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SRIの75年間のイノベーションについて:虹彩認識技術 〜 従来の制約を解消することで、実生活のシーンでの虹彩認証が利用可能に〜

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

一瞬のまばたきの間に:SRIは「動く虹彩認証〜Iris On the Move:IOM〜」をどのようにして捉えたのか

誰かの目をのぞき込んでみると、何が見えますか?きっと「虹彩」が見えるでしょう。とても興味深く引き付けられる、人の目の色をあらわす輪の部分です。虹彩は、私たちの視界において重要な役割を果たしています。目に光を当てると、虹彩の筋肉が収縮します。そして暗い部屋に入ると、虹彩の筋肉が伸びて、より多くの光が入ってはっきり見えます。

虹彩には、もうひとつ特別な機能があります。虹彩には指紋のように独自のパターンがあるため、虹彩を生体認証として個人を識別することができます。2006年にSarnoff Corporation(現在はSRI Internationalの一部)は、商業的な実用化に向けて革新的な虹彩認識技術を開発しました。

「Iris on the Move® (IOM)」の技術についてご紹介します。

「動く虹彩認識」に世界が目を見張る

Sarnoff Corporationが「Iris on the Move®(IOM)」の技術を開発した当時、「虹彩認識」は新しい研究分野ではありませんでした。すでに1930年代には、眼科医であるFrank Burch氏が虹彩を個人の識別に利用できることを提案していました。そして1995年に、虹彩認識技術を利用した最初の商品が発表されました。これらの商品は、J.G. Daugman氏が特許を取得したアルゴリズムをベースとしていました。

しかし、当時の虹彩認識技術にはいくつかの重大な「制約」がありました。初期のシステムは、虹彩画像をキャプチャーする際に人の位置を固定して、カメラから近距離(所定の角度で十分なキャプチャーが必要なため)である必要がありました。つまり、虹彩の独自パターンを捉えるには、人が静止状態にあることが必要でした。これらの制約は虹彩認識アルゴリズムに起因するものではなく、”画像をキャプチャーすること”自体が虹彩認識技術の「能力」を制限していたのです。また、虹彩認識技術が利用される可能性のある、ユースケースの種類に関する商業的な問題も生じました。

画像キャプチャーに関する問題(ユーザーが固定された位置で、カメラの近くにいなければならない)は、Sarnoff Corporationの研究者たちがフォーカスをする重要な課題となりました。Matey博士率いるSarnoffの研究チームが、この問題を解決するための取り組みを主導しました。このチームは、高解像度カメラ(high-resolution camera)、ビデオ同期ストロボ照明(video synchronized strobed illumination)、鏡面性ベースの画像セグメンテーション(specularity based image segmentation)を使用した画像キャプチャーシステムの開発を進めました。

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虹彩認識システムはさらに進化する

虹彩認識技術は、個人を識別するための正確かつ安全な方法です。個人認識の正確性については、例えば指紋認証よりも信頼性は高くなります。指紋などの生体認証は、指紋スキャナーに触れなければならず、スキャナーがすぐ汚れてしまい定期的なメンテナンスが必要になるという問題があります。一方、目は「セルフクリーニング」であり、虹彩スキャナーは目から適度な距離をとって作動します。この他にも、使いやすさ、展開しやすさ、コストなど、商業的に実用化可能な生体認証システムを構築するには様々な必要なファクターがあります。

しかし前述のとおり、初期の虹彩スキャナーには「固定された位置」「近い距離からのスキャン」という2つの制約がありました。このため、初期の虹彩スキャナーは、歩いている人や遠くにいる人には使用できません。Sarnoffは、実生活のシーンで虹彩認識技術を使用するという課題解決に取り組んだのです。そして、IOMシステムは2006年までにプロトタイプ化されました。2008年、Sarnoffはフロリダで開催された生体認証コンソーシアム会議(Biometric Consortium Conference)で、虹彩キャプチャーシステムのデモ「ドライブスルーと新たなCompact Iris on the Move ®(IOM)」を行います。2009年には、オランダのスキポール空港でIOMシステムのテストを実施しました。空港で個人がセキュリティチェックを通過する際に、IOMシステムによる離れた場所からの虹彩スキャンで、動く人々の個人の認識に成功しました。個人を識別する処理速度は、毎分最大30人にのぼりました。

手のひらの上のIOM

それ以来、Iris on the Move® (IOM)システムは大きな成功を収めています。IOM技術に基づく商業用製品のひとつが、企業のロビーや空港で使用されるIOM PassPort SLです。2013年、Iris on the Move(IOM)PassThruシステムは、屋外やあらゆる照明の条件下において、自動車に乗った状態での虹彩認証を成功させました。ドライバーは、手袋、ヘッドギア、メガネ、コンタクトレンズを外す必要はなく、ただ車内に居る状態です。2014年に、Samsung社はモバイル端末のアクセス制御メカニズムとしてIris on the Move技術を採用しました。

2016年、さらなる発展を目指してIOM技術を推進し、SRIのスピンアウト企業としてPrinceton Identity Inc.を設立しました。それ以来、世界中のスポーツ会場、医療・健康管理アプリ、国境の管理などにIOM技術が採用されています。そして2018年、Princeton IdentityのソリューションであるAccess500e™がドバイ国際空港に導入されました。このシステムは、動く人々の識別を1~2秒で処理することができ、旅行者にスムーズなセキュリティチェックを提供します。

虹彩認識技術は、これまでにSRI Internationalが育んだ多くの発明と同様に、SRIとその研究者たちの専門知識を活用して商業的に実用化可能な技術となりました。Sarnoff Corpが提供した「画像キャプチャー技術」と「高解像度カメラ技術」に関する詳しい知識は、虹彩認識アルゴリズムと実生活の環境で活躍するイノベーションの誕生に大いに貢献したと言えるでしょう。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料など:

Interview with Steve Perna on IOM: https://www.biometricupdate.com/201512/sri-executive-discusses-iris-on-the-move-technology

J. G. Daugman, “High confidence visual recognition of persons by a test of statistical independence,” in IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, vol. 15, no. 11, pp. 1148–1161, Nov. 1993, doi: 10.1109/34.244676.

Matey, J. R., et.al., (2006). Iris on the Move: Acquisition of Images for Iris Recognition in Less Constrained Environments. Proceedings of the IEEE. 94. 1936–1947. 10.1109/JPROC.2006.884091.

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社

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