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MLBのスポンサーシップ事情について

MLB(メジャーリーグベースボール)が開幕して約2か月が経過しようとしています。今シーズンは、昨シーズンにも増してMLBに所属する日本人選手の活躍が注目され、ニュースで報じられない日はありません。そのような中、MLB球団に対する日本企業スポンサーの増加もニュースで取り上げられることが増えています。特にロサンゼルス・ドジャースでは大谷翔平選手、山本由伸投手の一挙手一投足に注目が集まっており、スポンサーに対して大きな影響を与えていると言われています。今回はMLB球団のスポンサー事情についてご紹介したいと思います。


大谷翔平効果!ドジャースが多数の日本企業スポンサーを獲得

日本でも報じられている日本企業各社のドジャースとのスポンサー契約。契約期間や金額については基本的に非公表であるものの、その数は2024年5月16日時点で9社と報じられています。

スポンサー企業9社の内訳は、ANA、TOYOTIRE、興和、大創産業、日本管材センター、コーセー、木下グループ、THK、ヤクルトです。

ドジャースとのスポンサー契約を発表した日本企業(2024年5月16日時点)
※契約期間や、権益についてはドジャース公式サイトのリリースを参照

上記の9社は全て2024年から新規でドジャースとスポンサー契約を締結しており、公表されている契約期間や権益も様々です。ほとんどの企業がアメリカでの事業を展開しており、日米両国での認知拡大が目的と考えられます。日本管材センターや木下グループはアメリカでの事業が確認できませんでしたが、NHKをはじめ、SPOTV NOW、Abema等、日本でもテレビ局や配信サービスでMLB中継が展開されており、毎日のニュースでも取り上げられることを考えると、国内の認知向上だけでも十分な効果が期待されます。また、木下グループは、サンディエゴ・パドレス(ダルビッシュ選手、松井選手在籍)ともスポンサー契約を締結しており、スタジアム広告や日本人選手のインタビュー時にロゴが掲載されることになっています。

これらの企業は、すべてスタジアム内に広告を掲示する権利を保有しています。toC企業のコーセーは、スタジアム内に商品を陳列する権利を保有、ヤクルトはサンプリング権利を保有しており、来場者とのコミュニケーションをするきっかけを作っています。

MLBスポンサー収入の現状について

上記のように日本企業がスポンサーになるケースは大谷選手がドジャースに移籍する前のエンゼルス時代にも見られる傾向ですが、増加しているのは日本企業のスポンサー契約だけではありません。Forbesによると、2023年のMLB全30球団のスポンサー収入の総額は約1.5億ドルで、2022年の総額と比較をしても約23%増加しています。また、前シーズンに比べてスポンサー数も135社増加しています。


MLB球団スポンサー収入合計の推移 ※筆者作成
引用元:Statista


なぜMLBのスポンサー収入は増加しているのか?

上記の主な要因として考えられることは、調査会社SponsorUnitedの調査によると、下記のとおり記されています。この3つの要因について詳しく説明します。

➀2023年から導入されたルールによる視聴率の増加
➁ダグアウト・サイネージの導入
➂ユニフォーム広告の解禁

MLB Marketing Partnerships Report 2023

➀2023年から導入されたルールによる視聴率の増加

MLBでは2023年から試合時間の短縮を目的に、ピッチクロックが採用されています。試合時間が長いことが理由でファンが減少しているとの仮説から、今回のルール改正に至りました。ルール改正の結果、2023年シーズンは9イニングの平均試合時間が2時間40分となり、2022年シーズンと比較して24分の短縮に繋がっています。また、今年のドジャースの試合では1時間55分の試合を記録し、更には44年ぶりに5試合連続で2時間25分以内の試合を記録しました。

また、ルール改正はピッチクロックだけでなく、ベースを縦横約7.6cmずつ拡大する規格変更も実施しています。より試合をエキサイティングにすることが目的で、盗塁数や安打数の増加を狙った改正となります。また、選手のけが予防と衝突防止の策としても取り入れられました。結果、2023年は盗塁数が1試合当たり1.8と過去最高を記録し、打率も7ポイント上昇する結果となりました。
このような取り組みを背景に改めてMLBへの注目が集まり、2023年の主要なゴールデン番組の平均視聴率を125%上回りました。視聴率が上がったことで、MLBの試合中継の価値が高まり、スポンサーを獲得する機会に繋がったと言えます。
また、ルール改正により増えたアイテムとして、クロックサイネージがありますが、こちらにもロレックス等の時計メーカーがスポンサーとなり、新たなスポンサー獲得に繋がっています。

➁ダグアウト・サイネージの導入

ダグアウト・サイネージの導入がスポンサー収入拡大の要因になったという調査結果が出ています。このアイテムは2023年シーズンで67企業が権利を得ており、同年最も購入されたアイテムとなりました。理由としては上記のルール変更により、より多くの走者が塁にいることで、フィールドレベルのカメラが、投手や守備から離れて走者を映す機会が増え、1塁と3塁のサイネージ価値が高まったとされています。

しかしながら、この理由については少し懐疑的な部分があると筆者としては感じています。確かに試合中の映像で走者を映すシーンはありますが、ダグアウトサイネージまでは映りこんでいないケースがほとんどだと感じているからです。ダグアウトの看板はこれまでもある中で、この看板がサイネージ化され、多くの企業に販売できる可能性が拡がったことがポイントだと考えています。また、露出という意味では、ホームランが注目されることが多く、選手の横から映すハイライト映像や、SNSでの露出が多く見られるため、その点での効果は上がっているように感じます。日本では東京ドームでも外野看板がビジョン化されたことで、スポンサー数の上限がなくなり、収益の幅を広げられているように、広告のデジタル化の可能性が、収入拡大に繋がっていると思います。
本レポートの調査時点では、ダグアウト・サイネージが導入されている球場はまだ5球場ということなので、今後更に導入されると、スポンサー収入が拡大されることが予想されます。

ダグアウトサイネージの露出イメージ(0分22秒・0分44秒・1分22秒参照):


➂ユニフォーム広告の解禁

MLBでは2023年からユニフォーム広告を解禁しました。日本では見慣れた光景ではありますが、実はアメリカではこれまで実績がなく、4大スポーツではNBAが2017年に解禁し、MLBでも2023年から導入されました。初めてユニフォーム広告を導入したのはパドレスで、携帯電話を展開するMotorola社が年間約1,000万ドルで契約を締結しています。

その他にも、レッドソックスは生命保険会社のMassMutual社と10年総額1.7億ドルで契約を締結し、吉田正尚選手の入団会見時にお披露目されました。

このように、今まで解禁してこなかったアイテムを2023年に導入したことも、スポンサー収入増加の要因となっています。

MLBチームのスポンサーになっている業種とは?

MLBのスポンサーカテゴリーの多くは金融が占めているとSponsorUnitedの調査が示しています。金額としては約2億ドル、同カテゴリーは前年と比較してスポンサー額が22%増加しました。MLBのスポンサーで今まで最も大きな割合を占めていたのは飲料メーカーですが、ユニフォーム広告のほとんどを金融系の企業が占めており、この領域の金額が高額であることも後押しし、ポートフォリオにも変化が見られました。
代表的な事例としてはヤンキースと契約を締結したStarr Insurance社です。伝統のあるヤンキースのユニフォーム左袖に広告を掲載し、大きな話題となりました。金額はMLB球団の中でも最高額の2,500万ドル/年で、2031年までの約9年契約です。このように金融系の企業がユニフォームスポンサーとして契約を締結していることもNO.1カテゴリーとなっている要因と考えられます。

まとめ

選手への注目、世界的なマーケティング活動、競技ルールの改正、新たな商品設計等、MLBチームのスポンサー収入の増加は、リーグが主導して様々な課題に向き合ってきた結果としてこのような数字に繋がっていると感じました。今後もMLBへの注目は更に高まることが予想されます。これからのMLBの動向にも注目し、日本野球、更にはスポーツ界全体にも活かせることを発信していきたいと思います。


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