2021トップリーグ、NTTドコモの快進撃の裏に迫る。チームの"負け癖"はどのように払拭されたのか。
2021年のトップリーグで、台風の目となったNTTドコモ。リーグ戦第1節から快進撃を続け、2019年王者の神戸製鋼との試合では29−31と、あと一歩のところまで追い詰めました。
2011年にトップリーグに初参戦したNTTドコモの過去最高位は、2014年の11位。2018年は2部相当のトップチャレンジリーグにいたチームがなぜこの1年間で王者を苦しませるまでに強くなれたのか。チームの快進撃の裏でどのような改革があったのかを、NTTドコモに所属する李選手にお伺いしました。
NTTドコモレッドハリケーンズ提供
画面右:李智栄(り ちよん)選手
大阪府出身。京都産業大学卒業後、2017年にNTTドコモに加入。2021年のトップリーグでは、チームのディフェンスリーダーを務めた。ポジションはフランカー。
習慣を変え、意識を変え、チームの負け癖を払拭する
ーー2021年のトップリーグでは開幕戦から目覚ましい快進撃を見せてくださいました。一方、昨年まではなかなか勝つことができず、トップチャレンジリーグに降格するシーズンもありました。チームが変わった要因はどこにあるのでしょうか?
李選手:
アッカーマンHC(ヘッドコーチ)の存在が大きいように思います。彼は今年から新たに就任しましたが、就任直後からチームの意識を変える方針を立てていました。
一度、負け癖がついたチームがそこから脱却しようと自分たちで努力しても、どうしてもループに陥ってしまうと思います。ドコモも長く、もがいてきました。そういった負のループから抜け出すには、やはり外部からの刺激が何かしら必要だと思っていたのですが、その存在がアッカーマンHCだったように思います。
ーー具体的にはどのような方針が作られたのでしょうか?
李選手:
グラウンドに入った時のスイッチの入れ方は厳しく追求されました。とにかくメリハリをつけろと。具体的には、HCが就任してから一番最初の練習で「グラウンドの中では練習の合間であっても、絶対に歩かないこと。歩いたら罰走させる」というルールが与えられました。
負け癖のあるチームは、練習に対して本気で取り組めていないところが無意識的にあると思っています。本人は真剣のつもりでも、どこかで手を抜いていたり、緊張感のある練習ができていなかったり。実際、ドコモもそうでした。強豪チームから見れば、そんな当たり前のこともできていないのかと思われるようなところもあったかなと。HCはそういう姿勢の改革から取り組んでいました。
当たり前の習慣を1つ1つ改善していくことで、選手の意識も変わっていったように思います。それが結果的に試合の成果にも繋がったのかなと。
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PLAY TO INSPIREを体現したディフェンス
ーー今シーズンを振り返ってみて、チームとして一番大きな変化は何だったのでしょうか?
李選手:
一人ひとりの影響力だと思います。今年、HCがチームのスローガンにした言葉が「PLAY TO INSPIRE(周りにいい影響を与えよう)」という言葉だったのですが、それを全選手が体現できたかと思います。
正直、今年は外国人選手が多く新規加入してきた中で、出場選手に選ばれるための競争は激化していました。でも、それは試合のメンバー選考の前まで。ひとたび出場選手が決まれば、試合に選ばれなかった選手ですら、チームの勝利という目的に向けて自分は何ができるのかということを考えて動くことができていました。
「PLAY TO INSPIRE」の認識を全員が持っていたおかげで、それぞれの意識が相乗効果的に強まり、結果的にチームの強さにも繋がったと思います。
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李選手:
この「PLAY TO INSPIRE」は、戦術やプレーにも影響を与えていました。今まで、ドコモは「個人のミスは個人の責任」という認識が選手の中にありました。ただ、今年は「個人のミスは全員の責任」という認識に変化していて、誰かが守りきれなかったゾーンは他の選手がカバーするディフェンスシステムを採用するようになりました。もちろん、これは考え方次第で一長一短あると思うのですが、今年はそのシステムがうまくチームにフィットしていたように思います。ファンの方からも「今年のドコモのディフェンスは粘り強い」と言っていただけて嬉しかったですね。
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これで終わりじゃなくて、これがきっかけ
ーー今シーズンはTJ・ペレナラ選手(ニュージーランド代表)やマカゾレ・マピンピ選手(南アフリカ代表)など、世界のトッププレーヤーもジョインしていました。そういった選手はチームにどういう学びを与えてくれましたか?
李選手:
どの選手もプレーはもちろん、なんというか、普段の当たり前の行動でもレベルが高かったですね。例えば挨拶。もちろん僕たちも挨拶はするんですけど、彼らは控え室にある全部のロッカーを回って「おはよう、おはよう」と、そこにいる全員にグータッチしていくんです。挨拶って普通そこまでしないじゃないですか。普段から他の選手と少しでもコミュニケーションをとろうとする姿勢。そういった挨拶のレベルから世界のトップを示してくれたと思います。
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シーズン初戦のキヤノン戦では、
TJ・ペレナラ選手からのパスで李選手のトライに繋がった
ーー海外の新規加入選手は2020年の10月からチームに合流しましたが、トップリーグ開始までの短い期間の中でチームを形成するために何をしましたか?
李選手:
今年からチームコーディネーターの方に入っていただいて、チームビルディングのワークに選手全員で取り組みました。例えばワークに大縄跳びを取り入れたのですが、失敗した後に選手同士で「どういうコミュニケーションを取っていれば、もっと跳べたのか?」などを話し合ったりしました。
こういったワークを通じて、あるべきチーム像やコミュニケーションの取り方をチーム全体で統一させていくことができました。新たにジョインした外国人選手とも共通の認識を持つことができましたね。
ーー最後に、新リーグの意気込みをお聞かせください。
李選手:
今年で終わりじゃなくで、今年はきっかけなんで。正直、強豪チームと比較すると、まだまだ足らないところもあります。今年はいい意味でファンの方からの反響も大きかったので、新リーグでも強いドコモを見せていきたいと思っています。
ーーありがとうございました。
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