所感雑文「POP YOURS」

POP YOURSを観た。先週の土日に。

POP YOURSっていうのは、なんかすごいでかい、日本のHIPHOPの有名な人たちがいっぱいでてくる音楽フェス。

HIPHOPにそこまで熱心じゃない自分は、土日の昼間から夜まで、ぼやーっと、Twitterいじったり、本をぱらぱらめくったりしながら観ていた。

音楽フェスを、配信越しとはいえ“観た”っていうのって、よくないかな。
でも、わたしの中では“観た”の方がしっくりくる。

やっぱりライブって、どう足掻いても、不思議な魔法の力が降りてこない限りは、こと音楽の質においてアルバムに勝るところはないように思います(超絶技巧なプレイだったり、拍子を壊しにかかる破滅的ダイナミズムだったりがHIPHOPのライブでは、ビートミュージック故に起こりませんので。それに、ちゃんとラップできてない人とかもたくさんいますし。)。

ただ、そんなHIPHOPのライブがここまで人を熱狂させたのは、「ラッパー」という成り上がりを象徴したような人物がその体ひとつで、様々なトリック(あえてマジックとは言わない。これは露悪であって誠実です)を駆使して会場を盛り上げるからですね。

Twitterの検索ワード欄に、リアルタイムで演っているアーティストの名前を打ち込んで「最新」のところから、人々のつぶやきを眺める、そんなある種のパノプティコンに興じながらPOP YOURSとは時間を共にしましたが、

「〇〇、ライブうまいな」
「〇〇は盛り上げ方を知ってるな」

みたいな反応が散見されたのは、やっぱりラッパー特有のトリックのようなものが、HIPHOPライブ界隈では重要視されているということだと思います。

そしてそれは多分、HIPHOPという音楽形態が、ライブがうまくなくては「ライブ」に付加価値がつきにくいような形態であるからかな、と思ったりしました。

それに、観客もハナから音楽を聴きにきているのではないのでしょう。(日本における)HIPHOPの主なファン層、熱心な層は若者です。そして現代の若者というのは中身がどうであれ、外面が大事です。それはもう大事にしていて、面子のためなら何でも差し出すような人がたくさんいます。

ですから、そういう層の方々が「体験」を共有するため、あるいは「体験」でボーストするため。そのために熱狂しているのだと思います。

露悪的に書いてしまいましたが、それが現代の音楽であるHIPHOPの正解の在り方なのだと思うし、そういうムーヴメントが業界に火をつけていますから、そう悪いものじゃないのかもしれません。

ソン・ウォンピョン執筆の「アーモンド」では、自分を「体験」によって、またその体験に伴う「武勇伝」によって自分を強くしようとする、ということは、自分を強く見せようとする、ということに変わらず、本質的には弱者の行動だ(こんなに鋭い筆致ではなかったかもしれない。これは作品の名誉に関わってしまうので作品名を引用さえしたが、わたしによる多分な解釈が練り合わさっていると考えてもらいたい)、と主人号は解釈しています。
が、その一方で、そんな価値観があるということ、そういう美学に惹かれる人間がいることも認めています。(重要。わたしも、今回は露悪に走りますが、別にこういう立場です)

それから、体験共有やそのボーストが目的でないにしろ、「音楽」がメインになってない層(潜在意識的、無意識的に)の中では、
「エンパワメントされにいってる態度」というものがあるように思うのです。
一部のラッパーは不思議なもので、ステージ上で辛いことや辛かったことを吐露して、かつ、それでも何とかなる、なった、のような無意味で論理の破綻した持論を展開します。
そして一部の観客はこれまた不思議なもので、そんな話に感化されたりなんかします。

わたしはこれがなんだか気持ちが悪いと思います。

(さあ、なんか、どんどん露悪的になってきましたね)

ラッパーの武勇伝に惹かれる方々はその語り口を待ち望み、「感化されよう感化されよう」「泣いてやろう泣いてやろう」なんて魂胆を恥ずかしげもなくおっぴろげます。
それは、「アーモンド」で主人公が言ったような感受性の豊かさとは似て非なるものだと、いや、似てもない。めちゃくちゃ非なるものだと思います。(こんな文脈で二度もアーモンドの名を出してしまって本当に申し訳がない)

こういうエンパワメントの予めの想定をする方々が、
「泣ける!」と銘打たれた映画に足繁く通って、休日の映画館をアミューズメントパークかなんかと勘違いした喧しさで覆い、
コミュニケーションで感情を露わにし、そちらの話に対してこちらの自由な反応を受け付けず、規定のリアクション(悲しい話に同情を、怒りの話に共通敵意識を)を強要し、
ステージ上のラッパーが曲間にいちいち挟むクサいセリフを“待ち望み”にして、それが聞ければ待ってましたと言わんばかりに声援と涙をにゅるにゅるどっぷり排泄するのでしょう。

そして、ここでまたPOP YOURSの話に戻るのですが、だからこそ、「音楽」で勝負、またはHIPHOPのライブという音楽で勝負しにくい環境を覆すステージパフォーマンスを見せたアーティスト(というかそんなアーティストがほとんどだし、こういう意図を読み取れる上で、でもくさいセリフをエンパワメントするアーティストもいたのでくくり方が適当なのだが)が強烈に印象に残ります。

だから、「音楽」のフリーク達はTLでTohjiを絶賛し、「HIPHOP」のガキ共はTLでTohjiに困惑していたのでしょう。

っていう所感、そういう雑文。

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