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今週のリフレクション【企業変革のジレンマ(宇多川元一氏)】

今週は宇多川元一さん著「企業変革のジレンマ」を振り返ります。ざっくり3点で要約すると・・

1.既存の企業変革論は、明確な問題があることが前提。目先の問題解決にとらわれず、背後にある複雑な全体像の認識が必要。環境適応による分業化とルーティン化は組織の「断片化」をもたらし、組織の考える能力と実行力を低下させる「不全化」につながる。このような状態は、問題を紐解けない「表層化」の悪循環に陥る。新規事業は、事業を長く持続させるため、組織能力の構築のために必要。しかし、問題の掘り下げが甘いままに新規事業の推進部署を作っても、既存事業に不満を持つ若手が集まり、アイデア勝負になり、お遊びに見えてしまう。結果、新規事業は難しいという認識だけが広がる

2.企業変革に必要な4つのプロセスは、①全社戦略を考えられるようになる:全社戦略で各役員の役割理解・実行を支援。②全社戦略へのコンセンサス形成:様々なコンフリクトを発見。③部門内での変革の推進:事業部門の視点で全社戦略を捉え直す。④全社戦略・変革施策のアップデート:偏在する情報を統合する。プロセスの推進には、相手の生きる世界を相手の視点で捉え直し、自分が応答し、自分が変わっていく対話が重要。その人や状況にとって必要なことを行うケアで、数多の複雑なジレンマを乗り越える必要がある。

3.企業変革に必要な3つの論点は、①多義性(わからない):組織は成熟すると、多義性を捉えにくくなり、感知すべき外部環境の変化を見過ごす。複数の異なる立場の人が、自社の過去の成功体験を、一緒に紐解く。②複雑性(進まない):上位階層の人達が、ナラティブを共有してコンセンサスを形成し、ポジティブ・デビアンスを問題解決の糸口にする。③自発性(変わらない):新規事業を軌道に乗せるには、経営課題を先読みし、迅速な支援が必要。組織が変わるとは「この組織の今の良好な状態は自分たちが作った」と、一人ひとりが手応えを感じられること。ストーリーテリングをきっかけに、対話から手応えを醸成する。

企業で人材育成の仕事をしていると、ビジネスサイド(いわゆる現場)から、◯◯研修をして欲しい、という要望をもらいます。若手の報連相が足りないからコミュニケーション研修をして欲しいとか、中堅に創造性がないからクリティカルシンキング研修をして欲しい、といった感じです。

ただ、そもそもの課題を聞いてみると、研修をするだけでは最適な解決策にならないことがほとんどです。そもそも若手が報連相をしないことは若手のスキルの問題ではなく、周囲が忙しすぎて若手に意識が向けていられない。中堅に創造性がないのは、上位下達の風土があり、提案が歓迎される雰囲気がない、等です。

問題の裏側には複雑で厄介な構造があり、それを組織のリーダー達と一緒に紐解き、どうしていきたいのかのコンセンサスをつくることが大切です。リーダー達もそれぞれ考えが違うので、それを言葉にして机に並べて、優先順位を決めていく。このプロセスを省いて研修をやっても、まず効果はないと思います。

書籍にある「断片化」「不全化」「表層化」が進んでいる組織ほど、コーポレート部門に社内コンサル的な立ち位置の人が必要で、ビジネスサイドに対話の機会をつくることが必要です。これからの人事には、全社視点で部門横断的に考えられる視界と、ファシリテーションスキルがマストだと思います。

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