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まほうの指輪、Neovaを買った話。

ようこそNeova

指輪型MIDIコントローラのNeova(Enhancia)を買った。演奏しながら指の動きでMIDI制御ができるという優れもの。流通開始から大分経つが、残念ながらやはり定番のコントローラにはなっていないようだ。この手の次世代型デバイスは、明確な使用目的がなければただの置物になってしまいがちだ。

重い腰を上げ、SWAMを制御する際の精度向上のためにNeovaを導入することにした。(競合のWave Ringの方が安価だが…Enhanciaは私がお世話になっているAudio Modelingの提携企業なので配慮した。)

これまでもLeap MotionとSeaboardを併用し、振幅と周期の制御を左右の手に分けるなど工夫してはいたが、リアルタイム制御ではPBによるVibratoに有機的な表現力で劣る

SWAMのVibrato Fade inパラメータを利用し、最大振幅に到達する時間を少し延ばせば初動の変化を際立たせられるが、それを過ぎると味気なくなってしまうことに変わりない。弦のVibratoを追求するなら、PB制御を取り入れるのが望ましいという結論に至った。

初期値は250ms。あまり時間を掛け過ぎるとフェード感が強くなり、扱いが難しくなるので注意。

Neovaの使用感

デバイス刷新で入力精度が格段に向上するかと思いきや、Neovaによる制御習得も一朝一夕ではいかないのであった。
Neovaでは内部の加速度計が揺れを検知することでPB制御を行う。その際、不必要に音程がブレないよう閾値を設けられるようになっている。

加速度が閾値(Threshold)を下回るとPBに影響しない。
傾きが閾値を超えてはじめて反応する。

もし閾値がなければ打鍵や指をくぐらせただけでPBが反応してしまう。不可欠で素晴らしい機能だ。しかし、Gainとの組み合わせ設定には中々に手を焼かされる。

Gainを大きくすると、振幅&周期のグラフでは難しいダイナミックな表現も可能になる一方で、閾値により振幅の小さいVibratoができなくなってしまう。消え入るような、余韻のある揺れ表現ができないのは非常に痛い。(閾値を下回ると、スン…と一瞬Non-Vibratoになる。)

Gainを小さくすると、小回りが利くようになる。その代わりに、最大振幅が物足りなくなる

幸いBank機能があるので、用途に合わせていくつか感度設定を保存しておくと便利だろう。(後述するが、演奏自由度の高い設定を諦めるわけではない。)

また、重い鍵盤(グランドピアノ風)とNeovaの組合せでSWAMを演奏する場合、打鍵タイミングが疎かになりがちなのがネック。感覚を掴むまで少し時間が掛かりそうだ。

とはいえ、この手の機器が扱いにくいのは、練度不足より設定が原因であることがほとんどだ。直感的ではあるが合理的でない動きに割り当てていないか、演奏しにくいな、と感じたらまず設定を疑う。

Neovaは振幅増加・揺らぎ表現に強い。閾値設定を乗り越えれば、振幅減少・安定表現にも対応できるようになるだろうと考えている。

Seaboard Glide vs. Neova Vibrato

少し脱線するが、流行らなかった悲しいデバイスSeaboardについて触れる。

Seaboardの鍵盤はシリコン製で、ぷよぷよとした打鍵感が独特だ。一般的な鍵盤のつもりで弾こうとすると、感覚のズレによる気持ち悪さに驚くことだろう。

また、Velocity入力に関してはあってないようなもので、そんなに強く弾いたつもりはないのに最大値が叩き出されたりする。付属の感度設定ソフトも大味(ワンノブ)で細かいカーブを描けないため、設定を詰めても快適になるわけではないのがつらいところだ。

さて、Seaboard×SWAMのデモでは、ほとんどの方が次のような制御方法を選択している。

After Touch: Expression
Glide: Pitch Bend
Slide: (未指定?)

Seaboardのみで演奏するならこれがベストだとは思うが、ExpressionをAfter Touchに割り当てると、打鍵の度に速度が急激に落ちるようになり、どんなに気をつけても演奏にぎこちなさが生じてしまう。Velocity感度問題も相まって、ふにゃふにゃした印象がより強調されてしまうのも残念だ。

GlideによるVibratoには、ふたつの問題点がある。

ひとつは、先述したように感度設定がままならない点。確かにPB-Vibratoは可能ではあるが、出力結果が理想と遠いのだ。振幅&周期で表現した方が良い結果になる場合も多いだろう。

もうひとつは、指の着地が非常に難しくなる点。特にミニサイズのSeaboard "Blocks"では、ただでさえ打鍵の判定が狭くシビアなのに、常に指を揺らし、鍵盤への圧力が0にならないようバランスを取り、更に演奏タイミングを維持するなどまさに曲芸。練習を積めば上達するとはいえ、欠点を庇いながらの演奏を強いられるのは非合理的だ。

気に入らない点ばかりを挙げたが、私はSeaboardを愛用している。特にSWAM弦に関しては、これ以上の機器はないだろうとさえ感じている。
After Touchはシリコン鍵盤の弾力がプラスにはたらいて扱いやすいし、「打鍵ごとにリセットされる」SlideはTemperamentにも適している。必要以上に圧力をかけず軽く触れるだけで演奏できるため、同じ手でVibrato制御する場合に干渉しにくく、弦楽器らしい振舞いができるので気に入っている。

現在、Roliが破産申請をしたこともあり、Seaboardは手に入りにくくなっている。大好きな機器なだけにとても残念だ。
Slide, Glideは使えないが、同じ用途でAfter Touch機能を搭載し演奏しやすいであろうLUMIにもずっと目を付けている。(日本には発送不可とのことだが、購入サイトによっては表記にブレがあるのでどうなるか分からない。)
壊れたら壊れたで他の方法を模索するだけだ。

話を戻す。
演奏自由度の高い制御法を追求するには、複数の機器を組み合わせ、長所を活かすことが大切ではないかと考えている。

まずは、可能な限り制御動作の独立性を保つ。次に、他からの干渉を抑えるのが難しい動作には、積極的表現パラメータではなく、不安定性を司るパラメータを割り当てる。干渉してしまう瞬間に不安定性が増加するようにマッピングするのが適当だろう。

現在の制御設定

試行錯誤を繰り返し、最終的に次のように割り振ることにした。
CC12種同時制御。

Leap Motion(腕の負担軽減のため傾けて設置、左手ジェスチャ、運弓担当)
[Left-Right]: Expression(積極的)
[Back-Forth]: Bow Position(積極的, 合理的干渉: 腕関節の制限)
[Up-Down]: Bow Pressure(積極的, 合理的干渉: 運弓変更時の手首)
[Open-Close]: Portamento(積極的, 改良余地: 時間が未指定のため一定)
[Roll]: Bow Lift(積極的, オンオフのみ, 干渉: 弓圧に対して無視できる程度)
[Pitch]: Interactive BC(積極的, 表現補助, 合理的干渉: 手首と弓圧に対応)
[Yaw]: Random Bow(非積極的, 表現補助, 合理的干渉: 手首の返し)

Pedal(足元に設置、運弓補助担当)
[Sustain Pedal]: Sustain(積極的, オンオフのみ)

Neova(右手に装着、音程変化とSeaboard補助担当)
[Vibrato]: Pitch Bend(1)(積極的, Seaboard After Touchへの干渉は問題なし)
[Tilt]: Vibrato Rate(積極的, Seaboard補助)
[Pitch Bend]: Pitch Bend(2)(積極的, Neova Vibratoへの干渉は問題なし)
[Roll]: -(鍵盤から離さなければ動作しないため未指定)

Seaboard(右手で演奏、基本的音程とNeova補助担当)
[After Touch]: Vibrato Depth(積極的, Neova PB-Vibratoを補助)
[Slide]: Temperament(非積極的, 表現補助, 合理的干渉: 打鍵の度に再指定)
[Glide]: -(NeovaのVibratoが上位互換となるため未指定)

Neovaを導入したことで

一番の改善点は、Vibratoの傾向に合った制御法を臨機応変に選択できるようになったことだ。振幅や周期の劇的な変化が必要ならNeovaで制御する。フレーズのまとまりや運指の安定性を高めたり、運弓に集中したい場合はSeaboardで制御すると良い。

個人的にはNeovaの性能にとても満足しているが、おすすめできる人はいくらか限られそうだ。

シンセサイザを3Dモーションで制御するだけなら、Leap Motionの方が多機能だし安価。「揺らす動作に閾値を設定でき、一般的鍵盤を演奏しながらの制御も可能である」ことこそが唯一無二の価値だと感じている。
閾値機能に関しても諸刃の剣であり、苦手なことはあるものの、SWAM弦のPB-Vibratoに最も適した入力機器はNeovaだと言える。

制御スロットが少ない(というかSWAM弦の重要パラメータが多過ぎる)ため、これだけで制御演奏が思いのままになるわけではないが、他と組み合わせることで輝きを増す機器である。

リアルタイム制御演奏に興味のない方(全て手入力による打ち込みを行う)にとっても、指輪型MIDIコンは制作の助けになるはずだ。打ち込んだデータを所々PB-Vibratoに挿し替えるだけで、表現精度の向上に加え、かなりの時間短縮が期待できる。

購入時のトラブル

Neovaには非常に満足しているし、高く評価しているが、購入に関してかなり多くのトラブルがあったので記録として残しておく。

BFセール($100 off)で公式サイトから購入。クラファンの頃より高いが仕方ない。価格は約34000円。(国内代理店だと約60000円)
フランスから日本まで10日程度で届いたが、途中で約3000円の関税を要求された。

――手元に届くや否や段ボールの封を破く。中には高級感のある黒い化粧箱と、いくつかのリングが無造作に放り込まれたポリ袋がひとつ。

化粧箱の外にリング…?

「なぜ箱の外に袋が?」という疑問は浮かんだが、浮き立つ気持ちにすぐにかき消された。そっと箱を開くと鎮座した宝石と御対面。周りにはそれを避けるように型抜きされた厚紙が敷かれ、「Designed in France」なんて気取った銀文字が刻印されている。シャレた演出で盛り上げられて辛抱できるはずもなく、すぐさま石を台座から抜き取り、外袋のリングを漁り、組んで試着した。指にはめるだけでも楽しい気分になれた。

中敷き。型からストーンが覗いていた。

さあ、次は台座を整える番だ。
指を踊らせながら中敷きを捲った。その時だった。

箱の中には、台座と――リングがあった。

ふと、先ほど触れたポリ袋が頭を過ぎる。

「あれはスペアだったのか?」「内容物は合っているのか?」
不安になり、急いで底の説明書を開いて確認してみた。外袋の記載はなかったが、どうやら不足もないらしい。一瞬ひやりとしたが、サービスでスペアを付けてくれていたんだろう、とポジティブに考えることにした。

しかし、束の間。中敷きの「下」に挟まっていた注意書きが目に入る。

「リングの組み立てをすぐに行わないでください。」
「一度装着されたストーンは取り外す事ができません。」
「人差し指とサイズが合うリングをお選びください。」

まんまと罠にかかった。

中敷きの「下」にあったリングの方が種類も豊富で、そちらの方がぴったりだった。後悔先に立たず。しかし腹立つ。

中敷きを!外さないと!注意書きが!読めないだろ~~…がッ!
でも、全ての内容物を確認せずに組み立てた自分が悪いんす。ッ腹立ツゥ~~!!!!!

ま、ま、やってしまったものは仕方がない。何とかしてリングを外せないかとマニュアルに縋るが、再びここで混乱することになるのだった。

英語版マニュアルでは「取外し不可」だけど、日本語版だと「取外し可能」と書いてあるぞ…?

――あっ、雑だ。
信用が揺らぎ、警戒心が顔をもたげてきた。

その後、少し手間取ったが何とかリングを外すことができた。だが、まだまだ事件は続く。ストーンに不良がみられたのだ。表面にぽつりと小さい気泡のようなものが浮かんでいる。崩れかけていた信用は音もなく弾けて消えた。

小さな丸い凹みがある。

Neovaは「デザイン性重視」で売り出されている側面もある。これが「機能性重視の製品」で、裏に多少の色ムラがある、程度なら個体差として許容できるが…。動作自体には問題がないようだったので、しばし悩んだ。

ひとつひとつは些細な問題だったかもしれないが、次第に粗雑な印象が強まった。サポートに連絡しても「そんなもんです」と突っ撥ねられるかもしれない。とはいえ、報告がきちんと今後の改善に繋がる可能性もある。半ば諦めつつも、一応コンタクトを取ることにした――

結果、不良が認められ、あっさり交換対応してもらえることになった。
信用はすぐ戻った。私はチョロい。

返品交換の送料に関しても尋ねてみたが、思いの外、関税含め全額負担してくれるとのことだった。どうやら、最初に受け取る際に支払った関税についても想定外だったらしい。
…しかし、既に支払った関税については返金されることはなかった。雑ゥ!

そんなこんなで2週間ほど待つ。
従来の宅急便だと赤字になるらしく、時間は掛かるが安価な別のサービスを利用して届けてくれるとのことだった。

待った。待ちはしたが、荷物が送られてこない。
某国際郵便ではよくあることらしい。

追跡サービスで確認してみると、「宛名不完全」によりフランスに返送開始されていた。まだ国内に荷物があったので急いで郵便局に連絡してみたが、再配達は不可とのことだった。
はるばる海を渡り近所まで来ていたというのに、踵を返し帰って行く指輪…。

12/18 サポートに連絡するも返信なし。
12/30 改めてサポートに連絡するも返信なし。
1/4 担当者から返信あり。年末年始休暇だったらしい。仕方ないね。

信用はすぐ戻った。

念のため書くが、対応そのものは丁寧で、とても好感が持てた。
似たケースは聞かないし、たまたま不良に当たってしまったというだけの話だ。フランスと日本は遠い。国柄も異なる。ふと、これが国内代理店からの購入なら違ったのだろうか…とも考えたが、やっぱりべらぼうに高いのでナシだ。(希少・良デザイン・高精度・軽量・低遅延なので高くなるのも分かるが、あくまでパフォーマンス用途のMIDIコンであることには変わりない。実際使ってみて、体感価値は2~3万かな…。)

サポートの丁寧な対応に感謝を伝え、これで最後であってくれ、と願いを込めて再配達の手配をしてもらった。英語だけでなく日本語で書いた住所を画像で添付し、荷物に貼り付けてもらうことにした。

現在 指輪輸送中――。

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