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新規事業人材が不足するのは当たり前

新規事業開発に取り組むうえで、いつも問題点の上位として挙げられるものがあります。それは「新規事業を担う人材不足」です。以下のデータは中小企業に関するものですが大企業においても悩みはほぼ同じです。

出所:Sony

人材が不足していれば ①社外から採用する ②社内から引っ張りぬく の2つの解決方法がありますが、いずれも問題があります。

自社外から採用するケースを考えてみましょう。もちろん、外から採用するのであれば、「新規事業を成功させた経験のある人」を引っ張ってきたくなります。しかしこれはかなりハードルが高くなります。

新規事業を成功させるには、通常準備期間を含めて5年以上かかります。ここでの成功とは、立ち上げてから黒字化するまでです。規模の小さい新規事業であれば、黒字化までハードルは低いといわれていますが、大企業が取り組む新規事業は非常に難易度が高いです。

例えば単純なケースでいうと日本の伝統工芸品を安く仕入れて、高く売る。これも立派なビジネスですし、特定の伝統工芸品に特化すれば、中小企業のビジネスとしては成り立つかもしれません。海外ではウケる可能性も十分あります。このケースだと5年ぐらいでそれなりのビジネスを構築できそうです。

しかし、大企業の新規事業となると話が別です。規模が求められますし、規模が大きくなってくると、人目に付きやすくなるので競合がわんさかやってきます。したがって成功確率も小規模の新規事業に比べてぐーっと低くなります。そうすると新規事業の成功、というには10年以上かかるのは珍しくありません。なぜなら途中でピボットするケースが増えるからです。

このような状況で、「新規事業を一から立ち上げ、軌道に乗せました。」といえる人材がどれだけ世の中に存在するか?と言われるとかなり少数といえるでしょう。新入社員でいきなり新規事業を始めてもおそらく成功の感度をつかむには30代半ばになります。

中途採用をすると、新規事業に成功しました。という人は珍しくないかもしれませんが、ふたを開けてみれば「商品開発で成功した」だったり「誰かが作り上げた新規事業にたまたま乗っかった。」というケースはふんだんにあるわけです。

さらに、「新規事業開発の再現性」に着目すると、それこそ採用ハードルは極めて高くなります。新規事業開発の成功までに非常に時間がかかる上、再現性のある方法を知るためには複数の新規事業を起こす必要が出てきますので、そんな人材は、世の中には極めて稀な存在となるわけです。

この点からも、新規事業に最適な人材はそもそも不足するのです。

次に社内から引っ張りぬく方法についてです。
そもそも、「新規事業部門に行く」ことは非常にリスクが高いです。したがって普通の従業員であれば行くことを拒みます。(また既存のエース人材は上司が手放さない傾向にあります。)

これを解消するためには新規事業の人員に対する人事評価制度を、既存事業の人員とは別にしなくてはなりません。そうでなければ新規事業人員の評価は、必ず悪くなります。

私は既存事業でのキャリアももちろん有しておりますので既存事業で業績を上げることの大変さは熟知しています。しかし、既存事業は、長年積み重ねられてきた知識、顧客基盤、設備、ノウハウなどの武器が豊富にそろっているため圧倒的に有利なのです。

一方で、新規事業では、すべてとは言わないまでも、これら既存事業では当たり前に使われている資源を一から獲得する必要が出てきます。だからこそ新規事業なのです。

極端な話で言いますと、フルマラソンで既存事業は自動車が使えるにも関わらず、新規事業は、自分の足で走らなくてはならない。というぐらいにハンディがあるわけです。この状況で、単純に完走順位によって評価されるのなら、だれも新規事業はやらないでしょう。

少なくとも自社内から新規事業人材を引っ張りぬくためには
① 人事評価制度を変える
② 既存事業での出世のための登竜門にする
などの工夫が必要です。

これらをおろそかにして「新規事業人材が不足している」と嘆くのは、論点がずれています。

新規事業の知識・ノウハウであれば、実際に自分で新規事業の立ち上げに携わった経験のあるコンサルタントをつけるという方法があります。(ただ本当に1から新規事業を成功まで導いたコンサルタントはレア人材になりますし、新規事業の成功と言いながら、商品開発だったりします。)

以上のように、大前提として新規事業のための人材は不足するものなのです。人材が不足するから、新規事業ができない。わけではありません。この程度の不足で新規事業ができないのであれば、そもそも新規事業に対する心構えが間違っていますので、考え方を改めるか、既存事業に集中すべきでしょう。

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