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Sportsにギャンブルは必要か(Fantasy Sportsの米国スポーツに与えている影響)

SSACレポート第2段は、前回のスポーツStreamingの未来に続いて、今非常にホットなFantasy Sportsについて書きたいと思う。ところで、皆さんはFantasy Sportsをご存知だろうか?

ここ数年で、アメリカではプロスポーツ(NFL, NBA, MLB, NHL等々)の個々の選手の実際のパフォーマンスをベースを予想して、ファンの間で賞金を競うFantasy Sportsというビジネスが急成長している。2015年時点で北米で約60百万人のActiveユーザーがいて、一人当たりの年間消費額は約500ドルと言われており、市場規模は300億ドルと非常に巨大である。Fantasy Sportsを提供しているプラットフォーム企業の中でも最大手のDraftkingsというスタートアップは、2011年の設立にもかかわらず、すでに企業価値が20億ドルを超えていると言われている。

Fantasy Sportsは現在、シーズン全体で競うもの(traditional)と1試合単位で競うもの(daily)の2つがあり、特にDaily Fantasy Sportsが始まったここ3年くらいでユーザ人口が爆発的に増えている。具体的なプロセスとしては、個々のユーザに予算の上限が与えられ(例えば50億円の予算)、その予算内に収まるように自分の好きな選手をポジションごとにピックアップし(各選手に獲得に必要な金額が予め設定されている)、あとはそれぞれの選手の実際の試合での活躍に応じて点数が与えられ、自分のチームにいる選手の合計値を1試合もしくはシーズン単位で競うというもの。ゲームは良くできていて、例えば対戦相手の強さの補正値等も入るので、チームやゲーム単位を超えた比較が、できる限りフェアになるようにできている。多くのFantasy Sportsのゲームが用意されており、素人から玄人向けのゲームや、エントリーの金額(いわゆる掛け金)も無料から高額のものがある。今回のSSACには、DraftkingsのCEOデアルJason Robinsもパネラーとしてディスカッションに登場し、Fantasy Sportsのスポーツ業界への影響の今と今後について以下のような議論があった。

・Fantasy Sportsがなぜここまで流行っているのか:流行った要因としては、モバイルデバイスの浸透とスポーツのゲームのデータ収集・分析手法の発展という2つのテクノジーの進化により、よりゲームや友人との間でInteractiveな体験がしたいという潜在的なファンの欲求に火がついた形。それに加えて、ファンのエンゲージメントを高めたいプロスポーツリーグ側の積極的な協力とDaily Fantasy Sportsの登場により参加のハードルが下がったことが急激な成長に寄与した。

具体的には、モバイルデバイスの浸透によりファンはどこからでもゲームの情報やFantasy Sportsのチーム編成にアクセスできるようになり、よりシームレス(例えば家で予め賭けておいて、スタジアムで試合を観戦しながら結果にFantas Sportsの結果にも一喜一憂する、翌日会社で同僚と結果を比較する等々)な体験ができるようになった。さらにスポーツゲームのパフォーマンスを分析する手法がセンサーの発達やデータ分析手法の進化により、より高度な情報が入手できるようになり、Fantasy Sportsのチーム編成における分析の面白さや深さが高まり、単なる好きな選手に賭けるというものではない、より戦略性の高いゲームになっていた。こうした技術的発展に加えて、よりファンの囲い込みをしたいと思っていたプロスポーツリーグ側も、時代的にファンへのInteractiveなコンテンツの提供が重要になってきているという背景から、モバイルやソーシャルメディアとの親和性も高いFantasy Sportsと積極的に提携するようになり、肖像権やデータの提供に加えて、タイアップしたイベントや宣伝等を実施(実際NBAの試合を見に行くとFantasy Sports無料エントリーチケットの提供キャンペーン、なんていうのもやっていたりする)。そしてDaily Fantasy Sportsの登場が、シーズン単位のプレーまではコミットできないようなエントリー・ライトユーザーの取り込みに繋がり、一気に爆発した形。

・Fantasy Sportsはスポーツ産業にどう影響を与えているのか:(上述の通り)Fantasy Sportsはファンの毎日のゲームへのエンゲージメントを高めることに貢献している。自分のFantasy Sports上でのチームの選手を選ぶため、もしくはその結果を確認するために、より日々のゲームの結果に対して興味を持つようになるし、友人同士の話題のネタにもなる。また、Fantasy Sportsの盛り上がりに伴い、選手のパフォーマンスをより正確に分析・予想するデータもどんどん増えてきてい。実際に、NFLやMLBでは、非常に細かで高度な選手のパフォーマンス解析データがPublicに提供されており、これにより実施のゲームを見る際のファンのリテラシーも高くなり、そのプレーの高度差や重要性がより伝わりやすくなっている上に、こうしたデータ解析の手法がチーム運営の方でパフォーマンスの評価や改善に利用されるという逆の現象も起きている。更に、毎年シーズン前には、例えばダルビッシュは来シーズンは15勝5敗で防御率は2.50、奪三振率は10.50等、それぞれの選手の細かな成績の予想を多くのサイトが出している。(この点、日本のプロ野球やJリーグはこうした高度なパフォーマンス分析のデータのチーム及びファンの間での浸透が遅れている印象。)

・Fantasy Sportsはギャンブルではないのか:ここは議論が割れているところ。現時点の整理は、(単なる運にかける)ギャンブルではなくて、データを分析して予想するというゲーム(ゆえに、法律上ギャンブルには当たらない)。ただ、ギャンブル的な性質があることは事実で、中毒性を懸念する声や、ファンが実際のゲームの純粋な中身を楽しむのではなく、あくまで自分の賭けた結果にしか興味がなくなってしまうのでは、という議論もある。(日本で言えば競馬や競艇、競輪に近い感覚?)

・Fantasy Sportsとe-sportsのコラボレーションの可能性:最近、Draftkingsはe-sportsへのFantasy Sportsの提供も開始した。e-sportsが興味深い点はオーディエンスの女性比率が50%と高い点(従来のスポーツは男性比率が7-8割近い)。また従来のTVゲームと比較して、e-sportsは常に筋書きのない(予想不可能な)新しいドラマが起こる。これはまさにFantasy Sportsのコンテンツとして相性が良く、ファンはその筋書きのないドラマを予想しようと、必死に分析し、その結果を友人やコミュニティとシェアしたがる。こういった点で、Fantasy Sportsとe-sportsの相性は非常に良いと感じているとのことだった。

ここからは個人的見解であるが、日本では野球を始めとして、スポーツ x ギャンブルのイメージが非常に悪いので、なかなか北米と全く同じFantasy Sportsのモデルが浸透するのは難しいかもしれないが、ファンのエンゲージメントを高めるという意味で、こういうプラットフォームを使い、選手のパフォーマンスを分析・予想させたり、自分なりのドリームチームを作って競わせるというのは十分ハマる要素であると思う。このあたりギャンブル性をできる限り減らしながらどういった形で浸透させて行けるか、興味深いところである。

次記事: 3)e-sportsは本当にスポーツなのか?4大スポーツを脅かすのか?



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