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SQUA的連載コラム

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沖縄で暮らすひとびとの、日々のものがたりと、思うこと。
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#写真

vol.040 再会

「東京行きたい」と娘が頻繁に言葉にするようになったのは昨年末ぐらいからだった。 私はコロナ禍でも一昨年前から母の顔を見に関東へと出向いていたが、娘は3年近く関東に住む親戚に会っていなかった。新型コロナウイルスの感染が心配だからと休みの度に「東京は、また今度ね」と先送りにしていた。 そんな中、今年の春休みは、1週間ほど母の家と姉の家へと行ってきた。旅好きな私に連れられて以前は飛行機に頻繁に乗っていた娘だが、「わ〜。飛行機ひさびさ過ぎてこわ〜い!」などと出発前は少し緊張気味だ

vol.039 工房風花

北海道出身の中里ゆきさんは20代の頃、農業に携わる仕事をしていた。西表島との最初の出会いも、サトウキビ刈りのアルバイトで来島したことがきっかけだった。 20代後半の頃、腰を痛めたことがきっかけで、働き方について考えるようになったゆきさんは、以前から興味のあった陶芸への道を歩むため、益子にある職業訓練校へ通い、陶芸の経験を積んだ。 2年ほど経験を積んだのち、沖縄県読谷村の窯元へと弟子入りして本格的に陶芸と向き合う日々を過ごした。 5年半ほどたった頃、独立を考え始め、読谷村

vol.038 タマリンド食堂

タマリンド食堂の永田かな子さんと出会ったのは、5年ほど前のこと。 2017年、かな子さんは石垣市内にスパイスカレーのお店「タマリンド食堂」をオープンさせた。私もカレーを食べに行く島民の中の1人だった。オープンから1年半が経ったころ、かな子さんの子どもがまだ幼く手がかかったことから、もう少し静かな場所に移転したいと思うようになり、2018年の末に店を閉めた。その後は、プライベートや結婚式などでの出張ケータリングサービスや、オフィスへのお弁当販売、カレーのレトルトパック製造など

vol.037 ボーイフレンド

昨年末に、久しぶりに会う友人と石垣島でランチをした時のこと。 友人「私、好きな人ができたの」 私「えっ?!」 恋愛とか、付き合うとかそんな言葉からかなり離れたところで生きている私にとっては、なんだか違う国の言葉を聞いた気分になったが、抑えきれないような溢れる笑顔で話す彼女を見ていたらなんだかこちらまで一緒に浮き浮きした気分になってしまった。 5年ほど前に前夫と別れて以来初めて恋に落ちたらしい。 私「どこで出会ったの?」 友人「マッチングアプリ」 私「えっ!」

vol.036 記憶

1年ぶりに関東で1人暮らしをする母を訪ねた。 数年前から記憶が薄れていく症状を発症している母は、昨年よりも熱心に、忘れてはいけない情報を卓上のカレンダーと戸棚の内側に貼ってあるカレンダーに書き込んでいた。それでもやっぱり忘れてしまうので、私から伝えられることは、その都度くりかえし伝えた。 使い込んだカメラは塗装が禿げて味がでたり、長年愛用した壊れかけのラジオや扇風機は、トントンっと角を叩くと「よっこらしょ」と動いたりして、その頑張りを褒めたくなるものだが、人も長年生きて

vol.035 人と縁と時間と

ここ1週間ほど、出会いと再会の日々を送っている。 先週は仕事で竹富島から沖縄島へと行っていた。撮影の依頼主とは何と20年ぶりの再会だった。 私をSNSのInstagramから見つけだしてくれての撮影依頼だった。 私には20年前の記憶はあまり残っておらず、撮影を依頼してくれた本人と再会するまでは初対面の気分でいた。再会後にようやく当時のことを少し思い出すことができた。お互いにコツコツと続けてきた自分たちの仕事で繋がれたこと、そして何よりも私のことをずっと記憶していてくれ

vol.011 ただよう気配に言葉をのせて

沖縄本島北部にある本部港からフェリーに乗り、伊江島にやってきた。 農地が延々と広がる穏やかな島を巡ると、自家製の登り窯で唯一無二のやちむん(焼き物)を生み出す陶芸家や、おばあたちが繫いできた文化を途絶えさせまいと「アダン葉帽子」の継承に尽力する編み手たちに出会う事ができた。 そんな素晴らしい手仕事の数々に魅了されっぱなしの旅だったが、今回僕が取材していたのはこの方だ。 セソコマサユキさん。 これを読んで下さっている方の中には、その名をご存知の方も多い事だろう。 当コラ

vol.34 島のハロウィン

毎年この時期になると「英語で遊ぶ会」の子どもたちに、「もうじきハロウィンだけど何したい?」と聞いている。カボチャのクッキー作りをしたり、仮装をしてTrick or Treating に出かけたりしている。 今年も仮装した子どもたちを連れて、あらかじめお願いしておいた家々をTrick or Treating してまわってきた。途中、計画していなかった嬉しいサプライズもあった。集落を歩いていると、観光会社の事務所から「なにやっているの?」とお姉さんたちが出てきてハロウィンの仮装

vol.032 ピクニックしながら英会話

娘が5歳ぐらいの頃から、島の子どもたちを対象に「英語で遊ぶ会」を開いている。 ひとりっ子の娘にお友だちと遊ぶ機会を作ろうと思ったことが始まりだった。小さい子どもを机に座らせ英語のお勉強をさせることに抵抗があった私は、友人や知人に「もし自分が子どもだったら、どんな英語教室に通ってみたい?」と聞いてまわった。その中でアイディアをもらったのが、「ピクニックしながら英会話」というものだった。これは大人でも楽しいと思った。せっかく竹富島のような自然豊かな環境の中で育っているのだから、

vol.031 心の目

7月ごろから人を撮影する仕事が重なっていた。このご時世、人に会うのは気をつかい、親しい友人にもなかな会えない。そんな時期に仕事とはいえ対面で人に会う機会が重なったのは心配もあったけれど、素直に嬉しかった。 先日SNSのタイムラインに人類学者の山極壽一先生のインタビュー記事が流れてきたので気になり読んでみた。その中で、「共感を向ける相手をつくるには、視覚や聴覚ではなく、嗅覚や味覚、触覚をつかって信頼をかたちづくる必要があります」と話されていて、記事を読みながら深く頷いてしまっ

vol.029 バケーション

夏には、ワーケーションじゃなくて、バケーションを楽しみたい。 完全にオフライン、脱パソコン、写真編集も現像も、メールや原稿チェクもしないバケーション。 目覚まし時計に起こされず、朝食にはゆっくりとコーヒーをドリップし、新鮮なフルーツをカットしながら流れる音楽に鼻歌をのせて、好きなように新聞や本を広げて午前中いっぱいをゆるりと過ごす。気が向いたら水着に着替えて海へ。思う存分泳いだらランチへ。テーブルを囲み友人や大切な家族と食事を楽しむ。おしゃべりに花が咲き時間を忘れる。午後

vol.028 木漏れ日舞う中で

先月からお別れが続いている。 2人とも私が暮らす島のご近所さんたちで、20年前に移り住んだ頃から可愛がってくれていた年配の島人たちだ。MさんにもTさんにも娘を含め家族全員がお世話になっていた。 先日は、109歳と大往生のTさんの納骨式に参列してきた。木々に囲まれた空間にやふぁやふぁと南風が心地よく、木漏れ日がテントの幕や参列者の上で美しく舞っていた。 Tさんの納骨式も先月参列したMさんの納骨式も同じ場所で行われたのだけど、それは2人が眠る立派な亀甲墓が隣同士だからだ。T

vol.027 ペンペンとレモン

ヒヨコより少し大きくなったぐらいのニワトリの雛を譲り受けたのが、今から1年半前のこと。  新鮮な卵で朝ごはんを作るのが夢だったのだが、育ててみたら雄鶏だった。  毎朝力強く「コケコッコ〜!」と雄たけびを轟かせる立派に育った2羽の雄鶏は、私が期待していた卵は産んでくれないけれど、愛嬌があり、とぼけた仕草や見栄を張る動作で、私を愉快な気分にしてくれる。 ニワトリは朝5時前に鳴き声をあげる。さすがに毎朝早くに起こされることに疲れ果てたご近所さんから苦情が来たことをきっかけに、

vol.026 にじいろ屋

昨年11月にオープンしたにじいろ屋さんは、島の農家さんが作る野菜やフルーツ、加工品などを販売している小さなセレクトショップだ。 野菜やフルーツなどは、オーナーの真理子さんが島を駆け巡り、農家さんから直接買い付け、自宅のガレージを改装したお店で量り売りで販売されている。 八百屋なのにおしゃれな空間だな、というのが私の最初の印象だった。今年の初めごろに娘を連れて訪れたときは、野菜嫌いを自認するひとが、野菜の量り売りにときめく姿が新鮮だった。  一つ一つ吟味しながら野菜を買い