見出し画像

なぜスポーツウェアメーカーがマスクを作って売るのか?その理由と目的を書いておきます。


当初のコロナウイルスに対する危機感のなさ

新型コロナウイルスの感染拡大に危機感を覚えますが、当初は日本の人たちはそれほど危機感を持っていなかったのだと思います。

中国には私たちSQUADRAの中国工場があります。春節のころに事態が急変してきました。当初2月6日から稼働するはずの中国工場が従業員さんが帰ってこず、稼働できないというのです。とりあえず最初は2月10日まで伸びました。その後15日までと終わりが見えなくなってきました。(現在は工場自体は通常稼働しています)

それとともに、物流も滞り始めました。全得意先には納期が間に合わない旨を連絡し、今後の注文についても納期未確定のままでよい場合にはお受けできるというご連絡をしました。

日本はどうでしょうか。

1月の28日に最初の国内の感染者が奈良県で出ました。弊社は奈良県の会社ですし、展示会に出展している会社さんも奈良の会社も多くあります。びっくりはしましたが、その後こんなに感染者が増えるとは思ってもみませんでした。
今に比べると危機感というか、他人事だったと感じています。

マスクを非常にたくさん使用するSQUADRAの工場

ウチの会社の製造部では、マスクを多用します。

繊維を裁断(切る)とホコリが山のように出ます。吸い込み続けるともちろん良くないので裁断チームさんはみんな通常からマスクをします。

また、プリントチームも、転写紙と生地を固定(貼り合わせる)のにスプレー糊を使います。こちらも吸い込むと良くないためみんなマスクをしています。このように非常にマスクを使う会社でもありますが、

2月の頭から急にマスクが店頭から消えました。

工場のマスク在庫もみるみる間になくなっていく。

ただ、この時点ではマスクを作ろう。などという考えは私の頭には全くなく、「まあ、いつか終息してマスクも店頭に並ぶだろう」程度の甘い考えだったことを受け取り直しています。

マスク商品開発秘話

ウチの会社は、全従業員にスマホの端末を持ってもらっています。社内チャット用で、セキュリティや退職後のことを考えて、中古のiPhone7を70台買って配っています。そして、チャットアプリにて全社員共有のスレッドがあるのですが、そこの全社員スレッドに3月18日、一本の投稿が上がりました。縫製チームのパートの女性からでした。

画像1

会社の生地でマスク作りました!

みんながマスクがいつか、なくなるという危機感を持ちながらもどうしようもなかった、いや何もしなかった1か月。

実は秘密裡(笑)に、計画は進んでおりました。

縫製チームのパートさんが、昼休みや自宅での時間を利用して、快適でシワにならず着け心地のよいマスクを何度も型紙(パターン)を引き直して、資材を100均で買って作っていたというのです。

もちろんそれは、社員分のマスクが無くなるので、昼休みなどを利用して全員分作ってあげようという善意(良心)からでした。

いろいろ特徴があります。

1.生地はユニフォーム生地の端切れ(裁断して残った裁断くずと呼ばれるもの)

2.生地の種類も吟味し、一番苦しくない素材を使用

3.ちゃんと上下があり、鼻の部分と顎にかかるようになっている

4.きわめつけは、2枚の生地の間に入っているフィルター。これはダイソーで買ってきたエアコンフィルター(Ag+)。紙フィルターだと、洗うとすぐにボロボロになってしまう。そこで見つけたのが100均で売っているエアコンのフィルター。これは、紙ではなくポリエステルを使用しているため洗うことが可能ですし、乾くのも非常に速い。しかも抗菌防臭。しかも、エアコンフィルターに関してはコロナウイルス騒ぎでも需要があるので、ダイソーでもAmazonでも全然売っている。

5.耳にかけるゴムは調節可能なように縫製されている。などなど

さまざまな工夫を凝らしたマスクが完成していました。

(注意)もちろん新型コロナウイルス感染を防ぐ効果はありませんし、エビデンスは取れません。ただ自身の飛沫を防いだり、顔を触る機会を減らしたりはできます

大切なことが2つあります。

1つは、端切れとはいえ「会社の生地を使って作りました」と言ったにもかかわらず、だれも文句ひとつ言わず彼女に賛同したこと。昔であれば、やれ会社の財産を勝手に使ってだの、昼休みとはいえ会社の時間や機材を使って作っただの。いう人がいなかったといえばうそになります。ただ、今回はこのスレッドが上がった瞬間に、勝手にプロジェクトチームができていました。社長はほったらかしで(笑)

もう一つは、パートさんの能動性にみんな心打たれて動き出したということです。動機は「困っている人がいるから」という課題の解決が最初かもしれません。ただ、その課題解決を媒介として、全員が動き出し、商品開発し、資材の調達、販売方法、価格、運搬の件など、世の中に困っている人が目の前にいるのだから、せっかくだからやろうよ!という能動性が発露したことです。

それを見ていて思いました。

これが商品開発の真骨頂だなぁと。

売上を上げるために商品開発するのではなく、また社長が世の中のためにといって商品開発させられる従業員さんがいるでもなく、ただ目の前に困っている人がいるのだから商品開発勝手にできた。という感じです。

その時に思いました。

あ、マスクを売るのではなく、この能動的な情動(感情)があるということを知ってもらおう。

ということで、3枚セット1500円(税抜)という結構凝ったマスクの割には低価格で販売を開始しました。

すでに1500枚以上のオーダーが、私がTwitterとFacebookの投稿だけで入っています

いまのウチの会社の現状と値決めについて

なぜ、この低価格でマスクが作れるのか?それは、ウチの会社の規模で固定費が必ずある中、通常のユニフォーム受注が減っている合間にやるだけのことですので、固定費が増えることはありません。

もちろん、1枚2000円とか3000円とかでも売れるとおもいます。それは弊社の経営状況や私たちメンバーの総意が1枚500円という価格を出したのと思います。

原価から売値を考えていない。

これは、ほかの商品でも同じこと。この値決めに関しては、会社のポリシーとして根付いていました。

もちろん、資本主義社会ですから、①マスクを2000円でも5000円でも法に触れないのであれば値付けは自由 ②寄付してもいいし、③やらないという選択肢も全然ありです。すべて否定しません。

この物語はコロナ騒ぎで、ウチの会社の経営状況とタイミングをがすべてあった時に生まれた物語です。あえていうと、マスクで利益を取らなくても、いや売上が全くなくてもウチの会社は1年ぐらいぜんぜんやっていける体力を持っています。

なので、マネはできないかもしれませんし、マネしてもいいけどできない会社もあるでしょうし、それはそれぞれの経営判断ですが、この話を公共化しておくことで誤解のないようにしておきたいと思います。

マスクを売りたいのではなく、マスクを通じて生まれた物語を売る。

上記の物語は、まさに新型コロナウイルスのおかげで生まれた物語です。

これがなければ彼女の能動性は世の中に出ていなかったかもしれません。

でも誰しも持っているこの能動性とか主体性とか良心とかいうのは、ちょっとしたきっかけで発露するのです。

それをこのマスクを通じてお届けしたいというのが、このマスクを作って販売する理由です。

そしてさらにその目的は
人類が困難をきっかけに、前向きに肯定的に未来思考で生きることができると思うからです

D2Cとの出会い

コロナウイルスのおかげでと言いますが、もちろん全世界で感染して苦しんでいる方、亡くなられた方やそのご家族については本当にお悔やみ申し上げます。

が、その人たちのためにも、コロナウイルスのせいでといつまでもコロナとの不毛な戦いをするのではなく、コロナウイルスのおかげで残念ながら無くなってしまった方のためにも、人類が進化したり、より良くなる方向へ導いていくのも残された人間の責務だと思います。

D2C(Direct to Consumers)という形態が流行っている?世間をにぎやかしていますが、ウチは完全にBtoBの業態です。

しかし、このコロナのおかげで生まれたマスク物語を通じて、私の中にはD2Cの本質を見てしまいました。

商品を通じて、想いや志や行動の「プロセス」を販売する。それが広まれば広まるほど、社会がよくなる。

そんな行動をしていきたいと強く感じたこのコロナ騒ぎです。

少しでも早く、この事態が終息することを祈って筆をおきたいと思います。


’73年生。大学卒業後、大阪の中堅会計事務所で10年の税理士業務を経験した後、’11年同社入社。翌年、チームウェアブランドSQUADRA(スクアドラ)の立ち上げ。’12年代表取締役就任。Bリーグ、JFLなどのチームのサプライヤーも担当する。昇華プリントが世に広まるきっかけを作る。