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始めに

今回は、競技現場で手軽に行うことが可能でかつ効果的な方法の1つである前腕冷却についてその具体的な方法と、なぜ冷却効果が認められるのかという医科学的な知見を紹介します。

前腕冷却の具体的な方法

1、バケツなど、水のたまるものを用意する。ドリンクを冷やすために用いている大きめのクーラーボックスでもよい。

2、水温は13 ℃より低下すると指先や手に痛みを伴うので、13~15 ℃付近で行うと痛みを伴うことなく感覚的な冷涼感も大きくなる。基本的には練習中の休憩のタイミングで行なう。指先が痛くなるような感覚を覚える場合は、10℃に近いことが予想される。長くいれれば入れるほど効果が期待できるが、短時間であったとしても冷涼感や皮膚温の低下は得られる。

3、上記の用意が難しければ、冷やしたペットボトルを握ったり、その水を前腕や手にかけるなどして腕からの熱放散を少しでも促進する。

熱放散に適した上肢および下肢

体幹部と比較して、腕や脚は熱を身体の外に逃がしやすい構造となっています。これは、体幹部と比較して、容積に対する表面積の比が大きいからです。体幹部の容積に対する表面積比を1とした場合、腕は5倍、手指は22倍、足では69倍にもなると言われています。

上記の構造上の特性に加えて、特殊な血管を備えている点も上肢や下肢の大きな特徴です。この特殊な血管は動静脈吻合(Arteriovenous Anastomoses; AVA)と言われます。私達がイメージする血管は、細動脈―毛細血管―細静脈の形をとりますが、このAVAは細動脈―細静脈という作りになっていることに加え、内径が通常の血管より大きいことが特徴です。体温が高くなるとAVAが拡張するので、多くの血液が手のひらに運ばれ、指から手のひらへ、手から心臓へ戻る際に通る腕からの熱放散を増加させることが知られています。

実際に、スポーツ活動中の高体温抑制に関する研究や消防士を活動中の熱中症から守るための研究では、前腕を冷却することで深部体温や皮膚温を効果的に低下させることが報告されています。当然のことながら、熱中症を発症した場合や全身を冷水で冷却できる環境であれば、全身冷却を用いた方が冷却効果が高いことは事実です。特に熱中症を発症した場合は広範囲に渡って身体冷却を促すことが絶対条件です。しかし運動中の過度な体温上昇を抑えたり、冷感を得られるという点において、

前腕冷却は、手軽にかつ効率的に深部温や皮膚温を低下させることができる方法です。

内部冷却との併用

前腕冷却は身体の外部から冷却を行うので外部冷却の一種です(熱中症コラム:身体冷却1参照)。前腕冷却の良い点は、前腕冷却自体の効果が期待できるだけでなく、内部冷却と組み合わせることでさらなる効果が期待できる点にあります。

私達の研究では、体温を上げた状態から、前腕冷却とアイススラリー摂取(外部冷却+内部冷却)を組み合わせて行った場合に、前腕冷却を単独で行った場合よりも深部温の低下が早くなる結果が得られました。その一方で、前腕冷却とアイスベスト(外部冷却+外部冷却)を組み合わせて深部温の冷却効果を検討した研究では、組み合わせた条件と前腕冷却のみの条件との間で、深部温の低下に差が認められませんでした。
内部冷却は運動中や運動後の水分補給も兼ねることができるので、前腕冷却と組み合わせて利用しても良いでしょう。

【参考文献】
- 平田耕三.動静脈吻合(AVA)血流と四肢からの熱放散調節.日生気誌,53(1),3-12,2016.
- 永坂鉄夫ら.動静脈吻合の体力医学的意義.デサントスポーツ科学,Vol18,1997.
- スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック.日本スポーツ協会,2019.
- Barr D et al., The impact of different cooling modalities on the physiological responses in firefighters during strenuous work performed in high environmental temperatures.
Eur J Appl Physiol. 111(6):959-967, 2011.
- 中村大輔ら.エリート女子セーリング選手におけるレース間の冷却戦略が深部温および主観的指標に与える影響.(査読中)
- Nakamura et al., The impact of novel cooling strategy combined forearm cooling and low dose of ice slurry ingestion on physiological response during short-recovery period in the heat.
(投稿準備中)

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