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水月抄


うつし身に
口火をつけて
煤ぶりかけて
止まない焰になる

人にせめられて告げた
幻想のまんなかに
産声をあげてやまぬ
太陽の不滅の燈

不断の夜を油とし
ひかりあふるる
白いシーツの寝顔が
暗室にかうべの痛みに
寝乱れて
髪をすかしている

窓硝子を折れ屈りし影
さまざまの珠玉の
黄と藍は涙ぐみて
白日の虚空に立ちのぼる
曇り玉

静けさに酔ふ曙光を
孕みたり
極楽鳥の翼はいろ変わる
ゆふべむらさきに鳴りわたる

ささやき歌ひ
しとやかに
淡いかげさす白金の薄明かり
涙ぐんだ呼吸にたちどまり 
何といふ暗さぞやと
遠くきぬる路に心ためらひ

夜天にうす青く
さみしく光る四方に
汝れもまくらし
あはれみまかりて
空の遠きを百合の薫りにつゝみ
耳は冴え
さらさらと
髪をさすれば
春行かむと眠るらむ








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