ぱなぬふぁ、という名の店

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今回のツアーはどこもみな雰囲気のある会場、印象深いライブ、忘れがたい人たちばかりだったけど、「花の子」という名前を持つここ波照間のパナヌファは、とにかく別格だった。空気の組成からして違った。強烈だった。


「別に、カミサマはここにだけおるんと違う。東京にだって大阪にだってうようよおる。ただ街では情報が多すぎて、見なあかんもんが多すぎて、それらに気ぃつけへんだけやねん。
 ここには何もないから、どうしたってそういうもんが目につきよる」


店主岩崎さんは時折、あらぬ方を見上げてぼおっとしている。
声をかけてもウワノソラだ。
そんな時はたいがい、カミサマではなく、ヤモリと話をしている……のだそうだ。

-どんな話をしてはるんですか、ヤモリと?
-そうやね、なんでもいいけど、大切なこと話しといた方がいいかな
-大切なこと?
-好きなことだけして、生きていきたいよなあ、とかね


カラスとも話す。カラスはよく喋る。仲間内でも、人間に対しても。

-何かコツってありますか?
-そうやね、歳いったのはひねてるから、若い頃から話しかけていくことかな。
-若いのって、どうやって見分けるんですか
-犬見たって、わかるでしょ。子犬か大人か、老犬か。カラスだって同じよ。顔見たらわかる。わかるようになるよ、よう見とったら。

そんな岩崎さんが語りかけるのは、何もヤモリやカラスに限ったことではない。

-ちゃんと話しかけとるか

そう聞かれたのは、石垣の家によく出る巨大ゴキブリについて話していた時だった。

-ゴキブリだって、話せばわかる。まずコミュニケートする努力しなあかん。街では有無を言わさず殺虫剤やけど、それでは世界は平和にならん。
 言うてみてわからんやったら仕方ない。けど、言うたらわかるで。
-なんて言うんですか?
-めっ。
-めっ?
-そう、めっ! 今はダメ、営業時間だから。飛ぶのはやめて!
-そしたら……
-そしたら、出てこんようになる。ほんまやで。


ほんまやほんまや、というように、天井でヤモリがキャッキャッキャッと騒ぎたてる。言い忘れたが、この店のヤモリは人の話に返事をする。座が盛り上がれば一緒に笑い、いい話には相づちを打つ。
もっとも、それも岩崎さんに言わせれば

-別にここだけと違う。どこのヤモリかて、ちゃんと人の話聞いとるで。

ということらしいが。

(2005.8.13)

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