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山下しゅんや先生という功夫の達人

山下しゅんや先生の「山下しゅんやの『ガールズ&パンツァー』イラストレーション2 」を購入しました。勿論1の方も購入しております。と云うよりもしゅんや先生の画集は出る度に買っているのですが、どの画集も最高なのです。特に最近も出ましたプラスチック・エンジェル1と2はすべてフィギュアになってもらいたい位かわいい子で埋め尽くされています。その山下しゅんや先生が描くガルパンキャラ、かわいくないわけがないのですが、全ページもうかわいさの暴力。見終わる頃に我々はコテンパンのメロメロ(死語)にされているわけです。メロメロになったついでに改めて先生の過去の作品集を見直してみましたところ、一つの事に気が付きました。しゅんや先生の絵が日を重ねるごとに変化している、と。それもどんどんシンプルなラインになっている事に。

日に日にかわいくなるしゅんや先生のキャラクタ

しゅんや先生の絵画を初めて見たのはもう10年以上前。当時はなんてすごいアメコミタイプの絵を描く方なんだと思ったものでした。日本の漫画アニメの文法の中にアメコミ的な塗り方をされると云うのが最初の印象でした。セミリアルのタッチでかわいいアニメ的な顔を描かれる。初期の画集などは特にそのニュアンスが強く、タッチの強い絵描きさんなのだなと思っておりました。重厚な塗装で、ベクシンスキーのような背景にリアル体型の女の子が質感あふれる装備を着ている絵の印象がとても強く、その絵に惚れ込んでしまいました。こういうタイプの絵描きさんなのだなと思いこんでおりました。しかし、新しい作品が発表される事に線の数は減り、色の塗り方もシンプルなものになっていくのです。しかし、可愛さはブーストされていくので、どんどん可愛くなっていく。それもしゅんや先生の絵だとわかるラインで。これは不思議です。プロの方がよく落書きとしてラフな絵を発表されることがありますが、それともまた違います。ラフの絵は勿論ラフなのですが、仕上げの線画がよりシンプル且つ力強いものになっているのです。特に最近の作品はあっさりとした絵の印象なのに、非常に洗練されたものになっているのです。その時気がついたのです。これは八極拳の達人、神槍と呼ばれた李書文そのものではないかと思ったのです。

最近の作品とは違うかわいさがあります

李書文は中国の武術家で八極拳の達人です。八極拳は、手数を多く素早く出す他の武術と比べ、華やかさは無いですがその代わりに震脚で踏み込んだ力強い一撃で相手を倒す武術です。「李書文に二の打ち要らずひとつ打てば事足りる」と云われるくらい、まさに一撃必殺の武術です。書文が弟子に教える際、「ほかの武術が飛んだり跳ねたりしている間に、私たちは絶対的な功夫を養うのだ」と馬歩站椿(まほたんとう)と云う基礎だけをじっくりやらせました。多くの技法を知るよりも、ひとつの技法を極限までに突き詰めていくことで、絶対的な技術となり最高の破壊力を得ることが出来ると考えたわけです。突然何の話だとお思いでしょうが、まさにしゅんや先生の描かれる絵そのものです。回を重ねる事に極限までに研ぎ澄まされた線は一見シンプルに見えますが、紙の上に無限に描ける線の中の、最適な線を、その1本を選び出し引く事で、しゅんや先生にしか描けない絵になる訳ですね。しゅんや先生にしか選べない最適なラインでのみ描かれた最小最短の絵画、これはもう最強です。一撃必殺です。私は趣味でフィギュアを塗るのですが、しゅんや先生の描く女の子のフィギュアも何度か面相(フィギュアの顔を描く事です)をしましたが、どうしても似てくれません。シンプルなラインなのにです。しかしこうした秘密があるとしたら、それはとても真似できるものでは無いのです。しゅんや先生の絵はまさに八極拳の如く、功夫を積まれるほど、線が洗練されていき、よりシンプルにより正確に、しかし先生の絵だとひと目でわかり、破壊力がめちゃくちゃ強い絵になっているのです。まさに神槍ならぬ神筆。その破壊力の極地が、この1冊に凝縮されているので、ページをめくる度に私たちは悶絶する他ないのです。さあ、気になったあなた。私もガルパンは未履修ですから大丈夫です。めくるめくかわいさの絶招(八極拳における必殺技の意)が私達をコテンパンにしてくれます。

真似するのが難しいです。


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