴがフォーゼルに聞きに行くシーンですね。

:シリアスな中でのギャグシーンというか(笑) 割と僕の中で印象に残るシーンでした。

○「書店さんから「これ落丁ですか?」と問い合わせが来ました」

――個人的に、21巻を経てからのイヴとイリアの関係が凄く好きです。大好きだったからこそ22巻で挿絵が見られてびっくりしたんですが、このイラストの指定も編集さんだったんですか?
 
:あれは編集さんですね。
 
担当編集さん(以下、編集):イヴが天空城での最終決戦にいなかったんですよね。それを受けて、下の方の様子も見せたいなと思ってあのシーンを依頼しました。
イラストの指定周りは、編集がやることが多いです。
 
:僕は割とノータッチです。

22巻より。天空城での最終決戦を遠くから応援するイヴと、イヴをからかうイリアの関係が本当に良いです。たった数ページのちょっとしたシーンなので、挿絵があることに驚いた読者さんも多かったのではないでしょうか。

――そんな中でも、ここだけは!と思って指定されたシーンはありましたか?
 
:そんなシーンあったかな……。実は無いと思います。
 
編集:無かったですね。24巻、白紙にしてくれみたいな指定はありましたけど。
 
:あ~それはありますね。ストーリーに関わる指定は出しました。
上がってきたイラストに対して、設定的な視点から監修を行うことはありましたが、「ここをイラスト化してくれ」みたいな指定を出したことはないです。
 
――「24巻、白紙にしてくれ」というと、最後の最後でシスティ達が白紙を挟んで助けにくる演出ですね。あのギミックはとても印象的でした。
 
:あれは僕やりたかった、拘ったギミックですね。落丁がどうとかでツッコまれもしましたが(笑)
 
編集:本当に書店さんから「これ落丁ですか?」と問い合わせが来ました。 「演出」ですってお戻ししました(笑)
 
:メタ的な意味で、ストーリーはここで終わりましたって感じを出そうと思ったんですよね。
 
――本当ならこれで終わるはずだったんだけど、システィ達が飛び込んできて、みたいな。
 
:そうですね。メタ視点の演出でした。そもそも無垢なる闇自体メタ的な存在でしたからね(笑)

○印象に残っているイラスト

――本編中で印象に残っているイラストはありますか?
 
:ずっと狙っていただけあってですね、19巻のアセロ=イエロ戦のイラストはとても印象に残っています。ようやくできた! といった感じでした。

19巻より。 10巻の頃から伏線になっていた「正義の魔法使いの弟子が、小さな棒でアセロ=イエロの胸を突く」シーン。

:このイラストについては、「こういうポーズにしてくれ」とか、かなり色々と監修しました。ここはさすがに来るだろうと思っていたので、自分から「ここ描いてくれ」とは言いませんでしたが。
 
――もうここは編集さんが入れてくれるだろうと。
 
:そうですね、もちろん来た! って感じでした。むしろここ取らなかったらどこ取るんだ? みたいな(笑)
もし編集さんがここを指定しなかったら、さすがに「このシーン描いてください」みたいなこと言ったかもしれないです。信頼していたのでわざわざ言いませんでしたが。

○「足を見せてください」とお願いしました。絶対足は見せろと。

――キャラデザについて、先ほど「キャラデザには細かく指示を出すこともある」とおっしゃっていましたが、どのあたりに拘りましたか?
 
:三嶋さんが凄く良いイラストを上げてくださるので揉めることはあまりなかったんですが、セラについては結構拘りました。
セラは南原の遊牧民族出身のお姫様とかいう特殊な生い立ちなので、なかなか僕の中のイメージと三嶋さんの中のイメージが合わなくて苦労しました。

5巻より、セラの立ち絵。 画集vol2にも掲載されていますが、設定画の時点ではセラの足はスカートで隠れていました。特徴的な赤い顔料も、その時点では無かったり…… 画集を買って、完成イラストとの違いを見比べてみるのも面白いかもしれません!(勝手に宣伝)

:三嶋さんから上がってきたイラスト案では足がスカートで隠れていたのですが、「足を見せてください」とお願いしました。絶対足は見せろと。
戦巫女なので、あまりお姫様っぽくしすぎても仕方ないというか、ある程度活動的なところが欲しかったんですよね。実際わりと武闘派で、前線でバリバリ戦うタイプなので。
 
――姫っぽい、浮世離れっぽいところも出しつつ、でも活動的なところも出しつつで塩梅が難しかったのかもしれないですね。

○制服ですね(即答)

――逆に、三嶋先生から上がってきて、想定していなかったけれど良かったキャラデザはありますか?
 
:制服ですね。(即答)
 
――ですよね(笑)

1巻より。非常に特徴的な制服。 本当に他に類を見ないデザインです。

:これは想定していなかったですね。「えぇ~!?!?」みたいな(笑)
肌をさらしておくことで魔力が育つみたいな設定を後付けでやむなく作りました(笑)
 
――さすがにノー説明でこの制服はびっくりしちゃいますもんね(笑) でもこの制服大好きです。
 
:これで良かったんでしょうね(笑) この制服見れば何の作品か一発で分かりますからね。
 
――制服だけ出してこれは何の作品でしょうクイズやったら、『ロクアカ』誰も外さないですよ。
 
:知っていれば外しようがないですね(笑)

☆ロクアカ短編

○本編との書き分け

――それでは、短編の話に移りたいと思います。本編はシリアスな展開が続く中で、短編はギャグ展開が中心だったと思うのですが、書き分ける上で意識されていたことはありますか?
 
:本編もところどころコメディはあるんですが、やっぱりシリアス路線が多くなるので、その分短編ではっちゃけるようにしていました。なるべく明るく楽しく、ということを意識していました。
加えて、本編で書ききれない各キャラクターの個性を色々出していこう、というコンセプトも大切にしていました。

○好きなエピソード(ドラマガ連載版)

――短編の中で好きなエピソードはどれですか? まずはドラマガ連載のエピソードの中からお聞きしたいです。
 
:これもいっぱいあるんですけど……まずは、『室長サマの憂鬱』かな。(短編集5巻収録)
特務分室のメンバーがギャグばっかりやってるお話(笑) みんながあれこれ好き勝手やって、アルベルトですらギャグ要員になっていました。
 
――あれは面白かったですね(笑) ギャグはもちろん、特務分室メンバーの本編では見られなかった新しい一面が見られてとても面白かったです。
 
:この回は、三嶋さんがあとがきのイラストで作ってくれた「イヴがりんごジュースで雰囲気酔いする」という設定を逆輸入して使った回でもあります(笑)
キャラの深堀りにも成功したと思っています。

7巻あとがきより。本編では見られない一面が見られるのも短編の魅力の一つです。 それにしても本当に可愛い……

「グレン君とイヴが、二人でセラのお墓参りに行くみたいな未来も…?」

――書籍特典のSSでもありましたよね、「グレン君とセラが結婚して、イヴが酔っ払って……」みたいな。実は私あのSSが凄く好きで! というのも、イヴからセラへの感情がハッキリ見えるじゃないですか。本編でもイヴがセラのことを大切に思っていたみたいなシーンは結構序盤からあったと思うんですが、後半になるにつれてグレン君との和解へと話の軸が動いていって、イヴからセラへの感情が直接見えるシーンが無くなっていったと思うんですね。最初は、「セラは私が死なせた」「あの子は私を許してくれない」みたいな独白があって、大きな罪悪感を抱えていたことが見えるんです。でも、その後は直接的な描写は無くなっていったように思います。最終的にイヴはグレン君と和解して、前を向けるようになっていって、ifルートではグレン君と結婚するところまでいくわけじゃないですか。グレン君の後ろにはセラが色濃く見えるわけですから、そんな彼と結婚できるまでにイヴの中でセラへの感情の変化みたいなものがあったんじゃないかなぁとよく妄想していたのですが、そのあたりの設定はどうなっているのかな……と、ちょっとお聞きしたくて。
 
:あ~あれはですね……(笑) イヴって、自分を責めてしまうというか、立ち止まってしまうタイプではあったんですよね。
でも、本編後のグレンは吹っ切れちゃっていて、前を向いて歩いている。イヴもそんなグレンを見て、自分を責めるだけじゃなくて、少しは自分のために生きてもいいんじゃないかって感情の流れになってきている。
セラを振り切って未来へ歩いていくグレンの背中を見ながら、イヴも少しずつ自分を許して、セラへの負い目を克服していったんだと思います。
 
――なるほど……!!! 最終的にグレン君は立ち直って、セラの墓参りに行けるようになりました。それと同じ流れで、グレン君の背中を見てイヴも自分を許せるようになって、いつしか、グレン君とイヴが二人でセラのお墓参りに行くなんて未来も……あったりするかも?
 
:まあ、あるでしょうね(笑) 間違いなくあるでしょうね。

○好きなエピソード(ドラマガ連載版) その2

――ありがとうございます。……すみません、少し話が逸れてしまいました。他にもお気に入りの短編エピソードはありますか?
 
:『熱き青春の拳闘大会』も好きですね。(短編集10巻収録)
グレンが拳闘大会に参加するお話です。最初はいつも通りロクでもない理由で参加したんですけど、段々熱くなっていって。でも、今度は逆にイヴとシスティーナが珍しくロクでなしになっていくんです(笑)
ルミアとリィエルは純粋にグレンを応援しているのに、イヴとシスティーナは金に目がくらんで、ロクでもない理由でグレンを応援している。
コメディとして面白かったし、普段見られないイヴやシスティーナの姿も書けたので、結構気に入っています。
 
――短編でしか見られない要素もありつつ、最初はロクでなしなんだけど段々熱くなっていくグレン君、みたいな『ロクアカ』らしさもありつつで、とても面白いお話だったと思います。
ラブコメ要素も短編の魅力の一つだと思うのですが、そういった短編でお気に入りのエピソードはありますか?
 
:ラブコメ的な短編というと……存在感を急に示してきた、という意味では『もしもいつかの結婚生活』ですかね。グレンとルミアのやつです。(短編集8巻収録)
こんな子がいるといいなぁ、みたいな感じで書きました(笑)

短編集8巻『もしもいつかの結婚生活』より。 本っ当に可愛いです。萌え萌えすぎてお嫁さんになってほしいですね……。

○ 好きなエピソード(単行本書き下ろし)

――単行本の書き下ろしエピソードで印象に残っているものはどれですか?
 
:書き下ろしエピソードはどれも重めの話が多かったのですが、そんな中で明るい話だった『特務分室のロクでなし達』が好きですね。(短編集7巻収録)
クリストフ視点で見た特務分室のお話で、むちゃくちゃな連中が集まってるんだなぁ、という感じがよく出せたと思っています。
 
――重いエピソードの中だと、どのお話が好きですか?
 
:重い話でいうと、『偽りの英雄』ですね。(短編集4巻収録)
アルベルトの過去話です。話の入り方を工夫して、最初何の話なのか読者に首を傾げさせるような構成にしました。『アベル』と『アルベルト・フレイザー』でちょっとしたミスリードも挟みつつ……これは結構効いたと思っています。
 
――確かに最初、突然知らない人の話が始まって「ん?」ってなりました。でも、読み進めていくと全部繋がっていって、最後は本編13巻へと続く構成になっていて非常に面白かったです。

短編集4巻『偽りの英雄』より。 『アルベルト』として生きる覚悟を決める『アベル』。21巻を読んだ後でもう一度読み返すと……。

○「これぞ三人娘、みたいな」

――書籍特典などのSSで印象に残っているものはありますか?
 
:SSはもう、本当にいっぱいありすぎて(笑)
ただ、パッと思いつくのは『情けは人の為ならず』ですね。(ドラゴンマガジンの付録内に掲載されたSS)
システィーナとルミアとリィエルのわらしべ長者みたいなお話です。
システィーナが欲しがっている魔石があるんですが、それをルミアも欲しがるんです。
結局システィーナは魔石を買ってルミアにプレゼントするんですが、なぜルミアがこれを欲しがったのかというと、リィエルがこれを欲しがっていたからなんですね。
ルミアはリィエルにその魔石をプレゼントするんですが、じゃあなんでリィエルがこれを欲しがったのかというと、グレンがこれを欲しがっていたからなんです。
リィエルはグレンに魔石をプレゼントするんですが、じゃあなんでグレンがこれを欲しがったのかというと、システィーナにプレゼントするためだったんです。
で、結局システィーナの元に魔石が戻ってきちゃうっていう(笑)
これは短いけれどほっこりできて、良い出来のSSかなって思います。これぞ三人娘、みたいな。

○システィーナとルミアのガチ喧嘩!?

――『未来の私へ』(短編集7巻収録)の中でイヴを出そうとしたけどやめた、ということをあとがきに書かれていましたが、他にもボツにしてしまったネタはありますか?
 
:短編でボツにしちゃったネタっていうと……システィーナとルミアがガチ喧嘩して、仲直りするエピソードをやろうと思ったんですが、当時の編集さんに止められたことがあります。
些細なことで喧嘩になって、だんだんエスカレートしていって、「どうやったら仲直りできるんだろう」みたいなことを個別にグレンに相談しに来る、みたいな話を考えていました。
ただヒロイン同士が本気で喧嘩するのはあまり良くない、みたいなことを言われまして(笑) 結局お蔵入りになりました。

――それはそれで見てみたかった気もします(笑)
よく短編集のあとがきに、「編集さんと揉めて、難産で……」というようなことが書いてありますが、他にも何かありますか?
 
:何かあったかな……?

編集:実は、ボツになったネタは意外と後から再利用することも多いので、完全ボツはあまり多くないかもしれないです。
 
:あ~確かに、形を変えて後で出すことが多いですね。時間が経って熟成されるというか。
『キノコ狩りの黙示録』(グレンとハーレイがキノコ狩りに行く話。短編集8巻収録)なんかは、当時の編集さんに「つまらないからボツ」って言われてしまったんですよね。
でも、なんとか面白くなるように構造を変えた結果、世に出ることとなりました。キノコ狩りがテーマなのは変わりませんが、構想当初とはガラッとエピソードが変わっています。
 
――世に出はしたんだけど、「実はここカットしました」みたいな小さいボツはありますか?
 
:そんなことあったかな……?
 
編集:最近だとリィエルのifエピソードで、娘の名前をどうするか、みたいな話しましたよね。『未来の私へ』での名前を拾うのかどうか、みたいな。
 
:あ~それありましたね。結局そこは分けることにしたんですよね。
『未来の私へ』はあくまでも夢のエピソード、ということで。
ただ、『シオン』と『イルシア』はそのまま使いましたが『エリエーテ』は『エリー』にしました。
あの世界でのエリエーテは本当に最悪の大悪党みたいになっちゃってるので、そのまま名付けるのはやめました(笑)

○「挿絵がつくとは思わなかったです(笑)」

――短編オリジナルのキャラクターも多いと思うのですが、その中でお気に入りのキャラは誰ですか?
 
:まあもうロザリーですね(笑)
 
――ですよね(笑)
 
:あとはオーウェルもそうですね。こっちは本編にまで逆輸入されていきました。
この二人は本当に好きですね。なんでもできるから(笑)
困った時はこの二人出しとけ、みたいな(笑)
 
――短編のコメディらしさの象徴みたいなキャラクター達ですよね。本編20巻にロザリーが出てきた時はびっくりしました。
 
:そうですね、ちょっと出しました(笑)
オーウェルはともかくロザリーはちょっとどうかなって、悪ふざけがすぎるかなぁとも思ったんですが……まあいいか、と思って出しちゃいました。お祭りだ! って感じで(笑)

――なんなら挿絵までついていましたよね(笑)
 
:挿絵までつくとは思わなかったです(笑)

20巻より。まさかの本編登場を果たしたロザリー。 ロザリーは出てくるだけでクスリと笑える素敵なキャラクターです。

○印象に残っているイラスト

――短編集のイラストで印象に残っているものはありますか?
 
:どれも良いイラストを描いていただいたんですが、やっぱり先ほども話した『室長サマの憂鬱』の特務分室が全員揃っているイラストが好きですね。

短編集5巻『室長サマの憂鬱』より。 特務分室各キャラの「らしさ」が見える素敵な一枚です。

:後は『秘密の夜のシンデレラ』のイヴも最高の一枚ですね! まさにベストショットです。普段はなかなかこんな姿は見れない、短編だからこそ見れる一枚でもあります。

短編集7巻『秘密の夜のシンデレラ』より。 めーーーちゃくちゃ萌え萌えです! 私も短編集の中では一二を争うくらいこのイラストが好きです。

○「こういう可能性もあるよ、ということを楽しんでいただきたいです。」

――現在連載中のifルートについて、みどころ等一言お願いします。
 
:あれはifの話なので、そこまで真に受けないで欲しいところもあるんですが(笑)
元々『ロクでなし』はグレンと誰かがくっ付くっていう話ではなかったんです。24巻の、「興味ないやつは、寝てな」が本当に『ロクでなし』の終わり方そのものなんですよ。
でも、やっぱり人によっては、グレンとの後日談的なものが見たいという方もいらっしゃるかなと……
 
――いや、いるんですよ……!!!!!
 
:そう思って(笑) そんな方達のために、一応僕が考えるヒロイン達との各ルートを、って形でやらせていただいてます。
もちろん、「こんなの私が考える『ロクでなし』の後日談じゃない!」という人が、色んな妄想をしてくれるならそっちが正解です。
あくまで、僕が考えるifの後日談です。こういう可能性もあるよ、ということを楽しんでいただければな、と思います。
人によってはセリカとくっ付くのが正史だと言う人もいますし、「マリアとくっ付いてくれ」と言う方もどこかにいるかもしれない。
とりあえず、公式というのも変ですけど、僕が考えたものを同人誌的に書いています。
 
――あくまでも可能性の一つ、ということですね。
羊先生的に気に入っているルートはありますか?
 
:うーん、どれも捨てがたいんですが……リィエルルートかな。
 
――リィエルルート、私も好きです! 「繋ぐ」感じがして凄く良いですよね。
 
:そうですね。あとは、ちょっと『フルメタル・パニック! Family』みたいな感じでお気に入りです(笑)
ちょうどタイムリーでした。
 
――羊先生が小説を書き始めたのは、『フルメタ』がきっかけなんですよね。
 
:そうですね。まさか似たようなことをこっちでもやるとは思いませんでした(笑)
どこまでも『フルメタ』の影がチラつくなぁと(笑)

18巻より。 リィエルのifルートは子育ての描写があり、グレン君がセリカやセラ達から受け取ってきたものを次の世代へ「繋いでいく」ような印象を受けました。

☆ロクアカアニメ

○アニメ化に際する原作者のお仕事

――アニメ化にあたって、羊先生はどのようなお仕事に関わられましたか?
 
:僕はそこまでアニメに関わっていたわけではなくて、上がってくる脚本の監修と、特典などのために書き物をしたくらいですね。
あとは声優さんの選定にも立ち会いました。かなり真剣に上がってきた声優サンプルを聞きまして、どの声がキャラのイメージに合うか考えました。
 
――そういったところまで原作者さんが監修されるんですね。
 
:私の場合はそうでした。もちろん、全ての意向がそのまま反映された訳ではないですが(笑)
 
編集:基本的に作家さんの意向はお伺いしますが、人によって完全にお任せする方もいれば、逆に積極的に参加される方もいらっしゃるので、「どこどこまでを原作者が監修している」とは一概には言えないですね。
どこまで意向が反映されるかも、現場ごとに変わってきます。

○「一つだけ、僕が考えたセリフを入れてもらいました」

――脚本監修の中で拘ったシーンはありますか?
 
:最終回のセリカのセリフですね。この一つだけ、僕が考えたセリフを入れてもらいました。
上がってきた脚本ではわりと平らなセリフだったんですが、僕が考えて格言っぽくしてもらいました。

何か成す者とは、歩み続ける愚者である。
成せぬ者とは、歩みを止めた賢者である。

――そうだったんですね! この言葉は、原作後半でも大切なキーワードになっていました。
 
:そうですね、アニメから貰って、本編にも反映させました。
これを逆輸入というのかは難しいですが(笑)
 
――発案は羊先生ですもんね(笑)

23巻より。セリカがグレン君に、あの言葉を伝えるシーン。本当に感動しました……。セリカが最後にかける言葉が「……頑張れよ」なのもめちゃくちゃ良いんですよね(早口)

○『ズドンさん』とか呼ばれて人気があって……

――他にもアニメから本編へ取り入れた要素などはありますか?
 
:ジンの再登場は確実にアニメの影響でした。アニメで、ジンさんが見ていて面白かったので、「コイツ絶対再登場させてやろう」ってなりまして。
『ズドンさん』とか呼ばれて、視聴者さんの間でも結構話題になったんですよね(笑)
 
――確かに印象深かったです(笑)

:システィーナの成長の試金石として再登場させたんですが、2回出したら3回だしてもいいだろうと思って、9巻の後に18巻でももう一度出しました。
本当に分かりやすくシスティーナの成長が見られて、無理やりにでも再登場させて良かったな、と個人的には思っています。
 
――そうだったんですね。凄く綺麗にハマっていたので、もともと再登場は想定されていたんだと思っていました。
 
:システィーナの成長の形は何かしらで示そうとはずっと思っていました。
それがあの形になったのは、アニメで調子に乗ったのがきっかけです(笑)

18巻より。ただ怯えて泣くだけだったあの頃から見違えるほどに成長しました。ジンにトドメを刺した後の、「先生も、ずっとこんな重荷に耐えてきたのかしら」というセリフがとても印象的でした(早口)

○『Blow out』は、まさに『ロクでなし』そのものといった感じで……

――本編だけでなく、opやedが付くのもアニメ化の醍醐味の一つだと思うのですが、楽曲についてはいかがでしたか?
 
:opの『Blow out』は、まさに『ロクでなし』そのものといった感じで凄く好きでした。
全体を通してこの作品のために作られていて、本当にありがたいことだと思います。
edの『Precious You☆』は全体的に曲調が可愛くて何周も聞けちゃう感じで、こちらも大好きでした。
 
――ed萌え萌えですよね! サークル内投票で2017年一番人気の曲でした。
opは作品のテーマ、edはキャラの可愛さと、どちらも違うベクトルで『ロクアカ』の魅力をよく表現していて素敵な楽曲でした。
 
:そうですね。本当にアニメ制作者さんには感謝しかないです。
伏線が複雑でアニメ化しにくい作品ではあるんですが、綺麗に纏めてくださったと思います。

○原作を読まれていた藤田茜さん

――最近の話に飛びますが、最終巻の発売記念cmについて、羊先生は何か関わられていましたか?
 
:あれは本当にちょこっとセリフ監修したくらいですね。
声優さん(藤田茜さん、斉藤壮馬さん)のアフレコにも立ち会いましたが、僕はほぼ置物でした(笑)
 
編集:「原作最新刊まで読んでいました」と藤田茜さんが仰っていました。それもあって、本当にキャラクターへの理解度が高かったので、我々はもうほぼ言うことなかったです。

☆これが魔法使いの切り札

手前から、シノ=ホワイナイト、リクス=フレスタット、セレフィナ=オルドラン

○「コメディやラブコメ重視の作品ではあります。」

――新作の『これがま』について、どのようなお話かご紹介ください。
 
:一言で言ってしまえば、魔法が全く使えない元傭兵の少年が、傭兵生活が嫌になったので魔術師になって将来安定した生活を手に入れるために頑張る、みたいな話です。
そのために、舞台はやっぱり魔術学院になります。
 
編集:元々『フルメタ』を意識されたんですよね?
 
:そうですね(笑) ちょっと『フルメタ』チックかもしれません。
 
――やっぱり『フルメタ』が羊先生の原初なんですね。
 
:主人公が元傭兵ということで、魔術師としてどころか一般的な常識すら持ち合わせていません。その常識のギャップで起こすトラブル、というのがこの作品の楽しみどころだと思います。
 
――確かに、読んでいて『ロクアカ』よりも本編中のコメディパートが多いと感じました!
 
:実は、シリアスにちょっと疲れてしまったんですよね。しばらくちょっとコメディっぽい軽い話で充電しよう、みたいなところもありまして。
シリアスよりも、コメディやラブコメ重視の作品ではあります。

○「自分の心を突き詰める」

――『黎明の剣士』や『愚者の霊薬』といった共通のキーワードに見られるように、前作『ロクアカ』と近い世界観の作品ではあると思うのですが、『ロクアカ』から受け継がれている魅力はなんですか?
 
:魔法に関する設定の面白さは引き続き楽しんでいただけるポイントだと思います。
魔術設定をまとめた中二病ノートがありまして、全作品共通してこのノートを基に設定を作っています。それこそ『ロクアカ』『これがま』に限らず、『ラストラウンド・アーサーズ』や『古き掟の魔法騎士』なんかも、一見違う魔術体系に見えるんですが、根底の部分は共通しています。
 
――確かに、汎用魔術一つ取っても本当に細かく設定されていますよね。
 
:そういう設定を考えるのが好きなんです(笑)
 
――『これがま』では詠唱を破棄する描写が見られますが、これは『ロクアカ』では設定的に(イグナイトとかいう超例外を除いて)見られない描写だと思うので、違いが見られて面白かったです。
 
:そうですね、作品ごとに解釈を変えている部分はもちろんあります。
ただ、根底にある「自分の心を突き詰める」という部分はどの作品も変わりません。
自分の心と向き合った上で、それをどういう形で世界に反映していくのか、というところで作品ごとに個性を出すようにしています。

『ロクアカ』10巻より。
魔法は「自分の心を突き詰める」もの。 ルミアの鍵やイグナイトの炎など、想いが力となる描写はたくさんありました。作中で度々言及されていた「“人間”の強さ」というのもここに繋がるのかもしれません。『これがま』ではどんな描写がされるのか、今から楽しみです!

○「『ロクでなし』ではできなかった主人公のムーブが見られます!」

――逆に、前作からの差別化した点や、「こういうところが違って面白いですよ!」みたいなポイントを教えてください。
 
:やっぱり主人公が教師から生徒になっている点ですね。教師じゃできなかった、生徒だからこそできる展開を心がけました。
例えばラブコメ展開です。前作のグレンは教師なので、どうしてもシスティーナやルミア、リィエルといった生徒達とは恋愛関係になりにくいわけです。
 
――確かに完結後ならともかく、本編中でグレン君が生徒達にデレデレしたり手を出したりする姿はちょっと想像しにくいかもしれませんね。
 
:もっと言えばグレンに関してはそもそも心の中にいますからね、切れていない女性が。どうしてもラブコメ展開はやりにくかったです。
でも、リクス君はまさに思春期真っ只中なので、そういう展開も遠慮なくやっていけるのではないかと思っています。

○リクスの主人公像

――主人公についてもう少し詳しくお聞かせください。
前作の主人公グレン君は「挫折からの再起」を軸にした主人公だったと思うのですが、本作の主人公リクスはどのようなキャラクターとなっていますか?
 
:一言でいえば、「あっけらかんとした陽キャ」ですね。
グレンはぐちぐち悩んで立ち止まることこそあまりしないものの、割と色んな葛藤を内に抱え込んで悩んで苦しんで心を痛めながら、それでもなんとか少しずつ前に進んでいくタイプの主人公でした。
一方で、リクスはあっけらかんとしていて、あまり悩まず「まあそれはそれでいいか!」って感じでひょいひょい前へ進んでしまうようなキャラなんですよね。そのあたりで読者さんには面白さというか、心地よさを感じていただければな、と思っています。
 
――なるほど、確かにそうですね。1巻でシノを助けた後保健室で会話するシーンがあったと思うんですが、そこでリクスがシノに「別にそんな気にしないで進めばよくね?」みたいなことを言っていたのが凄く印象的でした。
これは本当にグレン君と対照的なシーンだと思っていて、『ロクアカ』ではセラやシスティがグレン君を引っ張っていく構図でしたが、『これがま』ではそれが逆転しているように感じました。
 
:そうですね、リクスは言ってしまえば良くも悪くもおバカなんですよね。あまり深く考えない。
そんな風に軽いおかげで、重いものを抱えている周りの人たちが安心できるというか。あまりにおバカなリクスの背中を見て、自分の悩みがちっぽけなものに思えてくる、という感じの主人公像になっていると思います。
主人公が前向き前向きなので、作品全体としても明るい雰囲気になっていると思います。

1巻より。初対面でもグイグイくるリクスのイラスト。 皆の悩みを(意識的か無意識的かは分かりませんが)吹き飛ばしていくような、前向き主人公です。

○羊先生が考える、各ヒロインの萌え萌えポイント

――ラブコメ要素にも期待ということで、羊先生が各ヒロインについて考える萌え萌えポイントについて教えてください。まずはシノからお願いします。
 
:僕、シノみたいなキャラクターが好きなんですよね!
一言で表すのは難しいんですが、「普段はひねくれているけれど、なんだかんだ主人公に親身になってくれる」みたいなキャラクターになっていると思います。
 
――シノ、本当に可愛いですよね! セレフィナはどうですか?
 
:セレフィナについてはチョロいところが可愛いと思っています。
チョロイン、結構好きなんですよね。
 
――チョロい子は恋愛模様がよく見えて可愛らしいと思います!
アニーちゃんはどうですか?
 
:アニーは本当にルミアの系譜です(笑)
 
――それはちょっと思っていました(笑)
 
:やっぱりああいう子を一人は登場させたくなっちゃいますね。

2巻より。左がセレフィナ、右がアニー。二人とも本当に可愛いです! ちなみに私はアニーちゃん派です。男の子ってこういう子が好きなんですよね……。

○「リクスとシノの成り行きが、これからの注目ポイントです」

――コメディやラブコメ展開が魅力の『これがま』ですが、やっぱり羊先生作品といえば、熱いストーリーが展開される点も大きな魅力の一つだと思います。
『これがま』ではどのようなストーリーが注目ポイントとなっていますか?
 
:あっちこっち飛び火はしていますが、本作の根底にあるのは黎明の剣士と魔王です。過去の二人の因縁が、現代にも続いていくというお話になっています。つまりは、リクスとシノの成り行きがこれからの注目ポイントです。
シノちゃんの前世は、「皆のため」に尽くそうとした結果、いつの間にか間違った方向に進んでしまった。リクスの秘密についてはまだあまり語れませんが……逆に、黎明の剣士は「自分のため」を突き詰めた結果、世界を救ってしまった。要するにお互いどこかいびつで、壊れているんですね。
過去は不幸な形で終わってしまったけれど、現代でゆっくりとメンタルのリハビリをしていく……そんなストーリーラインになっています。

2巻より。なんだかんだと言いながらもリクスを放っておかないシノ。 過去からの因縁にも注目です!

:実は、シノに限らずみんな過去に何かしらの因縁があったりします。
 
――そうなんですか!?
 
:今後色々と明かされていく……かもしれません! 楽しみにしていてください。

○やっぱり制服ですよね(即答)

――キャラデザで拘った部分はありますか?
 
:やっぱり制服ですよね(即答)
 
編集:真っ先に言われましたよね(笑)
今回は「魔法使い」がテーマということで、パッと見てウィザードだと分かるようなデザインにしましょう、みたいな話をしました。
 
――前作の制服が印象的だった分、本作も拘りをもってデザインされたんですね。
前作のシスティーナに続いて本作のシノも銀髪ですが、これは羊先生の拘りですか?
 
:意識して揃えたわけではないです(笑)
シノというキャラクターを考えた時、銀髪が一番似合いそうだと思ったんですよね。
 
編集:髪色は結果的に同じになった、みたいな感じでしたよね(笑)

1巻表紙より、シノの立ち絵。 一目で魔術師だと分かりやすい上に、可愛らしさも凄く良く表現されていて素敵な制服です! 銀髪なのはたまたまだそうです(笑)

――リクスの後ろ髪が長いのはグレン君やリィエルあたりを意識してなのかな……と考えていたんですが、これは羊先生が指定された部分でしたか?
 
:いや、そこは私の指定ではなかったですね。
 
編集:リクスのキャラデザはですね、非常に苦労しました。やっぱり主人公として特徴が欲しい、というところでかなり難航しました。
最終的には三嶋さんがこのデザインを考えてくださって、採用することになりました。

○「10年以上の付き合いなので」

――三嶋先生から上がってきて、特にお気に入りになったキャラデザはありますか?
 
:アニーちゃんですね。
こんな感じでやってください、みたいなイラストデザインを送ったんですが、それがちょっとアレンジされて、物凄く良くなっていたのでとても印象に残っています。
 
編集:三嶋さんも10年以上付き合っていただいていて、経験値が並大抵じゃありませんからね。

――相棒というか、グレン君とシスティみたいな関係なんですね。
 
:確かにそうかもしれません(笑)

1巻より、アニーの立ち絵。 アニーちゃん、本当に可愛いです!

さいごに

――それでは最後に、読者様へ向けてメッセージをお願いします!
 
:これからも羊太郎ワールドをどんどん展開していきますので、応援よろしくお願いします!!!
 
編集:ぜひ皆さん、お友達にどんどん布教してください!
 
:それ言っちゃっていいのかな?
 
一同:(笑)


最後までお読みいただきありがとうございました!
『ロクアカ』も『これがま』も全人類必読です!!!どしどし読んでどしどし布教していきましょう!

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