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『スパイ百貨店』前日譚02

ヒカリ「ま、ナグモはともかく。その子はその子で被害者でしょ。おーい、大丈夫かあ?」


ようやく視界がハッキリとしてきた。やけに美しい男が俺の顔をのぞきこんでいる。たしか化粧品売り場のイケメンコスメティシャン。でもこの顔……ずっと前から知ってる気が……。
いや。今はそんなこと、どうでもいい。

マミヤ「なんですかこの状況!!」
ヒカリ「お~元気でなによりっ! はじめまして。俺は泉ヒカリ。エウロ―ペっていうコスメブランドの美容部員だよ」

ヒカリ「こんなにパニクちゃってかわいそうに。シークレットサービスのこと、なぁんにも聞かされていないんだねえ」
マミヤ「そうですよ! 急に来いとか言われたと思ったら、爆発とか……」
マミヤ「あと、シークレットサービスでしたっけ? 面接で言われた気がするけどそんなの覚えてないし! あーもうなんなんですか!」
ヒカリ「でも面接で言われたんでしょ? 露骨にアヤシイのに、ちゃんと聞かずに返事しちゃった方が悪い!」
マミヤ「うっ……」
ヒカリ「大丈夫! そうやって人は大人になってゆくのだよ!」
ユリト「ハァ……。さっきからワンワンとよく吠えるガキだ。おい、ヒカリ。ここのことはヤツらに知られていないだろうな?」
ヒカリ「バッチリ大丈夫。墜落させられたエレベーターは、ここより下のも~っと下に落ちちゃったよ。地下階層、複雑にしておいてよかったよねえ」
ユリト「そうか。では早速依頼内容を……」
ヒカリ「まぁまぁユリト様、そう急かさないで。こいつを今のまんま現場に出したら、間違いなく足手まといになるし、さすがにちょっとは教えてあげよう?」
ユリト「それもそうか。手短に頼むぞ」
ヒカリ「ということで、シークレットサービスのこと、サクッと説明しちゃうね」
マミヤ「いや、いらないです! 俺、シークレットサービスとかやらないんで! もう帰っていいですか?」
ヒカリ「残念でした。脱出ルートはオレらしか知りませ~ん。かわいそうだけど、ここまで来たらやるしかないんだよ」
マミヤ「うう……これが“詰んだ”ってやつか……」
ヒカリ「はい。しょんぼりはそこまで! じゃあ時間もないし、サッサと説明するよ」
ヒカリ「まず、この桃源百貨店はただの百貨店じゃありません。“何でも手に入る百貨店”って言われてるのはさすがに知っているよね?」
マミヤ「はい。まあ、有名なふれこみですし……」
ヒカリ「じつはこれ、大げさなキャッチコピーじゃなくって事実なんだよね。店頭にあろうがなかろうが、どんなものでもお客に提供できるのが桃源百貨店の強み」
ユリト「 “この世に存在するもの”であれば、どんなものでもご用意するのが我が百貨店だ」
ヒカリ「かぐや姫の注文よりはマシでしょ? 一応、この世にはあるから見つかるし♪」

(続く)

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