心臓日記第2部 その2──手術終了、ICU

 この辺りの記憶があいまいなのだが、たぶん自分の異変に気付いたのが先だ。まず耳が詰まり始める。そして顔がビリビリしてくる。なんだか腫れあがっている、という感覚になる。歯医者さんで麻酔をすると唇などがビリビリして噛んでも痛くなくなるが、あれが顔全体である。そう思っていると先生が「鼠径部からのアプローチに変えますね」と言う。ここではその理由は聞いていなかったと思う。すると今度は寒くなってくる。寒いというレベルではなく、体全体が凍り出して物理的に震え出すくらいの感覚。歯がガチガチと鳴る。北極で氷の中に閉じ込められて、更にその氷と体との隙間に冷水を入れられるとこんな感じか、という気持ち。そして左腕が本当に凍りついた(凍ってない)。先生寒いですガチガチガチ。と歯を鳴らせながら言う。「もう少しです、がんばってください」と言われる。「はい、じゃあ次30分」という、前回の手術中に何度も聞いた台詞が耳に入る。
 そして手術終了。左手が、体全体が暖かくなってくる。まさに血が戻ってきている感覚。良かった助かった、と思う。
 後から聞いた話だが、前回の時のステントの手前がまた狭くなってきていたらしく、今回の手術の影響もあってこうなったらしい。その処置で時間がかかったよう。
 今回はステントとともに、鼠径部から管とバルーンを入れられた。心臓の周辺で何かがパクパクと動いているものがあるのが感じられる。これがバルーン。外の機械と繋がっていて空気を送り、これで心臓の動きを助けている。血圧が急激に下がっていったのもあの寒さの原因らしい。

 手術は結局4時間かかり、昼過ぎになっていた。そのままICUへ運ばれる。一回目に続きジェイコブズ・ラダーである。またか……とがっくり来る。とは言え「やばいからICU」の前回とは危険レベルはまるで違う、というか別物なので、深刻ではないはず。そして前回は緊急手術からの意識もうろうのままの夜中のICU、それに比べ今回は昼間でかつ意識もはっきりしているので、今自分がどこにいて、どういう状態なのかは理解している。
 しかしひとつ深刻なことが起きた。尿道カテーテルを入れるという。前回のヘルレイザー状態を説明してなんとか回避できないかと頼んだが無理だった。だけど今回、ちょっとした技をかけてもらうことができた。すると痛みは前回の1/1,000以下になった。大げさではない。何もなしで入れるとそれくらい痛い。
 左手首動脈からカテーテルを入れていたので、そこをプラスチックバンドで強く締め、2時間に一度の空気抜き。前回もこれをやったがカテーテルは手首からは入れてないはずなので、あれは何の跡だったんだろう。
 そして右手首からの動脈には針が入る。ここから常に採血ができるのと、その時以外は何かに繋がっている模様。あとは腕に点滴の針。それでも刺さっている針の数は一回目より格段に少ない。
 鼠径部から心臓まで管とバルーンが入っているので例によって絶対安静、立つなど論外だが足を曲げてもいけない。その管は数時間で抜いてもらえた。これは痛みもなくするっと抜けた。そして明日にはバルーンそのものも抜けるという。それはありがたい。しかし前回のインペラを抜いた時のことを思い出してしまう。

 この日は結局一日中何も食べられず、夜まで何をしていたのか覚えていない。前回のICUの夜は異常な感覚が続いたが、今回はそれはなかった。ふつうに寝たと思う。

(つづく)

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