タイムブレイカー:時を超えし者の選択①
プロローグ - 崩壊する未来
2057年、地球はもはや人類の手の届かない場所にまで崩れ去っていた。かつて、無限の資源を持つかのようにふるまっていた人類は、過剰な消費と無謀な開発の末、自然を蹂躙し、もはや再生の兆しを見せることはなかった。気候変動は世界中で猛威を振るい、極端な温暖化や異常気象が頻発するようになった。氷河は溶け、沿岸部の都市は水没し、農地は干ばつに見舞われた。
資源は枯渇し、海洋は汚染され、森林はほとんど消失した。大気は汚染物質で満ち、酸素の濃度は急激に低下した。これらの影響で生態系は崩壊し、多くの動植物が絶滅の危機に瀕した。
そして、人類同士の争いも加速した。食糧や水、エネルギーを巡る戦争が各地で勃発し、各国は次々とドーム都市を築き、そこに生き残りをかけて閉じ込められていった。外の世界は危険と化し、時折送られる救援物資だけが支えとなる日々。人類は過去の繁栄から何も学ばず、限られた資源を奪い合う無限の悪循環に陥っていた。
新たな希望、タイムトラベル研究
人類がかろうじて存在を保つ中で、科学者たちは新たな道を模索していた。過去に存在した奇跡のような時代を取り戻すため、または時を変えることで未来をやり直すため、彼らは極秘裏にタイムトラベル研究を進めていた。物理学者たちは、時空間を歪める技術の開発に成功し、ついに「タイムトラベル」という未知の領域に踏み込んだ。その研究の成果こそが、今、人類の未来をかけた最終兵器となる。
「タイムブレイカー」──それは巨大なロボットであり、時空を越える装置そのものだった。全高60メートルを誇り、まるで戦争の兵器のような外見をしていたが、その本来の使命は、ただひとつ。「歴史を変えること」だった。ロボットの内部には最新のAIと、あらゆる戦闘技術が集約されており、数十名のエリート科学者たちによって開発された。しかし、それだけでは足りなかった。タイムトラベルを実現させるには、人間の意志と操作が必要不可欠だったのだ。
ユウキ・カムラの登場
タイムブレイカーのパイロットに選ばれたのは、かつてのエースパイロット、ユウキ・カムラだった。ユウキは若き日、世界最先端の航空機で数々の戦闘任務をこなし、無敵のエースパイロットとして名を馳せた。しかし、その活躍の裏で、彼は過去に数え切れないほどの戦争の中で命を奪ってきた。その結果として、心には深い傷を抱えていた。戦争の恐怖と人命の軽視に疲れ果て、彼は心を閉ざし、人々と距離を置くようになった。だが、その能力と冷徹な判断力を買われ、最も重要な任務を託されることとなった。
彼が受け取った指令書には、こう記されていた。
「地球を救うには、6500万年前に戻り、隕石衝突を阻止するしかない」
ユウキは信じられない思いでその言葉を眺めた。隕石の衝突は恐竜を絶滅させたとされている。それを阻止することが、どうして現代の地球を救うことに繋がるのか。歴史の流れを変えるという考えそのものが、彼には信じられなかった。
だが、その指令書には続きがあった。
「現代の地球は限界を迎えている。この歴史を正せば、未来は新たな可能性に満ちるだろう」
ユウキは指令書を何度も読み返す。過去の人類の過ちが現在に及ぼす影響を鑑みると、確かに6500万年前に戻ることで何かを変えられるかもしれないと感じた。しかし、過去を変えることによってどんな代償が待っているのか、予測できない未来に向かって踏み出す恐怖もあった。
だが、指令書の最後の一文を見て、ユウキは決断を下す。
「私たちにはもう、これしか選択肢はない。」
彼は心の中で呟き、タイムブレイカーの操縦席に座ることを決意した。彼の選んだ道が、どれほど恐ろしいものかを自覚しながらも、彼は前に進むしかないという現実を受け入れた。
ユウキの決断が、未来を変える第一歩となるのだった。
未来を救うための準備
ユウキがタイムブレイカーに乗り込むための準備が進められる中、彼の周囲には数名のスタッフが控えていた。その中でも特に重要なのは、タイムトラベルをサポートするAI、セレスだった。セレスは、ユウキの命を預けるとともに、タイムトラベルの制御システムを担当していた。セレスの冷徹で論理的な性格は、ユウキのような直感的なパイロットには少し合わないと感じられたが、唯一無二の存在として彼の心の支えとなる存在だった。
そして、ユウキはその夜、最後の休息を取る間もなく、タイムブレイカーの操縦席に着いた。彼の周囲の人々は、彼がこの任務を果たせるかどうか、ひとりひとりが心配している。それでも、彼には選ぶ余地はなかった。人類の未来は、今、彼の手に委ねられた。
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