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MZ-700の技「キャラグラ」の魅力、その極致のゲーム『THE花札』

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1982年にシャープから発売されたパソコン「MZ-700」。
この時代、1980年代前半の頃は個人向けのコンピューター「パソコン」が普及を始めた時期で、各社から様々な機種が発売された、一種のブームでもあった。
でも、当時のパソコンは本体だけで20万円を超える高価なものが多い。その中でMZ-700は、絵を描く「グラフィック機能」を持たず本体価格10万円以下を実現する、個人向けの手軽なパソコンとして発売され人気を博していた。

でも、ユーザーとしてはこれでゲームを遊びたい、でも文字だけでは味気ない。ならば、文字や記号などのキャラクターだけで絵を描いてゲームを作ろう。というコンセプトで作られた、キャラクターのみのグラフィック「キャラグラ」と呼ばれるテクニックを使ったゲームが数多く存在する。それがMZ-700独自の文化となっていた。

そんなMZ-700ゲームの中で、キャラグラの機能を最大限に活かしたゲームがこれだった。

THE花札_パッケージ2

タイトルは『THE花札』。かなり汚れているが、これは私が今でも所有するパッケージの写真。
メーカーは「大名マイコン学院」で「ZATソフト」というブランドで発売されたタイトルの一つ。正確な発売年は不明だが、私がプレイしていた記憶と重ねれば、1980年代前半であることは間違いない。

タイトル通り、内容はカードゲームの「花札」だが、最大の特徴はこのゲーム画面。

ゲーム01

ゲーム02

キャラクターのみで花札を描いている、まさに「キャラグラの極致」とも言える映像が特徴だ。

ルールは「花合わせ」

花札が何であるか、どんな札があるか、そしてルールについては、古くから花札を製造していた任天堂(もともと任天堂はカードゲーム等の製造会社)に紹介ページがあるので、そちらを参照していただきたい。

ここで書かれているルールは「こいこい」と呼ばれる、役が揃った時点で続けることも降りることもできる、更なる高得点や逆転にも繋がる駆け引きを含んだゲーム。
でも本作のルールは「こいこい」ではなく、どれだけ役が揃っても札を出し切るまで続ける「花合わせ」というもの。

ちなみにZATソフトでは、こいこいのルールを取り入れ、更に時間制限なども設けられた『こいこいするっ!?』というゲームも存在するが、私は所有していない。

「キャラグラ」とは

MZ-700キャラ

MZ-700にはアルファベットや記号、カナ文字と共に、丸や四角形や矢印、なぜか人の顔などを含めた「グラフィックキャラクター」が100種類ほど用意されている。それらのキャラと、文字・背景の「色」を組み合わせることで映像を作ることができる。

そのMZ-700ゲームの中で、先日紹介した『ダイヤモンドコブラ』もその一つ。
モノクロ画面ながら、3D迷路や画面いっぱいにコブラを描くなど、キャラグラの特長を生かした映像のゲームだ。

でも、花札はカラフルに描かれたものばかりが全部で48枚ある。これらを表現するには「どのキャラと色を組み合わせればいいか?」を工夫しないといけない。しかも画面いっぱいに多くの札を置く必要があるので大きさも限られる。

札1-12

本作で描かれる札は、全て1枚4×5文字のキャラクター。その描き方も、例えば菊の花は2×2ドットのキャラを使い「黄色背景に赤キャラ」「黒背景に白キャラ」を組み合わせる、梅は「UFO」桜は「人の顔」藤は「ま」と「ん」

これでも、プレイ中は一目で何の札か分かるので、全く違和感なく遊ぶことができた。制作者の想像力と表現力が極めて優れていたからこそだと、改めて思い知らされる。

軽快な音楽

今回、そのプレイ動画を収録してYouTubeにアップした。

この動画を見ると分かるが、キャラクター以外に本作が持つもう一つの魅力は「音楽」だ。
例えば役が揃った時、「三光」では『軍艦マーチ』の音楽が流れ、「花見酒」では童謡『さくら』がテンポよく流れる。そして手札を出し切って勝敗を決める時は「野球拳」の音楽が流れる。

その中でも最も印象的な音楽。収録のためのプレイでたまたま実現したが、

ゲーム画面3_五光

まさかコンピューターに「五光」を取られるとは思わなかった。この時はベートーベーンの『運命』という絶望的が音楽が流れる
こんな感じで、それぞれの役や場面に応じた音楽が流れて楽しませてくれる。

あまりに特徴的ながら見やすい画面、楽しませてくれる音楽、そしてじっくり遊べるカードゲームというスタイル。本作には、そんな魅力が詰め込まれている。

「できない」から生まれた「できる」

今思えば、MZ-700というグラフィック機能を持たないマシンで花札を実現するなんて無謀な話だが、本作はその「できない」もので「最大限にできること」を活かして実現させたゲームだった。

また、以前にnoteで『Stories Untold』という、80年代にあった「テキストアドベンチャー」のスタイルを取り入れたゲームについて書いたことがある。

このテキストアドベンチャーも、当時のパソコンで映像を表示するのが困難だからできたもので、言わば「できない」ものから「できること」を活かした結果生まれたものだった。

そして、MZ-700のゲームはその「できない」から「できること」を使ったものが数多くある。その中でも『THE花札』は「できること」を最大限に活かしたゲームだった。
MZ-700を含めた80年代のパソコンの魅力、そして私がこのゲームを好きな理由は、そこにあったように思う。

追記

過去に、このゲームを含めたMZ-700ゲームなど、私が80~90年代に楽しんだパソコンゲームについて、ブログでまとめています。

こちらもご参照いただけたら幸い。

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