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どうして英語ってこんなに難しいの?: (19) Vという文字の歴史

英語の書き言葉の問題は、英語という話し言葉を表記する記号であるアルファベットを、外国から借りてきたことより生じています。

万葉仮名

日本語も、最初は万葉仮名という中国大陸の漢字を借りてきて、似たような音に聞こえた言葉で日本語音を当てたのでした。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%87%E8%91%89%E4%BB%AE%E5%90%8D

やがては大和言葉の平仮名を発達させて、「い」や「ゐ」などという細かい音の違いさえも表記できるようにしたのでしたが、数百年を経て、二つの音素は融合されて、現在では「ゐ」も「ゑ」も失われてしまいました。

https://edusup.jp/topic/20160831

現代では、外来語を表記するために「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」という、V行ともいえる新しい音も表記として採用されています(ほとんどの日本人はVは発音できませんが、表記上は区別しています)。

いまだに日本語では、THなど英語の特殊な音を表記する文字は作られてはいませんが、将来的には必要かもしれません。

江戸時代には「パピブペポ」のように使用される半濁音記号〇を「さ」や「せ」につける平仮名が存在したことが知られています。

「セ゚」や「サ゚」でTh音を表記すると、日本人の英語力も向上するのでは。

ラ゚は実際に明治時代に、L音由来の外来語をR音由来の外来語から区別するために作られたりもしたのです。

Lionはラ゚イオン! 
Libraryはラ゚イブラリー Library

少なくとも「ジスイズアペン This is a pen」よりもずっとましなはず。

古英語の ÐとÞ

英語では、万葉仮名を古代日本人が採用したように、イングランド人は近隣のサクソン人やデーン人と呼ばれる、いわゆるヴァイキングの言葉ルーン文字を採用してTHの音を見事に表現したりもしました。

濁ったTHのEthに、濁らないTHのThornです。

Eth (/ɛð/, uppercase: Ð, lowercase: ð; also spelled edh or eð),
https://en.wikipedia.org/wiki/Eth

Thorn or þorn (Þ, þ)
https://en.wikipedia.org/wiki/Thorn_(letter)

ThというTとHを組み合わせたスペルは、舌を噛んで、喉の奥から噴き出す息で作り出す英語特有の音なのですが、「エズ」や「ソーン」(カタカタ表記は無理ですが、こんな感じの読み方)を一文字で書き表す英語文字が現代英語から失われてしまったのは残念です。

DとPに似ていると、活版印刷の普及によって(15世紀ごろ)消滅したのです。

ちょうど大詩人で劇作家のシェイクスピア (1564-1716) 登場の直前ですね。

ラテン文字のV

古英語でも表記できない曖昧な音素もありました。

それが現代の文字のUとVとWで区別される音。

古代には書き言葉では区別がなかったのです。

ダブリュー<W>は文字通り、「ダブル・ユー」でUが二つという意味ですが、アルファベットではVが二つ。

実はこれはその昔、VとUが全く同じ文字だったからです。

古代ローマ帝国のラテン語アルファベットには、文字の下の部分が丸い「U」という記号は存在せず、すべてVという文字を使っていたのです。

VはUだったのです。

例えば、英語読みでジュリアス・シーザーとして知られる、実質的なローマ帝国初代皇帝ユリウス・カエサル。

実はIとJも混同されていて、ユリウスはIVLIVS でした。Jの話はまた今度。

いずれにせよ、VはUと読んだのです。

JULIUSがIVLIVS!

彼の有名な言葉、

Veni, vidi, vici (来た、見た、勝った)
I came, I saw, I won

は古代ローマ式のラテン語読みをカタカタで書くと

ウェニ、ウィディ、ウィスイ

と濁らないUの音で読まれたと考えられています。Vは母音を表す文字でした。

Vidiは英語のVidに通じます。Visible, Vision, という単語の語源で「見る」に関連があるのがわかります。

Viciは、そのままVictoryですね。

Veniはvenireが原型で、venireはイタリア語でComeの意味。

Venireも一応、英語では「出頭する」という法律用語で使われるようですが、Comeはゲルマン語由来の言葉で、Veniは英語と関連が薄い。

長い長いローマ帝国の歴史では、Vという舌を噛んで息を吹き出す音は長い間、存在しなかったとされています。

だから初期ローマ帝国時代のラテン語文献で見られるVはUとして発音されるのです。

ラテン語はその後、中世のカソリック教会の公用語として生き残り、中世式だと、Vが、子音のVともUとも読めたりするようになり、ややこしいので、やがては文字の下の部分がとんがっていない、丸くなっているUを用いて区別するようになったとか。

長く伸ばす二重母音のUはV+Vで、Wとしたのです。筆記上ではダブルVなのですが、ダブルUなのです。

ドイツ語やオランダ語の場合

Vを舌を噛んで発音しない音として使うヨーロッパ言語が存在するのは、そうした歴史的変遷ゆえ。

ドイツ語ではVater(英語のFather)のVは、Fの音と同じですよね。

オランダ語でもVideoは「Fideo」と発音されます。

シューベルトの「魔王」で、

マインファーター、マインファーター、オントへレストドゥニヒト?
お父さん、お父さん、聞こえないの?

と印象的に歌われますが、綴りは 

Mein Vater, mein Vater und hörest du nicht 

です。

ドイツ語ではWは、なんと英語のVの発音と同じ!

ドイツの大作曲家のRichard Wagnerは「リヒャルト・ヴァーグナー」と表記されるようになっていますが、ワーグナーとしても知られています。英語式だと子の発音は正しいのです。別に日本人だけが外国語を間違って発音しているわけでもないのです。

英語では、Vはカタカナ表記すると「ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ」。

Uは母音ですので、英語において、EやAと同じく、最頻使用文字。

Wはあまり使われない。

OSのWindowsは、ウィンドウズとカタカナで書かれますが、古英語式のUuindouusだと読みにくい。

やはりWを発明したことはよかった。意味深い文字です。

Vで始まる言葉

Vは、下唇を前歯で軽く挟んで、勢いよく息を出さないと発音できない、日本人が苦手とする音。

日本語には存在しないのですから仕方ありません。

日本語ネイティブはBで代用しますが、これでは通じません。

Videoを「Bideo」と発音してしまうのは、やはりカタカタでビデオという書き方が一般に普及しているからでしょうか。

カタカナの功罪は深いですね。

ビビアンさんというカタカナ表記の女性の名前も、本来はVivian。19世紀英国のビクトリア女王は当然ながら、Queen Victoria。オリバーさんもOliver、ビクターさんもVictor。

VがBに置き換えられたカタカナ言葉には要注意です。

一語一語覚えなおすほかはありません。

舞台やコンサートなどで「ブラボー」と、イタリア語で「素晴らしい」と叫ぶのはよいことですが、日本のクラシック音楽の演奏会で日本人がBravoとキチンと発音しているのを聞いたことがありません。

クラシック音楽を好きな方は外国文化に造詣が深いはずなのですが、それほどにVは難しい。しかもアクセントが違う。

カタカナで書けば「ブラーヴォー」、または複数形で「ブラーヴィー」、単独の女性演奏家や歌手には「ブラーヴァー」。

でもVが発音できないならば、叫ばない方がいいのかも。日本国内ではいいのかもしれませんが、外国のコンサートホールやシアターでは恥をかきそうです。

Vという文字を含んだ英単語は2900字以上もあるそうです。1438字が辞書に登録されたVで始まる英単語の数。

ぜひとも発音できるようになってください。

Ronnieさんのように、前歯を大きく突き出して下唇を噛む。このくらいしないと綺麗なはっきりとしたVは発声できません。

英語は日本語よりも口を大きく使わないと発声不可能なのです。

見本を見せるためにいささか大げさに下唇を噛んでいますが、
こんな風にVを発音する人はかなり普通に存在します。
英語圏で子供に歯科矯正 Orthodontic Treatment を必ず施すのは、
英語では歯を見せないと喋れないから何だと私は思います。

RonnieさんはVとWを別の音として発音できない人たちとして、ドイツ語やポーランド語やウクライナ語などのスラヴ語話者を挙げておられます。

日本人はWを難しいと思わないでしょうが、上記のWagnerの例のように、WとVがこんがらがる人たちが世界にはたくさんいます。

英語話者は日本人がRとLを混同してしまうことが理解できません。舌の動きが全く正反対だからですが、日本語では舌を大きく動かさない。

世界の言語の多様さには驚くばかりです。

外来語表記に使われるV

ウクライナの首都、キエフKievのVはF音で発音されます。

Vが単語の一番最後に出てきたからFになるというわけではなく、ドイツ語同様に、スラヴ語系の単語は表記されるVはF音に互換されるからです。

ウクライナ生まれのソヴィエトの作曲家Sergei Prokofievはプロコフィエ

英語ではわざわざキーウ Kyiv などとウクライナ風に改めることはしていません。ウクライナの首都はキエフ Kievとして報道されています。

カタカナ語のV

日本語の外来語表記は本当に難しい。

最近のメディアを見ても、こういう二つの表記の併用が見受けられます。

日本語ではきっと、どちらも正しい。

ヴにすると外国語の知識をひけらかしているようで嫌がられるかも。

  • バイキング → ヴァイキング Viking

  • バイオリン → ヴァイオリン Violin

  • ビデオ   → ヴィデオ Video

  • ビバルディ  → ヴィヴァルディ Vivaldi

  • ボーカル  → ヴォーカル Vocal

  • ベール  → ヴェール (ヴェイルの方がより英語に近い綴り、でもWedding Veil をヴェイルと書いてあるのを見たことがない)Veil

  • カーブ → カーヴ Curve(野球の変化球カーブはCurveball)

  • ベートーベン → ベートーヴェン Beethoven (béɪtoʊvn) ドイツ人なのでEEはイーとならずに、エイと読みます。Venはヴン。

  • ラブ → ラヴ Love(これが言えないと、英語で愛の言葉も囁けない笑)

こういうカタカナ日本語の言葉の由来を意識して、英語的に「バビブベボ」を普段から「V」の音で書くだけでも、きっと英語学習には役立ちますよ。


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