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スーパーボウル開催地から学ぶ、持続可能なスタジアム運営の在り方

NFLの頂点を決めるアメリカンフットボール最大の祭典、第58回スーパーボウルが日本時間2024年2月12日にラスベガスで開催されました。今年はサンフランシスコ・49ersとカンザスシティ・チーフスの対戦とあって、オールドファンにとっては必見の対戦カードとなりましたが、今回は世界的な歌姫であるテイラー・スウィフトと、現役のNFLで最も優れたTE(タイトエンド)の呼び声が高いトラビス・ケルシーという、世界が注目するスーパーカップルでも話題となりました。

いろいろな意味で話題となった今年のスーパーボウルですが、開催されたアレジアント・スタジアムは最先端のスタジアムのひとつです。今回は、アレジアント・スタジアムに使用されているテクノロジーや、他のスタジアムにはない特徴を紹介したいと思います。

アレジアント・スタジアム外観(筆者撮影)

今回紹介するスタジアム
名称:アレジアント・スタジアム(Allegiant Stadium)
所在地:3333 Al Davis Way, Las Vegas, NV 89118(アメリカ合衆国)
座席数:65,000
チーム:ラスベガス・レイダース、 UNLVレベルズ
開業:2020年7月31日
建設費:20億ドル
フィールド:天然芝(レイダース)、人工芝(UNLV)


ニックネームは「デス・スター」

アレジアント・スタジアムは、当時オークランドから移転してきたレイダースの本拠地として2020年に誕生しました。総工費はおよそ20億ドルで、ロサンゼルス・ラムズとロサンゼルス・チャージャーズが本拠地とするSoFiスタジアムに次ぎ、現在世界で2番目に高価なスタジアムとなります。
スタジアムは、ホテルやカジノが立ち並ぶラスベガス・ストリップから近いロケーションが良い場所にあり、フリーウェイからも見える黒を基調とした洗練されたデザインから「デス・スター」の愛称で親しまれています。
レイダースのオーナーであるマーク・デイビス氏は、アレジアント・スタジアムがオープンした2020年に「デス・スターへようこそ。そこでは対戦相手の夢が死ぬ場所だ」と語っています。

また、このスタジアムの魅力のひとつが、スタジアム内がレイダース色に染められているることです。スタジアムのいたるところにレイダースのロゴや選手たちが使用されていたり、また、レイダースの元オーナーであるアル・デイビス氏を偲んでトーチが設置されており、世界観を演出しています。(スタジアムの住所にアル・デイビス氏の名前が使われているあたりも素敵ですよね。)

アル・デイビス氏を偲ぶトーチ(筆者撮影)

スタジアム内外に設置されたディスプレイ

以前のnoteで紹介した、ダラスのAT&TスタジアムやロサンゼルスのSoFiスタジアムに代表される近代的なスタジアムのトレンドのひとつに屋根から吊るされた巨大なビジョンが挙げられますが、アレジアント・スタジアムにはこれが設置されていません。代わりに3つの大型モニターを含む様々なサイズの2,550台を超えるディスプレイが設置されており、ファンはスタジアムのどこにいてもプレーを見逃すことがありません。また、スタジアムの屋外壁面にはプロフットボール最大となる総面積2,564平方メートルのLEDメッシュディスプレイが設置されいます。これによりレイダースの試合映像や企業スポンサーの宣伝、スタジアムでの今後のイベントに関する情報を表示することができ、スタジアムの外にいながらファンに他のスタジアムにはない体験を提供しています。


屋内でありながら、フィールドは天然芝

アレジアント・スタジアムのあるラスベガスは砂漠地帯であることから、暑さを防ぐために屋根付きのスタジアムとなっています。

NFLのスタジアム全30か所(そのうち、2か所は2つのチームが共用)のうち、フィールドに天然芝を使用するスタジアムが15か所、人工芝を使用するスタジアムが15か所あります。通常の屋内型スタジアムはフィールドが人工芝であることが多いですが、アレジアント・スタジアムは天然芝のフィールドが使われています。
(レイダースのオーナーであるマーク・デイビスにとって、天然芝のフィールドは必須条件だったそうで、こだわりが感じられますね。)

しかし天然芝だけを使用しているのではなく、試合がない時には芝をスタジアム隣の屋外に移動、内部には人工芝のフィールドがあり、同じくアレジアント・スタジアムをホームとしているカレッジフットボールのネバダ大学ラスベガス校(UNLV)の試合では、人工芝が使用されています。


NFL史上初となる100%再生可能エネルギーで稼働するスタジアム

2023年7月、アレジアント・スタジアムは、環境に配慮した建築物に与えられるLEED認証のゴールド認定を受け、2024年のスーパーボウルは、NFL史上初めて再生可能エネルギーのみで運営された大会となりました。

※LEED認証とは
米国グリーンビルディング協会(USGBC:US Green Building Council)が開発および、運用を行なっている建物と敷地利用についての環境性能評価システム。建築物と敷地利用の環境性能(省エネと環境)に配慮された優れた建築物を作るため、先導的な取り組みを評価するグリーンビルディングの国際的な認証プログラム(環境性能評価認証システム)。
現在、アメリカでLEED認証を受けている建物が99,743あり、そのうち、スタジアム・アリーナは85、さらに、ゴールド以上の認証を受けているスタジアム・アリーナは38となります。

アレジアント・スタジアムの目に見える大きな特徴の一つに、スタジアムの屋根が再利用可能なプラスチック素材でできており、全て半透明にすることでフィールドに自然光を取り込んでいることにあります。自然光を取り込みつつ太陽熱をすべて遮断する素材で作られているため、暑いラスベガスでも冷房に必要なエネルギーを抑えることができるのです。また移動可能なフィールドの芝生も、屋内型スタジアムであるにも関わらず育成用のライトを使わずに太陽光で育成することでエネルギーの大量消費を防いでいます。
さらに、65,000人を収容するスタジアムに供給する全電力は、砂漠に設置された62万1,000枚以上の太陽光パネルから供給されています。

その他、アレジアントスタジアムは次のような取り組みを行い、持続可能な運営に力を入れています

【節水】
砂漠地帯であるネバダ州では節水が大きな課題のひとつです。スタジアムでは、イベントごとの過剰な水の使用を軽減するために節水効果の高い設備を導入しています。

【廃棄物の転用】
専門のチームがスタジアムで出たごみを分別し、現在20種類にわけてリサイクル、堆肥化、再利用、または寄付を行っています。

【食品廃棄物の収集】
大規模なスタジアムイベントを開催すると、キッチンで発生する切り屑や食べ残しによる生ごみが平均して12,000ポンド(約5,443キログラム)発生します。これらは収集してラスベガスの畜産場に提供され、家畜の飼料として使用されます。

【タバコ廃棄物の収集】
アレジアント・スタジアムは、回収したタバコの吸い殻を再利用し、その廃棄物をエネルギーに変換したアメリカ初のスタジアムです。この取り組みによってこれまで69,000ワットを超えるエネルギーが生み出されており、これは13,955台の携帯電話を1時間充電するのに必要なエネルギーに相当します。

【フィールドの刈り草の転用】
ラスベガスの業者の協力により、フィールドの芝刈りで発生した刈り草はバイオマス機械によってバイオ炭として生まれ変わり、すべて再利用されています。


今後のスタジアム・アリーナ運営を考えるヒントに

今回、アレジアント・スタジアムを事例に、最新のスタジアムにおけるテクノロジーと持続可能なスタジアム運営について紹介しました。

昨今、国内においても持続可能なスタジアム運営を目指した事例は見られますが、まだまだ発展途上にあると思います。スポーツの大規模大会は、時に開催に向けて巨額の費用が投入され、特に新設される競技場については建設に対する環境負荷やその後の運用コストが課題として残されます。今回のアレジアント・スタジアムの事例は、チームの歴史を大切にしながら新たなテクノロジーを取り入れ、更に環境負荷を減らす仕組みを多く取り入れるという点で、スタジアム・アリーナおよびスポーツの在り方を考えるヒントになると思います。

引き続き、海外スタジアム・アリーナの潮流に注視しながら、国内にもヒントとなる事例を紹介できればと思います。
また、海外スタジアム・アリーナについて、興味のある、気になる分野があればコメントをいただければ幸いです。

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