アルコールは卒業

アルコールは卒業
(天使と暮らして8)

入院中の病室は、ベッドだけの狭い部屋、
私物もたくさん置けない。

退院し帰宅後、娘に用意した部屋は
10年前まで塾に使っていた部屋。
車椅子で過ごせるようにフローリング。
まるで娘の病気を予期していたような広さ。

介護ベッドを設置し、娘が親しんできた、テレビや
DVD,CD,ポスターやグッズに囲まれた部屋。

夕食後、好きな曲を毎日2曲、カラオケで楽しむ。
最初は声が出なかったが、少しづつ進歩。
テレビ、オセロ、パズル、音楽。
また時に、外食で娘の好物を食べる。
年に数回は温泉へ。
食事も娘の好みに合わせる工夫。

食べる楽しみを中心に、
だんだんと娘も生きる喜びを取り戻した。
笑顔が戻り、言葉が出始めた。

読み書きは駄目だが、聞くことはいくらか
理解できそうだった。

テレビドラマを楽しむことができるだろうか、と
最初は不安だったが、
なんとか楽しんでいる。
同じドラマを繰り返し何度も見ている。

高次脳機能障害、記憶容量が小さい。
娘の場合、
どんな約束をしても大丈夫。
例えば、「今日の昼食はマックにしよう」と朝言っても、
昼には忘れてくれる。

本当に大事なことしか覚えていない。
好きなドラマは大事なことに入っている。
だから全部でなくとも、一部は記憶している様子。
それで安心。
テレビは娘の一番の楽しみ。

外食した時、
明くる日や次の日に、思い出せるか、テストしてみる。
「昨日の夕食は何を食べたか覚えている?」と
これで娘の記憶がどのくらいかが分かる。

昔の事柄もランダムに記憶している。
病気直前の約2年間は覚えていない。

娘は法律の勉強を長い間していた。
行政書士の資格を持ち、法律事務所に勤務。
しかし、法律についての記憶を
娘に尋ねると、

「全て、消去」と言う。

アルコールも好きで、
仲間と毎週のように居酒屋で飲んでいたが、

「もう飲まないの?」と尋ねると、
「卒業」と返答。

親よりも早く卒業してしまった。

つづく


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