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ゴリラ裁判の日|動物が知性を持ったとき

あらすじ

カメルーンで生まれたニシローランドゴリラ、名前はローズ。メス、というよりも女性といった方がいいだろう。ローズは人間に匹敵する知能を持ち、言葉を理解する。手話を使って人間と「会話」もできる。カメルーンで、オスゴリラと恋もし、破れる。厳しい自然の掟に巻き込まれ、大切な人も失う。運命に導かれ、ローズはアメリカの動物園で暮らすようになった。政治的なかけひきがいろいろあったようだが、ローズは意に介さない。動物園で出会ったゴリラと愛を育み、夫婦の関係にもなる。順風満帆のはずだった――。
その夫が、檻に侵入した4歳の人間の子どもを助けるためにという理由で、銃で殺されてしまう。なぜ? どうして麻酔銃を使わなかったの? 人間の命を救うために、ゴリラは殺してもいいの? だめだ、どうしても許せない! ローズは、夫のために、自分のために、正義のために、人間に対して、裁判で闘いを挑む! アメリカで激しい議論をまきおこした「ハランベ事件」をモチーフとして生み出された感動巨編。第64回メフィスト賞満場一致の受賞作。

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「動物が人間と同等の知性を持った時、司法はどうあるべきなのか」を考えさせられるストーリー。

作者について

1987年生まれ、青山学院大学卒業。
デビュー作。
講談社が主催するメフィスト賞を受賞。
メフィスト賞は新人向けの賞で、エンタメ小説であればジャンルの縛りはなし。京極夏彦の存在が大きい。

ハランベ事件

実際に会った事件がベースのこの小説。
2016年のアメリカで、動物園のゴリラの檻に落ちた子供に対して、ゴリラが手荒に扱うそぶりを見せたので射殺した、というもの。
ゴリラのハランベは動物園で人気者だったこともあり、抗議運動が激化。
檻に落ちた子供の親は、監督責任を問題として、SNSを中心に批判を浴びることになった。

主人公 ローズ

ニシローランドゴリラのローズ。
手話を介して人間と会話ができるが、発話はできない。
その知能に気づいた研究者が、手話の動きをよみとり、リアルタイムで人工音声で発話できる機械を与えた。
この機械を介することで、なんなく人間と会話ができる。

ちなみに、知能は人間と同等。

なぜ人間と会話できるのか?

カメルーンのゴリラ研究所の研究員が、ローズが産まれる前、ローズの母に遊びで手話を教え、簡単なコミュニケーションが取れるようになった。
その子供であるローズは、小さい頃から研究所に出入りして、人間の言葉や生活も身につけるようになった。
種族的にはゴリラなので、ゴリラとの会話やゴリラとの生活にも問題なく順応。

ローズ、動物園へ

ローズが属していた群れのボスが、他の群との抗争に敗れて死亡。
ローズの群れもそれで離散。
みんな強い別のオスの群れへ合流していった。
なまじ知性のあったローズは、身の振り方を決めかねていた。
そのタイミングで研究員が、ローズの意思を確認し本人同意のもとアメリカへ。

アメリカの動物園での生活が始まった。
動物園の運営や飼育環境のアドバイザリーや、ゴリラ研究に助力するかたわらゴリラのパートナーも得ておだやかな生活を送っていた。

事件発生

ある日、ゴリラの檻に4歳の人間の子供が落ちた。
ローズいわく、オスのゴリラがその子を保護しようと近寄る。
動物園側が、このままでは襲うと勘違いして、オスゴリラを銃殺してしまった。

ローズはこの暴挙に憤りを覚え、動物園を訴えた。

・麻酔銃ではなく実弾を使ったこと
・敵意がなかったゴリラを射殺したこと
・人間の命が優先されたこと

人間の弁護士をつけるも、その弁護士のやる気のなさが災いして一審では負けてしまうローズ。
「正義は人間に支配されている」という捨て台詞を吐いて、メディアを騒がせることになった。

弁護士ダニエルとの出会い

控訴し、次は負け知らずと言われる弁護士を雇い入れることにした。

超有能弁護士、ダニエルはローズに対してあまりにも失礼だった。
かろうじて面談はしてくれたものの、無礼な態度でローズに罵声を浴びせる。

その理由は、ローズがあまりにアホだから。
あまりにも司法を馬鹿にしているから。

司法を汚したことに、ダニエルは本気で怒っていたのだった。

正義、司法は人間が何千年もの歴史をかけて作り上げたもの。
より良い社会を築くために、多くの犠牲を払って作り上げたもの。
人間が努力して作り上げたものを、後から来たゴリラに侮辱する権利はあるのか?


法廷に捨て台詞を吐くようなものを弁護するに値しない。

この言葉に目が覚めたローズは、ダニエルに謝罪。
ダニエルもクールダウンし、和解。再度裁判を戦うことになる。

人間と動物の違い

「人間と動物の違いは複雑な言語体系を持つか否か」

こういった研究論説がある。
この研究に則れば、人間の言語を操るゴリラは、人間と同等ということになる。
ゴリラにも人間と同等の人権を与えるべきである。
「人間」は、ホモサピエンスを含めたもっと大きい社会通念上の言葉である。

裁判は、言語を習得するポテンシャルのあるゴリラの人権を認めるか否か、が論点になった。

この本を読んで見えてきたもの

知性を持った動物が登場したとき、司法はどこまで適応されるのか、という課題を提示した。

たらればの話だけれど、なかなか争点は面白い。


ゴリラの生態も。

群れ社会で一夫多妻制。
基本的にはおだやかな性格。
死についてはドライで、群れ間の抗争で子供が餌食になると、子を殺された母は、子を殺したオスを強い頼れると思ってついていき、群れの乗り換えをする。

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