WBA戦2

プレミアリーグとチャンピオンズリーグの登録ルールを解説

ムサ・デンベレの放出が決まり、大方の予想に反してスパーズを取り巻く移籍関連の報道は活況を呈している。メディアの皆さん、代理人の皆さん、関係各位に大感謝である。

冬の移籍マーケットが残り数日となった今回は、正直者のマウリシオ・ポチェッティーノ監督が毎度の記者会見で繰り返す「放出しなければ補強はできない」の意味を丁寧に説明したい。

その前に、パレス戦前の記者会見で、とても興味深いコメントがポチェッティーノ監督から発せられた。

Q:CLの登録メンバーからフアン・フォイスが外れたのは痛手だったと言っていたがデンベレのみの放出でそのことが気になっている?
私が数ヶ月前に言った通り、難しいしとても辛いよ。いくつかの理由で我々のプランとは違ったものになってしまい、我々の望んだプラン通りにはいかなかったんだ。クラブも上手く立ち回れず、あのような自体になってしまったのさ。とても痛手だったね。これからは二度とやってはいけない失敗だね。あのようなミスを繰り返していては、我々の評判はとても悪くなってしまうだろうね。あのようなミスから何も学んでいないとみなされるよ。チーム戦力をしっかりと管理していかなきゃいけないね。
🔗マウリシオ・ポチェッティーノ:クリスタルパレス戦(FAカップ)の試合前の記者会見(動画付)

半年前にフォイスをチャンピオンズリーグの登録メンバーから外したことを、「あのようなミス」と悔いている。

ポチェッティーノ監督の後悔はフォイスのために登録枠を開けられなかったことを悔いている。具体的には登録枠を開けるために他の外国人選手の放出が実現できなかったことだと思われるが、邪推するとチャンピオンズリーグにおける「外国人選手」の定義を見誤った可能性もあるかもしれない。(流石にねぇ〜よ)

そのくらい、プレミアリーグとチャンピオンズリーグの登録ルールは紛らわしいのだ。

では、まずプレミアリーグの登録ルールについて説明する。

プレミアリーグ

Each squad contains no more than 17 players who do not fulfil the "Home Grown Player" (HGP) criteria.
The rest of the squad, up to a total of 25 players, must be "Home Grown".
Each club squad list is below as well as an additional list of each club's registered Under-21 players who are eligible over and above the squad limit of 25 players.
それぞれチームには”ホームグロウン・プレイヤー”以外には、最多で17人の選手までしか登録できない。
その他、合計で最多25人まで”ホームグロウン”であれば登録できる。
下に掲載したそれぞれのクラブのスカッド・リストには、上記に加えて21歳以下の選手を25人の上限とは別に登録できる。

What is a Home-Grown Player? / ホームグロウン・プレーヤーとは?
A "Home-Grown Player" means a player who, irrespective of nationality or age, has been registered with any club affiliated to The Football Association or the Football Association of Wales for a period, continuous or not, of three entire seasons, or 36 months, before his 21st birthday (or the end of the season during which he turns 21).
”ホームグロウン・プレーヤー”とは、国籍や年齢にかかわらず、イングランド・フットボール協会またはウェールズ・フットボール協会に加盟するクラブで、継続か否かにかかわらず、3シーズンまたは36ヶ月間を21歳の誕生日を迎えたシーズンの終了までに通算で過ごした選手を意味する。

🔗2018/19 Premier League squads confirmed (プレミアリーグ公式)

ざっくりいうと、シーズン前半戦のスパーズは外国人枠(17人)を使い切っていたが、ホームグロウン7人と合わせて24人を登録していた。
ただし、ホームグロウンのオギルヴィーはギリンガムにローンが決まっており、デンベレが移籍したため、プレミアリーグではホームグロウンに2枠(外国人枠を使わなければ3枠)、外国人枠に1枠の空きがある。

各登録枠の詳細は次の通り。

1. ホームグロウン:外国人枠と合わせ上限25人まで登録可能
(例)
ベン・デイビス(25):21歳迄にスウォンジー(ウェールズ協会)で3年超在籍
デレ・アリ(22):21歳迄にMKドンズで3年超在籍

シーズン前半の登録選手:7人
アリ、デイビス、ケイン、オギルヴィー、ローズ、トリッピア、ウィンクス (*オギルヴィーはギリンガムにローン中のため実質6人

2. 外国人枠:17人を上限に登録可能
(例)
エリック・ダイアー(25):21歳迄ほぼスポルティング(ポルトガル)に在籍

シーズン前半の登録選手:17人
アルデルヴァイレルト、オーリエ、デンベレ、ダイアー、エリクセン、ガッザニーガ、ソン、ラメラ、ジョレンテ、ロリス、エンクドゥ、ルーカス、サンチェス、シソコ、フェルトンゲン、フォルム、ワニアマ

3. 21歳以下の選手:無制限に登録可能
(例)
フアン・フォイス(21) →来シーズンは2. 外国人枠
カイル・ウォーカー・ピタース(21) →来シーズンは1. ホームグロウン枠
オリヴァー・スキップ(18)

🔗2018-19シーズンのプレミアリーグ登録メンバー発表、登録外はあの選手のみプレミアリーグ


続けてチャンピオンズリーグの登録ルール。結論から言うと、こちらが現在のスパーズにはより厳しくなっている。

チャンピオンズリーグ

Who can be on List A? /リストAに入る選手は?
A maximum of 25 players, two of whom must be goalkeepers. There are a minimum of eight places reserved exclusively for 'locally trained players'. If a club have fewer than eight locally trained players in their squad, then the maximum number of players on List A is reduced accordingly.
最多25人の選手が入り、うち2人(以上)はゴールキーパーであること。少なくとも8枠は”地元育成選手”が使うこと。”地元育成選手”が8人に満たない場合は、リストAの最多登録選手が減ることになる。

What's a 'locally trained player'? /"地元育成選手"とは?
There are two categories:
1. Club-trained players – players who were on a club's books for three years between the ages of 15 and 21;
2. Association-trained players – players who were on another club's books in the same association for three years between the ages of 15 and 21. No club can have more than four association-trained players among their eight nominees on List A.

次の2つのカテゴリーがある:
1. ”クラブで育成した選手” – 15歳から21歳の期間に3年間(以上)クラブに在籍していた選手
2. ”協会で育成した選手” – 同じ協会に加盟する他のクラブで15歳から21歳の期間に3年間(以上)在籍していた選手。なお、”協会で育成した選手”は、”地元育成選手”の8枠のうち最多4枠まで登録可能。

What is List B, then?/それではリストBは?
A player may be registered on List B if he is born on, or after, 1 January 1995 and has been eligible to play for the club concerned for any uninterrupted period of two years since his 15th birthday (players aged 16 may be registered if they have been registered with the club for the previous two years). Clubs are entitled to register an unlimited number of players on List B during the season, but the list must be submitted by no later than 24:00CET the day before a match
リストBに登録可能な選手は、1995年1月1日以降に生まれ、15歳の誕生日以降に継続して2年間、当該クラブでプレーする資格を有していた選手。リストBには無制限に登録可能だが、試合の前日の24時迄にリストを提出しなければならない。

🔗UEFA Champions League squads: how it works

登録枠は25人、外国人の上限は17人、ホームグロウン(≒地元育成選手)は8人以上、という点はなんとなくプレミアリーグのルールと共通している。

どこが違うのかを具体的な選手をあげて説明する。ここでフアン・フォイスが最高の教材となる。

プレミアリーグでは21歳以下の選手を国籍や所属歴にかかわらず無制限に登録できたのに対し、チャンピオンズリーグではリストBでは「21歳以下で、15歳の誕生日以降に継続して2年間、当該クラブでプレーする資格を有していた選手」となる。これにより2017年にスパーズに加入し、スパーズに来て2年に満たないフォイスはリストBには入らなくなる。

リストBに入らないフォイスが次に登録を狙うのが25人が上限のリストAになる。リストAを考える場合、少し遠回りだが、まずは”クラブで育成した選手”と”協会で育成した選手”に誰が該当するかを確認する必要がある。

1. ”クラブで育成した選手”
ケイン、ローズ、ウィンクス

2. ”協会で育成した選手”
デレ・アリ、トリッピア

2. ”協会で育成した選手”は最多4人まで登録可能だが、デイビスが外れ、2枠を使きれていない。1. ”クラブで育成した選手"と合わせ8枠を使えれば、25人のフル登録が可能だが、使えたのは5枠のみとなっている。

1. ”クラブで育成した選手”は、チャンピオンズリーグの登録枠をより多く使うために最も貴重な選手たちであり、来シーズンからこの1. ”クラブで育成した選手”に該当するウォーカー・ピータースがポチェッティーノの秘蔵っ子となっているのも、はたまたローズがメディアに言いたい放題ながらチームに残っているのも、そこに理由があるのかもしれない。

なお、夏のプレシーズン・ツアーで台頭し、ファーストチームに定着するも、シーズン序盤の負傷で長期離脱を強いられているルーク・エイモス(21)も、ウォーカー・ピータースと同様に来季から最も貴重な選手の1人となるだろう。

話を本筋に戻そう。残りの外国人選手で17枠にデイビスが入ってくることがポイントだ。シーズン前半は、フォイスとエンクドゥが外れ、次の17人が登録された。

シーズン前半の登録選手:17人
アルデルヴァイレルト、オーリエ、デイビス、デンベレ、ダイアー、エリクセン、ガッザニーガ、ソン、ラメラ、ジョレンテ、ロリス、ルーカス、サンチェス、シソコ、フェルトンゲン、フォルム、ワニアマ

1月の移籍マーケットでデンベレが去り、その枠はフォイスに与えられることが前述のポチェッティーノのコメントからも明らかである。

🔗チャンピオンズリーグ登録メンバー:フォイス、エンクドゥ、ヤンセンが外れる

総括

「まず放出しなければ補強ができない」と「登録枠」のことを声高に説き続けているポチェッティーノ監督。プレミアリーグとチャンピオンズリーグの登録ルールを見直したところで、2. ”協会で育成した選手”には枠が余っていることが分かった。すなわちこれ以上の放出が無くても「補強→登録」ができるのだ。

さて、だから「イングランド人の補強の可能性がある」と考えてよいものか。ただ、ここで改めて俯瞰的に考えてみたい。

もちろん、「イングランド人の補強の可能性はある」だろうが、優秀な選手が比較的安価に獲得できるのであれば、外国人枠であっても狙っていくと私は考えている。

これまでも、相手クラブの苦しい台所事情につけ入って、お買い得案件を取りまとめて来たダニエル・レビィ会長である。

ルーカス、アルデルヴァイレルト、ホルトビー、ファン・デルファールト。

資金繰りに困ったクラブに「戦力外となった選手への獲得オファー」というかたちで救いの手を差し伸べる。

そのオファー額の、見事なまでの絶妙な低さに青ざめながらも相手クラブは、レビィ会長の差し出した藁(わら)にすがってしまうのである。くわばらくわばら。

最後に登録ルールから話が逸れたが、枠の問題はいざとなったらエンクドゥをプレミアリーグから、フォルムをチャンピオンズリーグから外すという苦渋の決断で落ち着くだろう。

こんな雑な締め方で良いのか。これまでの説明はなんだったんだ。

いや、私が言いたかったのは、ルールに過剰に縛られるのでなく、ルールを知った上で、何がクラブのために重要かを選択することである。

仮にダニエル・レビィ会長がミラクル補強を実現できる状況にあって、それでも第3GKのフォルムに「きよきよしく」スパーズで過ごしてもらいたいから補強しない、という選択はないのである。