#2 子どもの運動能力が伸びる時期は決まってる?
#1では 子どもの“運動能力“はどう伸ばすべき?をテーマとし、“運動能力“を構成する2つの要素について情報を整理させて頂きました。そして今回は、“運動能力“を効率よく伸ばす為に決められて時期があるのか?について情報を整理してみたいと思います。
ゴールデンエイジとは?
よくサッカー協会の育成の仕組みの中でゴールデンエイジというキーワードが出てきます。JFAハンドブック(U-8/U-10)の中は、ゴールデンエイジの年代では、一生に一度だけ訪れる、さまざまな動作を即座に身につけてしまうことができ、且つそれは一度身につくとなかなか失われないという特徴を持っていると書かれています。
そこで今回は、本当にそのような時期があるのか?について考えてみたいと思います。
運動神経は産まれた直後から減り始める?!
世間では、運動神経が良い、悪い、運動神経がないなどの表現をされることがあります。その他にも生まれた直後は運動神経がなくて、その数が増えていくことで運動神経が良くなると思われている保護者や指導者の方々も少なくないのでは。
実は脳では全く逆のことが起こっていて、生後数ヶ月の間に神経の伝達に重要な役割を果たすシナプスの形成が盛んに行われ、その後発達に伴ってシナプスの密度は減少していくといわれています。成長過程の中で、必要だと判断されたシナプスは増強され,必要なしと判断されたシナプスは除去【刈り込み】されてしまいます。
“運動能力“が伸びる時期は思春期前?
シナプスの除去【刈り込み】は,神経系(体性感覚系,聴覚系,視覚系,運動系)のさまざまな部位でみられることや、10歳ごろまでにはシナプスの密度がほぼ半減するといわれている(脳の場所によって差がある)ことから、“運動能力“とそれが伸びる時期に関して適切な時期があるという意見にもある程度納得がいきます。
ポイントは、必要がないと判断される(効率化を図る=必要ないものを持っておく必要はない)とシナプスが除去されることから、思春期前までに色々な運動課題により刺激入することでシナプスの除去を少しでも減らすという発想は大切かもしれません。
しかしながら、シナプスには可塑性(かそせい)という仕組みもあり、新たな運動刺激を入れることで学習することができ思春期前までに“運動能力“をあげなければ将来の可能性がゼロになるというわけでもありません。
可能性を広げる
小さい頃に自転車に乗れると久しぶりに乗っても体が覚えていたり、渋谷のスクランブル交差点を歩いていても人とぶつからないのは、一度習得した運動を自動的に正しく行われるように小脳が運動の記憶とそれを自動調整(予測や運動指令など)しているからといわれています。
幼い頃から、自動化された感覚を沢山持っていると可能性が広がりやすいことは容易に想像がつきます。例えば、自転車に乗って平均台の上を移動するといった課題が出た際、自転車に乗る運動が自動化されている子は平均台の上でバランスをとって進むことに集中できますが、そもそも自転車に乗れない子は自転車に乗る練習からスタートしなければならず、習得する課題が前者の子に比べて多いことから、課題達成までに時間がかかることが予想されます。
上記の点を踏まえると、様々な運動課題を活用して刺激を入れることでシナプスの除去を減らし(体にとって必要な運動だと認識させて残す)、小脳に様々な運動を記憶しておくことが効率よく“運動能力“を伸ばす上で重要なポイントだと考えられます。
その他にも早い段階で体験を積ませたい運動課題として空中での体の操作能力が挙げられます。人間は大人になると行動する前に先に頭で考えてしまいます。例えば、バク転をする際に手をつけなかったらどうしよう。スキーのジャンプで怪我をしたらどうしようか。など、今までの経験を踏まえた上でリスク回避を考える、もしくは不安や怖さから無意識のうちに脳に制限をかけてしまう傾向があるため、心や体が成人に近づいてからの技術の習得には時間がかかります。また、ある程度体が大きくなってしまうと、体操などは補助につくのが難しいといった物理的な理由も追加される為、これらの技術習得は、その他の技術に比べて習得時期は早い方が良いでしょう。
まとめ
今回は、少し難しい話になってしまいましたね^^;。メチャクチャ簡単にまとめてみると、ヒトの脳は、生まれて間もない時期は様々な状況に対応できる可能性を残しており、成長に伴って必要なものは残し、不必要なものは除去するという機能が備わっているといったところでしょうか。(かなりざっくりですが。)シナプスの刈り込みのスピードが遅いうちに様々な運動体験をして刈り込みを減らしておくことが、後の“運動能力“向上に繋がりそうです。将来の可能性をさらに広げる為にも“運動能力“が伸びる時期について引き続きリサーチして行こうと思います。
プロフィール
大城英稔(おおしろ ひでとし)
学歴
東京都 玉川大学文学部教育学科健康教育コース卒業
米国 マーシャル大学大学院 運動生理学専攻 卒業
略歴
スポーツおきなわ 代表理事
沖縄国際大学 非常勤講師
沖縄県スポーツ協会 医科学スタッフ
沖縄県テニス協会 医科学委員長
元国立スポーツ科学センター常勤トレーニング指導員
元Bリーグ琉球ゴールデンキングスストレングス&コンディショニングコーチ