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24.09.16 日記

子ども連れが多いホテルでチェックインの手続き。
私と連れの荷物は、リュック×1、紙袋×2、トートバッグ×2、サブバッグ×2
こんな具合でわりと大荷物だった。
不用心とは思ったが、ロビーのソファに荷物を置いてチェックインの手続きを一人でする。連れは車を駐車中でまだ来ていない。
出張が多い身だから、チェックインなんぞ数分で終わるだろうとたかを括ってカウンターへ向かう。カウンターは6、7個、それに対してスタッフは一人。
足りないにも程がある。無人カウンターばかりが並ぶ中、私は自身が列の先頭としてどこにポジション取りをするべきか決めかねていた。決めるまでの間にフロントスタッフが来るだろう、そう思っていた。
甘かった。
なかなか来ない、そして連れも戻ってこない。ソファの上に置いてけぼりにした大量の荷物の安否も気になる。
やっとスタッフから声がかかり、ビジネスホテルよりも時間がかかるチェックインを終え、館内の説明を片耳で聞く間もソファに置いた荷物に目配せをしていた。無事?メーデーメーデー。安否確認を繰り返す。
いつの間にか駐車を終えた連れは何故か荷物を見るでもなく、私の隣に立ち、一緒になって館内案内を受けている。荷物を見ていて、とその一言を言う間もなく館内の説明が続く。

はい、二人ともタバコは吸いません。
あ、混んでいて食事が30分遅れ、大丈夫です、分かりました。

いい大人が二人で大浴場の空き具合を真剣に聞いている。
片目で見ている荷物は無事、1ミリも動いてない。誰も触っていない、ただ一人、荷物の隣に腰掛けている男の子が私の鞄をじっと見ている。
気になる?いいよね、その鞄、私も好き。
私が使っている鞄はそのほとんどが本革で、それは父が趣味で手作りしているものだ。ミシンは使っておらず、すべて手縫い。革の手入れは全く出来ないが、いいなぁ。使ってみたいなぁ、そんな軽い気持ちで実家に帰る度にいくつも鞄をお土産にしている。
その鞄を少年がじっと見ている、なんだか嬉しくなって長い説明を終えて部屋の鍵をもらった後、軽い足取りで荷物を置いたソファに向かった。
私の鞄を睨みつけていた少年は、正面に向き直っていた。もういいの?
連れと荷物を担ぎ、歩き出そうとしたとき、
「それ僕んちの」
衝撃の一言。
見てたのは知ってる、少し離れたところから名前とかフリガナとか、電話番号とか、予約のときに書いたやつもっかい用紙に書く間も君を見てたから。
でもまさかね。持ち主が嫌疑をかけられるとは思わなかった。
「ほんとに?」
なるべく標準語のイントネーションで返す。
「お母さんに荷物見とってって頼まれた。それまーちゃんのカバン。」
「え、ほんまに?」
ほんの少し出てしまった訛り。少年が指差す先には連れのリュック。見つめてたのそっち?
私には連れが使い込んだアークテリクスのpcリュックにしか見えない。ただ同じリュックを持つ、まーちゃんと呼ばれる方がこの男の子の近しい間柄にいるのかもしれない。彼の意思を無下にはできない。
あれこれ話した結果、少年の勘違いであることが分かった。目の前に彼の言うまーちゃんのリュックを持ってチェックインの手続きをする母親がいたのだ。
「勘違いだった。」
前を向いたまま少年は言った。あまりの潔さに責める気も起きず、寧ろ疑いが晴れてよかったとほっとした自分がいた。
あの少年は、母親から言われた荷物番をしっかりとこなそうとしていたのだろう、いつの間にか監視の対象が左隣の少年家の荷物と、右隣の我々の荷物とで入れ代わってしまったんだろう。そうだとしたら、私の鞄を穴が空くほど見つめていた理由も納得がいく。そして任された任務を少年1人で遂行しようとした気負いが彼の目から伝わった、だから間違ったことを責めたりは出来ない。
連れは自分が背負った荷物を指差され、盗人呼ばわりされてから、誤解だったと分かり釈放されるまで一言も話さなかった。


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