見出し画像

「再現性」の概念がない成功者が新規事業をつぶす

新規事業開発に携わる人の中で、失敗することを望んでいる人は稀でしょう。できれば成功したい。

新規事業の成功を目指す場合、過去に新規事業で成功を収めた人がリーダーとなれば理想的だと誰もが思うでしょう。しかし、実はここにも大きな落とし穴があります。過去の成功者がリーダーとなることは、場合によっては、最悪の事態を招きかねないのです。

最も危険なパターンが、過去の成功者(名前は「甲さん」とします)が、再現性を意識せずに、たまたま新規事業に成功した場合です。例えば、自分が「可能性がある」と思って研究開発していた物質Aについて、X社から引き合いがありました。とりあえずサンプルを出してみると、本格生産の依頼が来ます。X社は急成長企業であり、物質Aはどんどん売れ始めます。結果的に、数十億円の売り上げ規模にまで達しました。というケースです。

これだけみると、「甲さんは先見の明があった。ビジネスの嗅覚がある。」と判断する人は多いでしょう。おそらく社内でも出世するのではないでしょうか。

しかし、世の中を見渡せば、「可能性がある」と思って同じような研究をしている人などごまんと存在するのです。要するに確率論の話であって、たまたま成功する人がいるのです。宝くじと同じです。

もちろんこのケースでいうと、「宝くじを買った」に相当する「物質Aの研究開発に着手した」という点は素晴らしいです。ただし、それが当選する人は偶然でしかありません。甲さんをビジネスの嗅覚がある天才型研究者と判断するのは誤りであり、典型的な生存者バイアスといえるでしょう。

ここで甲さんが出世して、謙虚に過ごしてくれれば問題ないわけですが、一番厄介なのが「俺のやり方は優れていた。」と勘違いするケースです。

勘違いした場合は、自分のやり方を部下に押し付け始めるのです。例えば、「市場調査会社が出しているレポートを見ろ。成長が期待できる市場で使われそうな物質をくまなく探し、それを作るのだ。」という指示が考えられるでしょう。

しかし、そんなアプローチをやっている会社はごまんとありますので、はっきり言ってそれで成功できたら単純にラッキーとしか言いようがありません。

ところがこのアプローチこそが成功の秘訣だと甲さんが思いこんでいると、部下が失敗しつづける状況をみて、「こいつらはなんて無能なのだ!」と怒りを感じ始めます。そして「いつになったら成功できるんだ?」「俺ならもうこの時点で数億の売り上げはあったぞ?」「努力が足りないんじゃないか?」という的外れなプレッシャーをかけてきます。

ここまでくると社内新規事業組織は崩壊寸前にまで追い込まれます。社内でもだれも新規事業をやりたいと思わなくなるでしょう。

このように、「新規事業では、確かにこんな例はあるかもね。」と思われるかもしれませんが、既存事業でも基本は同じです。昨今、日本のサラリーマンに対して根性論が否定されるようになってきていますが、根性論に頼ると、成功した要因を客観的に評価しなくなりますので、社内での出世は「単なる運ゲーム」の要素が強くなってくるわけです。

結果として、その運ゲームから有利に生き残るためには、「ゴマすり」なんかが有効になってくるのです。「ゴマすり」というのは響きは悪いかもしれませんが、実はコスパは非常に良いのです。(ゴマすりを極められる人は、それはそれですごい才能の持ち主ともいえそうですし、安全性が高く、出世という意味では成功確率も非常に高いのです。)

少し脱線しましたが、少なくとも新規事業で上に立つ人は成功したら成功したで「なぜ成功したのか?」「これは再現性のある方法を意識した成功だったのか?」など客観的に分析できる能力が必要です。

その素養がない人が上司である場合、いばらの道となります。この時はできれば実績のある新規事業コンサルタントを雇うのがよいでしょう。こちらに歩み寄る系のコンサルタントではなく、間違った方法については論理的にビシッと切ってくれるタイプがよいです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?