見出し画像

『Stories Untold』今味わう、80年代ゲームの魅力。今こそ知る、テキストアドベンチャーの可能性

『Stories Untold』は、イギリスのデベロッパー『No Code』製作による、80年代PCゲームのスタイルを取り入れた、ホラー仕立てのアドベンチャーゲーム(以下ADV)だ。
その原型となるのが、2016年に無料配信された『The House Abandon』で、このタイトルに更なるシナリオを追加し、4章からなる物語にしたものが本作となる。
また、Steamのストアページでは、その第1章のみ無料のデモ版として楽しむことができる。

このSteam版は英語のみだったが、先日、日本語ローカライズされたものがNintendo Switchで発売された。

私も、その日本語版のおかげで楽しむことができた。

懐かしい、そして恐ろしい

まず、お断りしておきたいこと。

この記事では、ゲームのネタバレを極力抑え、未プレイでも楽しめるものを目指して書きましたが、ゲームの性質上「謎を一切知らない方が楽しめる」と考えている方は、ゲームに触れてからご一読されるなど、ご判断いただきますよう、お願いいたします。

画像1

本作は、ラベルに「4つの物語と1つの悪夢」と記されたビデオテープを再生する、といった形で物語が進んでいく。その中には「棄てられた家」「ある実験」「観測所にて」「最後の治療」という、4章からなるストーリーが描かれている。

ゲームを起動して最初にプレイするのは第1章「棄てられた家」。

画像2

画面は英語表記のSteam版。そこ現れるのは、テーブルの上に置かれたパソコン、80年代にイギリスで人気を博した『ZX Spectrum』という機種。ゲームはカセットテープから読み込んでブラウン管テレビに映し出される。
そのタイトルは『The House Abandon(棄てられた家)』。

このゲームに表示されるのは全て文字だけで、プレイヤーはキーボードを使って「GO TO HOUSE」「USE KEY」などの言葉を入力して進めていく。
これは、80年代に人気を博した「テキストADV」というものだ。

画像3

Steam版はコマンドをキーボードで入力するという、当時の環境を限りなく再現したものとなっているが、日本語ローカライズされたSwicth版では「見る」「使う」など最初から用意されたコマンドを選択するスタイルで、再現よりも遊びやすさが重視されている。

私もこの場面と同じように、80年代のパソコンに触れた世代で、ゲームをカセットテープから読み込むのに5~10分以上の時間がかかる、それをワクワクしながら待っていたことを思い出す。
だから、私が本作に触れた第一印象は「懐かしい」だった。
そして『The House Abandon』のストーリーは「主人公が久し振りに自宅を訪ねて懐かしさに浸る」といった展開で、まさにゲームの主人公とそれをプレイする「私」は同じ立場・同じ感覚に浸っている。
まるで、ゲームと「私」が「懐かしい」という言葉でシンクロするような感覚だ。

でも、ゲームの途中で、その感覚に「ズレ」が生じる

画像4

何が起こったのか?を具体的に説明するとネタバレになるので控えるが、ゲームの画面に変化がある。この時に私は気付く。

この第1章「棄てられた家」には、世界が2つあること。それをプレイする「私」は、物語の途中でもう一方の世界に引きずり込まれていることを。

そして、その先を進むとまた一方に戻される。戻るとそこには「あるもの」が近づいていることを実感し、ゲームの主人公はそれに恐怖する。それをプレイする「私」は感覚のズレと、近づいてくるものに対する恐怖を感じとる。
まるで、ゲームと「私」が「恐怖」という言葉でシンクロするような感覚だ。

画像5

そして第1章を終えると、第2章「ある実験」では、とある実験室を舞台に機器を操作していく。第3章「観測所にて」では、極寒の地にある観測所を舞台に通信を行う。
そして第4章「最後の治療」では…。

この4章全ては、物語の舞台とゲームの進行方法は全て異なるが、ある繋がりがある。そしてプレイする「私」は、全編を通して一つの恐怖を抱きながら進めていく。それは、

今、「私」はどっちにいるのだ?

テキストアドベンチャーの可能性

画像7

4章全てクリアして、ゲームを終わらせる。ここで私が思う『Stories Untold』の魅力を語る前に、本作のテーマとなっている「テキストADV」について、少し書いてみたいと思う。

テキストADVは、70年代にその原型と言えるものが製作され、80年代には『Zork』『Dungeon』などが人気を博した。ただし、当時は英語のみ。
文字だけなのは、当時のPCで映像を表示するのか困難だったからという技術的な理由で、日本でも漢字を表示するのは更に高度な技術だったため、多くのゲームは英語版しか楽しめなかった。

でも「文字だけ」というのは逆に、世界を想像しながら進めることができる、まるで小説のような楽しみ方があった。また当時のPCは、キーボードからコマンドを入力してプログラムを製作するのが主な楽しみ方で、テキストADVはそれと同じ入力スタイルで冒険ができる、言わばキーボード入力も魅力の一つだった。

画像6

そして90年代には、当時人気の機種であった「PC-9801」シリーズ用に、テキストADVの代表作でもある『Zork I』がリメイクされ、私もその時に触れて楽しんだ。
ただ、当時はすでに映像や日本語が表示できる時代で、そこであえて文字だけのゲームをプレイしても、その独自の世界を楽しむことはできるが、それは「小説のような世界」「当時の空気を再現する」など、言わば演出の一つとして味わう要素に過ぎなかった。

ちなみに『Zork』は現在でも、SteamでシリーズI~IIIまで収録した『Zork Anthology』や、

iPhoneでは、様々なテキストADVの楽しめるアプリ『Frotz』の一つとして収録されている。

ただし、いずれも英語版のみ。

私が『Stories Untold』に初めて触れた時は、PC-9801で『Zork I』に触れた時と同じような、あくまで「味わう要素」に過ぎないと思っていたが、ここでは全く違っていた。

ここに登場するテキストADVは味わうためのものではなく、文字だけのゲームを使わないと物語が成立しない、そして文字を入力するスタイルでないとゲームが成立しない。そのためにテキストADVを取り入れている、もしくは欠くことができないようなストーリーを組み上げたと言えるだろうか。
私は正直、テキストADVはすでに過去のものと思っていたが、本作はそうではなかった。それが大きな衝撃だった。

つまり本作は、テキストADVの魅力を引き出し、かつ新しい可能性を見せるゲームであった、それが大きな魅力と言える。

当時のADVを知っている方なら、そんなADVの新しいスタイルを楽しめると思う。このようなゲームに初めて触れる方は、コマンド入力が面倒だと思うが、そんな「時代に触れる」というのも面白いと思う。

サポートは大変ありがたいですが、Twitterを始めとするSNSなどで記事をご紹介いただければ、それも大変嬉しいサポートです。