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【記事読解】ミヒー・バチュアイの移籍交渉に垣間みえたスパーズの補強スタンス

今回「読解する記事」はこちら。

トッテナムへの移籍を望むミヒー・バチュアイだったが、チェルシーは800万ポンドのローン費をスパーズに要求。この額は、ウェストハムやレアル・ベティスに要求した額の4倍だった。

冬の移籍マーケットが終わりすでに時間が過ぎてしまったが、このマーケットでの動きを総括する上で注目すべきはミヒー・バチュアイへの動きだ。バチュアイ獲得への動きに関する情報を整理することで、スパーズがこの冬にどんな移籍活動をしたかったが見えてくる。

この冬の移籍マーケットでの基本スタンスは、余剰戦力の放出、そして獲得に関してはポチェッティーノが記者会見で問われるたびに口酸っぱく唱え続けていた「チームに貢献できるタレントが獲得可能であれば動く」という姿勢だ。

一方、補強面でメディアが伝えていたのは、空きがあったホームグロウン枠を埋める補強であり、デレ・アリや夏に失敗に終わったがアストンビラ のジャック・グリーリッシュのような下部リーグの若きイングランド人のタレントたちだった。

夏のグリーリッシュ補強失敗の経緯について簡単に振り返っておく。7月20日に新オーナーのエジプト人ビリオネアのナセフ・サウィリスが就任するまで、資金繰りに困窮したビラからスパーズが格安の2500万ポンドで補強を実現できる見込みであった。

当時22歳だったグリーリッシュ本人の回顧からもそれは裏付けられる。

「新たなオーナーがやってくるまで、ビラは資金調達を迫られていたから、クラブを救うために移籍することを僕は受け入れたんだ。ファンも分かってくれると思ってる。クラブにお金が必要だったからね」

このことからスパーズに「補強費が無い」というのは正確ではなく、これまで以上に「無駄遣いができない」というのが現実だ。

ポチェッティーノの条件は「チームに貢献できるタレントが獲得可能であれば動く」だが、ダニエル・レビィは(それに加えて)「格安で獲れるなら動く」ことになる。

念のため補足しておくが、若手補強における「格安」とは何かを簡単に説明すると、ポチェッティーノのもとで1〜2年プレーすれば補強時に投じた移籍金を上回るオファーを受けられる強い見込みがある。レビィが考えている若手補強における「格安」とはそう説明できる。

バチュアイの話への道のりからは脱線したが、グリーリッシュの経緯を振り返った理由は、この冬にスパーズが獲得に動いている報じられた下部リーグのイングランド人の若手というのは、「夏のビラの資金繰り困窮」のようなスパーズにとっての商機(「格安」補強のチャンス)が無かったであろうから、現実な動きは無かったのだろう。

(ただし、試合を視察するためにスカウトを派遣する、相手クラブや代理人に移籍金を打診するという動きは、補強への動きの熱心さとに関係なく情報収拾として行なっている)

そうなると、スパーズの冬の移籍マーケットは、静かに進んでいったことになる。

移籍マーケット中のポチェッティーノのコメント(時系列)

試合前の記者会見のたびに移籍マーケットの状況を問われた。そこでのポチェッティーノのコメントを時系列で振り返ってみよう。

<12月27日 ウォルブス戦の前>
まずは選手の放出が実現して、新たな選手の枠を確保することからだ。放出ありきで、その後にチームに貢献できるクオリティの選手を見つけられればだね。
<1月3日 トランメア戦前>
メディアを通じて多くの名前が飛び交っている。この業界では多くの関心が出回るからね。どれだけ多くの選手がトッテナムに関連して出ているのだろうね?数百の選手名が報じられても実際には移籍が成立しないから注意してね。私の答えはハッキリしてると思うよ。
<1月7日 チェルシー戦前>
夏の移籍マーケットは難しいが、冬はもっとだ。補強が実現するとは思っていないが、もちろん適切な選手を補強するチャンスがあればチャレンジするよ。チーム戦力を強化することにはオープンだからね。選手の放出は関係ないよ。そのような手順にはなってないね。
<1月13日 ユナイテッド戦前>
(移籍マーケットについて質疑なし)

 ※ハリー・ケインの負傷離脱

<1月18日 フラム戦前>
当然、誰かチームを助けチームにクウォリティをもたらすことのできる、我々の仲間にいないようなタイプの選手を見つけたら、補強実現に向けてより真剣に努力する。だが今の時点では、我々を向上させる様なタイプの選手を加えることについて、可能性はそう高くはないと思うよ。

 ※デレ・アリの負傷離脱

<1月23日 チェルシー戦前(カラバオ・カップ)>
ハリー・ケインとデレ・アリが万全な体調か否かにかかわらず、負傷者に苦しんでいることを理由に、今さら自分たちの戦略を変えようとすることはしない。移籍マーケットが閉じるまでどうなるかだね。いつでもスカッドを向上させたいと思っているよ。
<1月25日 パレス戦前(FAカップ)>
時が来ればハッキリするよ。まだ6日間ある。動いてはいるよ。いくつか、探っているんだ。それを現実にできるかどうか。
<1月29日 ワトフォード戦前>
ここからあまり時間はない。数日前、私はある現実的な補強について楽観的だったんだが、今はノーだ。あまり楽観的ではないね。
<2月1日 ニューカッスル戦前>
【記者の質問】バチュアイがスパーズ加入に迫っていたと報じられているが悔しかったか?
その噂について私から言うことはないと思う。我々はこれから数ヶ月間、我々が望む結果を出すためにチームに貢献できるクオリティを持った選手の獲得にはオープンだったということさ。だが、そのクオリティを我々は補強することはできなかった。

当初、「放出が先」と言っていたのが1月7日に否定しており、何か裏で動きがあったのかが気になるところ。だが、やはり一番の注目は、1月29日の「数日前、私はある現実的な補強について楽観的だったんだが、今はノーだ。」との発言。それがおそらくバチュアイであることが、2月1日の記者会見の質疑で分かるのだが、ミラー紙がその舞台裏を報じている。

一方、同時期にスパーズがユーリ・ティーレマンスの獲得に動いていたとのSkySportなど複数メディアから報道が出ていたが、正確にはこちらは1月29日のポチェッティーノのコメントよりも後の動きであるため、レビィやスパーズのスカウト陣はティーレマンスの「格安」補強をお膳立てしたもののポチェッティーノの判断で「補強しない」ことを決めたように思われる。

ポチェッティーノが早急に動き出せば、21歳のティーレマンスが木曜に終了する移籍マーケットの期限内のレスター加入を阻止できそうだ。


さて、改めてミラー紙が報じたバチュアイのローン補強についていくつか注目点をピックアップしていく。

アテにならないメディア報道

ミラーが伝えたことが正しいとすれば、ポチェッティーノが「動いている」と言った1月25日頃にバチュアイとの交渉だが、メディアはこのスパーズの動きを一切報じていなかった。ファンにとってメディア報道の信憑性が落ちる事実ではあるが、チェルシーに放出の意思が固く、そして受け入れ先候補が充実していればバチュアイ陣営にもメディア・リークする必要がなかったということだろう。

変動するローン移籍のコスト

2016年に5年契約でチェルシーに加入するも、ここ1年半はローン先を渡り鳥のように行き交っているバチュアイ。依然、その才能は高く評価されており、チェルシーとすれば安売りをするつもりはない。
ミラーの記事、ポチェッティーノのコメントをもとに、最終日にパレスへのローンを決めた流れをこちらも時系列で追ってみたい。

移籍マーケット終了の5〜6日前、チェルシーはバチュアイのローン受け入れ先としていくつかのオファーが届いていた中でバチュアイ陣営が望むスパーズとの交渉を開始。スパーズには半年のローンに800万ポンドを要求。法外すぎる値段にスパーズは撤退する。

残り4〜5日となり、チェルシーは続けてベティスとウェストハムに対しては200万ポンドを要求する。しかし、スパーズ行きを阻まれたことに憤りを感じるバチュアイ陣営は、代理人はローン成立時の手数料として100万ポンド、さらにバチュアイ自身のローン中の給与を週給17万ポンドにするように要求。

これでローンでの受け入れ先探しに困窮することになったチェルシーは、最終日にパレスに100万ポンドでローンに出すことを決めている。なお、チェルシーはバチュアイの完全移籍の移籍金要求額を3500万ポンド以上に設定していたが、ローンでの補強に関心を持つクラブは多かったものの、それを満たすオファーは無かった。

ポチェッティーノの執着

今から2年半前の2016年夏、スパーズでの3シーズン目を控えたポチェッティーノはケインとポジション争いができるストライカーを探していた。その候補がマルセイユのバチュアイとAZのヤンセン。当時、ともに22歳だった2人だが、バチュアイはチェルシーに、ヤンセンはスパーズに加入した。

あの夏から2年半を経たこの冬に、またスパーズでのファーストチームの座を懸けた動きがあった両者だが、バチュアイのキャリア再興の新天地はパレスとなった。一方のヤンセンは「スパーズからの脱出」に失敗し、2年半前よりも遥かに落ちた序列からにはなるがファーストチームに合流している。

この冬の移籍マーケットで2年半ぶりのバチュアイ獲得への意欲を燃やしたポチェッティーノ。自分の評価への執着の深さは、今シーズン、シソコを見事に再起させたことでも証明済みだ。

スパーズは2度の移籍マーケットで補強ゼロが続いているが、スタジアム建設の費用を捻出するためのレビィ主導の倹約だけでなく、ティーレマンスの獲得を見送った「ポチェッティーノの執着」にも理由があるだろう。


最後に、バチュアイと同じタイミングでマルセイユを後にし、スパーズに加入したエンクドゥが、フラム戦での感動のアシストの記憶をファンに残してモナコに去って行ったのことも付け加えておきたい。

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