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無限の成長を求める社会の歪み

ふと思いながらも、公言することが憚れる言葉があります。

それは「これ以上、企業は成長する必要があるのでしょうか?」というものです。

そもそも「成長しない」という選択肢を考えたことがない方々も多いかもしれません。資本主義というゲームに参加している以上、成長はルールであり、そのルールに対して疑問を持つこと自体が違反とされる。ということです。担当者レベルではまだ「成長なんて不要だ!」と言えるかもしれませんが、経営陣が株主総会でいうことは実質不可能でしょう。

新規事業を考える時も、大きな成長が前提として課されます。しかし、実際に新規のサービスや製品を考えるとき、あらゆるものがすでに満たされている、と感じたことはないでしょうか。およそ医療分野等ではその限りではありませんが、すでに満たされつくされている現実に直面する業界も多いでしょう。

他方で、地球温暖化問題を考えると課題は山積みだ!と思われる方もいらっしゃるかと思います。ただ、この地球温暖化問題も裏を返せば、成長を前提とした大量生産・大量消費モデルが諸悪の根源となっているとも言えます。本来であれば、十分満たされているにもかかわらず、もっと買え、もっと上を目指せ。という強迫的な宣伝広告から、無駄なものが大量に作り出され、消費され、捨てられ、無駄なエネルギーを使い続けます。つまり人間が本質的に求めたい「幸福感」には貢献しないビジネスが量産されて、結果的に地球環境に悪影響を与えるというものです。

地球環境観点はさておき、幸福感への貢献という視点で、例えば一部の化粧品を取り上げてみましょう。
主観的には女性の平均的な美しさはおそらく年々レベルが上がっているようにも思えますが、逆に周囲が美しくなることで、相対的な劣等感を抱きたくがない故に、新商品への購買意欲が高まります。ただ、幸福感という視点で見た場合、はたして本当に満たされたのでしょうか?

マーケティング担当者は、すでに満たされた需要の中、新しい問題を無理矢理に発掘しようとします。「新しい商売のネタをみつけよ!さらにお客様の幸福のために!」というスローガンのもと、完璧とも見えるモデルを広告塔として私たちとの格差を知らしめます。最も消費者も賢くなってきていますので、「モデルと私はさすがに違う。」と感じます。

そうするとどうでしょうか?普通の人でもこんなにきれいになれる。と言わんばかりにSNSの画像処理技術を使ってさらに刺激してきます。広告事業を主力とする企業は、GAFAMの中にもありますが私たちの生活を本当の意味で幸せにしてくれたものはどれほどあるかと、ふと立ち止まって考えると、新しい見方ができるでしょう。

悲しいことに、満たされた需要をさらに満たすために、企業の担当者はマーケティング戦略を練り、販売活動に必死になり、新しい製品・商品開発に躍起になり残業し続けます。市場が縮小する日本においても持続的な成長が求められるのです。消費者は、欲しくもない商品やサービスを買わされ続け、そして、それを作るために労働者の肉体的・精神的健康が損なわれる社会は健全とは言えないでしょう。

現在でも生産性の向上が叫ばれ続けていますが、労働生産性が上がって、8時間かかっていた作業が4時間で終わるとします。そしてその空いた4時間は、また成長するために仕事に投入されることになります。成長を前提とすると、成長のための成長の無限ループに陥り、労働者はその成長ループに適合するために、永遠のスキルアップを求められます。

私の勝手な憶測ですが、サザエさん症候群(日曜夕方になると月曜からの仕事を思い出して憂鬱になる症状)という言葉がありながら、サザエさんが根強く支持されるのは、サザエさんで描かれているような緩い社会を求めている人が絶えないからではないでしょうか(その理想を見て、現実の月曜を想像するとさらに憂鬱になる。)。

もちろん、人間として成長することは楽しい側面がありますし、否定するものどころか肯定すべきものだと思います。成長意欲があったからこそ今の便利な世の中が作られました。

一方で現在は、その成長に対する要求が過度に行き過ぎて、無理ゲー社会(攻略するのが極端に難しい社会)を作り出しています。スキルアップが叫ばれ、昔であれば有名大学を卒業すれば安泰、みたいな話もあったかもしれませんが、今は有名大学どころか、IT知識、会計知識、法律、独特の専門知識、英語、リベラルアーツ、ニュース全般知識、海外経験、家庭の両立など、ごく普通の人間の限界をすでに超えているだろうと思われるスキルが求められることも多いでしょう(特に中高年で転職を試みた方は、この現実を突きつけられたのではないでしょうか。)。

実際のところ、すべてのスキルに精通することは、ほとんどの人にとって不可能です。しかし、生きていかなくてはならない。となると自己優位性を表現するために、マウントを取る。とか、虚言をはく。とか、相手を道具のように利用する。とか人の倫理観の基準から考えると、幸せになるとは思えない方向へと進むようになります。サイコパスが企業幹部に多いという話(https://toyokeizai.net/articles/-/79411)がありますが、まさに資本主義社会の無限の成長に適した才能ともいえそうです(もちろん良いサイコパスもいますので、サイコパス=悪というわけではありません。)

また、重要なことは、成長を前提としなければ、解ける問題も世の中にはたくさんある。ということです。貧困の根絶も成長や利益を重視しなければ難易度はぐっと下がります。サステナビリティもそうでしょう。

以上、企業に属する事業開発担当者にはどうすることもできない難題のようにも思えますが、これからの時代は、このような視点も頭に入れておく必要があるように感じています。




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