見出し画像

顔を覚えるときの情報

私の顔はあまり特徴がない。
そう思うのは、私と2回目に会った人は大抵私の顔や名前を覚えていないからだ。

私がその人のことを覚えている場合、正直、軽くがっかりはする。けれど、それはそれで匿名性があって良いと思っている。

だから、会うのが2回目の人が私のことを覚えていると、内心「うわっ」っと驚く。そんなことは、はなから期待していないだけにとても嬉しくなる。


数年前、まだコロナ禍だった頃、とある珈琲屋さんを再訪した。その店はカウンターとテーブル席が一つで、割とこじんまりしているお店だ。

その店を訪れたのはたぶん2回目か3回目だったと思う。
その当時は、当然マスクをしていたから、個人を特定する情報も少なかったはずだ。でも、その店の店長さんは、私の事を覚えていてくれた。

なぜ覚えていたかを尋ねると「声に特徴があったから。」とのこと。とても印象的な答えだった。

そして、ちょっとドキッとする答えだった。
「私って人に覚えてもらうような特徴のある声だったかな。」と、なんだか恥ずかしいような嬉しいような不思議な気持ちになった。


それ以来、その珈琲屋さんをよく利用するようになった。
顔を覚えてもらっていたのが嬉しかったというのもあったし、なにより珈琲の種類が豊富なのと、店長さんがとても丁寧に接してくれること、それから、お店に来るお客さんとの会話が楽しいというのがその理由だった。


そして今日、ふと、そのときのことを思い出して、店長さんに聞いてみた。
あのとき、私のことを声で分かったと言っていたが、そんなに特徴のある声なのか、と。

すると、店長さんは、
「ライラックさんは声に特徴があるというか、僕自身が声でお客さんを判断してるんですよ。」と教えてくれた。
そして、人は髪型や服装で見た目が変わるから割と声と一緒に覚えているのだと説明してくれた。

「じゃあ、やっぱり客商売だから意識的そうしてるってこと?」と聞いたら、

「意識してではなく、そういうふうに自然に覚えているんです。」とのこと。


声と一緒に覚えている。
しかも、それはあまり意識していないことである、という答えはとても新鮮だった。

私は人の顔覚えるとき、名前とその人の顔の印象だけを記憶しておこうと努力する。
でも、店長さんは視覚情報だけでなく音声の情報で覚えているというのだ。しかも自然と。
音というのはかなり情報量が多いはずなのに、私はそこがすっぽりと抜け落ちていたのだ。
本当は同じように音が耳に入ってきているはずななに!

なぜだかその話がとても気に入ったので、その場ですぐに、「この話、どこかで書いてもいい?」と店長さんに確認した。唐突な申し出だったのにもかかわらず店長さんは快諾してくれた。

記憶が新しいうちに、面白いと思った体験を書き留めたいと思った。
そんなわけで、今このnoteを書いてる。

きっとこれからは、人の顔を覚えるときは音にも注意を向けるようになるだろう。店長さんのようにできるかどうかはわからないけど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?