上田麗奈 New Album『Empathy』について
はじめに
こんにちは初めまして、よだんです。
2020年3月18日に上田麗奈さんのフルアルバムが出たのでその感想を綴ろうと思いました。昨年の12月に制作が発表され、クレジットやライナーノーツなど発売前の公式リリース情報から期待大だったのですが、想像以上に良かったので衝動的に書くこととなりました。
アルバムの収録順に紹介しますが、公開された順が
"Teaser Movie → Tr.02 あまい夢 → Tr.01 アイオライト → 試聴動画 → Tr.05 いつか、また。(ラジオで公開)"
であったことを念頭に聴いてみてください。
また、私は音楽理論に関しては全くの素人で、知識量も文章力もないので歌詞・音像・音の空間などから得られる印象を中心に書いていきます。
自分とは合わないな、という点がございましたらご自身の印象を第一にしてください。
各種サブスクでも配信されていますが、是非ブックレットを片手に、そして実際に聴きながらライナーノーツとともに読んでいただけると幸いです。
以下完全神曲
サブスクリンク:Aniuta, Spotify, Apple Music
01 アイオライト
作詞:上⽥麗奈 作曲編曲:Kai Takahashi (LUCKY TAPES)
プレミア公開によって公開されたこの曲。
ハウスミュージックのようなベース、管楽器と歪むギターから始まるこの曲。リズムのその軽快さと乖離した歌詞の重々しさが同居し、Bメロで一気に自虐的な暗さにスポットが当たります。しかし、サビ前の明るいドラムフィルとトランペットによってまた明るい世界に引き込まれ、『色づけ世界』と新たなステージへ動いていきます。
ここで各所で遠くになっている歪んだギターとラストの”oo”といったコーラスを考えます。この音は過去作において表現されていた無色な状態の名残ではないでしょうか。
このネガティブで不安定な音を遠く、そして主なトラックから離れた位置に配置し、1コーラスの中央におけるBメロでマイナーな表現をすることで、明るい肯定感をより色濃く表現することが出来ます。この曲がTeaser Movieの曲やあまい夢より後に公開されたうえでアルバムの1曲目となったことを考えると、過去作の色の無さから光を持つ彩りを持つアルバムを象徴する一曲だと思われます。
02 あまい夢
作詞作曲:ORESAMA 編曲:⼩島英也
アアァーーーー!!!!!!恋の音がする!!!!!!!!!
当時告知もなく公開されたMVは一発目から歌が入ってくる甘いポップな曲となりました。過去作のRefrainやsleeplandの収録曲を考えると全くの別ベクトルであり、度肝を抜かれた人が多いと思います。
歌やコーラスにウィスパー成分が多く、ウワモノもきらきらとした音色である一方、ベースとエレキピアノがリズムと流れを作りドラムはずっとタイトに刻み続けるという芯の通った曲となっています。リズム隊が助長無く堅実にリズムを刻むことで上側の空間が確保され、ボーカルを中央に、コーラスやストリングスが遠い上から鳴すことが出来ているとんでもないバランスになっています。
全体を通して声音の硬さや掠れ具合のダイナミクスに注目してほしいのですが、サビの『I may be あまい夢を見てる』『曖昧に』という部分では母音にハイトーンを入れるか入れないかによってこのポップなメロディに表情を持たせてさらに輝かせています。
またリバーブがとても奇麗で、1サビ後の感想では各楽器ごとの残響が異なり、2A前では一度リバーブのみとなったあとベースが落とし、2Aに入っていきます。その後は歌とベース、ピアノ、タンバリンのみの構成になってから元の編成に戻るのですが、だんだんとボーカルのリバーブが減っていき、歌詞の『ふと静寂が訪れる』にシンクロしていきます。憎いね。
ギターソロ、甘い、さらに五億点。
03 Falling
作曲編曲:⽯川智久
前二曲と繋がって一度過去作に戻るようなインスト曲。
明るさと暗さを交互に行き来する1分33秒。一曲通して同じ音を鳴らしているのですが、各曲のサンプリングや重ねるコーラス、ストリングス、リズムなどに揺れ動かされながら段々とダークなある一点に落ちていきます。最後には前曲の『みてる』というサンプルを残響させ、前二曲の流れを潰えた印象を持たせます。
04 ティーカップ
作詞:安藤紗々 作曲編曲:広川恵⼀ (MONACA)
話が違うぞ恵一。
一度ブラックミュージック的な流れを閉じ込めた前曲に対して改めてR&Bな曲を持ってこられて正直驚きました。アタックが見えないでずっと揺れているリズムに対してボーカルもさらに後ろノリに。聴いたら一生裏拍しかとれない。サウンド的にはシンプルに温かみのあるファンクサウンドになっているのですが、気怠さと自己を叱咤するような激情を重ね合わせたボーカルによって手に持つティーカップに自身の心境を重ね合わせて自分や至極身の回りにしか目が向けられていない様が見えます。
ギターとシンセ/エレピがメインメロディをサポートするようにメロディを修飾していくのもナイスなポイントです。その一方でベースとドラム(特にバスドラ)が組み合わさって独特のシンコペーションを作ることで上に乗る音をコントロールしているのも重要です。浮遊感のある気持ち悪い間奏では一度別空間に移動したように変わり、閉じこもり続けている人特有の意識の遠のきを感じさせます。
05 いつか、また。
作詞:RIRIKO 作曲:⼭⽥かすみ 編曲:笹川真⽣
ミューコミプラスへのゲスト出演時に初公開されたこの曲。
一聴すれば"ヤバい"ということが分かると思います。上田麗奈さんの出演作をいくつか知っている方にとっては歌詞の理不尽さにあるキャラクターが思い当たるはずです。
歌ではなくお芝居のように感情をそのまま表現するだけでなく、アルバム中の一曲という枠の中で一つの物語を敢えて完結させないで終わらせています。そしてTr.04 ティーカップ と同じようにある場所に留まり続ける曲でありますが、この曲では『さぁ目を覚まして始まる』とまた新しい世界へ飛び出し、別れを綴った終わり方をしています。
楽器としては純粋なロックサウンドを主体としているのですがその押し引きがとても絶妙であり、ボーカルの感情の移り変わりに対してシンクロするように昂るときもあれば、無情にも突き放すように淡々と鳴らされるという舞台背景のような役割を全うし続けます。
ここでブックレットをお持ちの方は歌詞の配置が他の曲と異なることに気づくと思います。そして、明確に世界が変わった場所に目を向けていただくとこのアートワークに対する力の入りようをより一層感じられると思います。
06 きみどり
作詞作曲:Chima 編曲:下川佳代
一音目からまるで劇伴の一曲のような印象を受けました。
原始的な楽器でほとんどが構成され、音数が少なめで三拍子であることもその要因かもしれません。これまでの曲と違って一曲を通して全てが肯定感や喜びで表現されており、”自分一人ではなく君と”といった直接的に二人称へのメッセージが綴られています。
一方でビートに関しては無機質なサウンドではありますが音数をメロディに合わせて変化させることで単調な印象を持たせず、楽曲のイメージに寄り添いながらも丁度良いアクセントとなっています。
個人的に注目してほしいのはコーラスが本線のボーカルに対してどの位置にいるかです。一般的な曲ではサビやCメロといったタイミングに上ハモが乗り歌の厚さが増すのですが、この曲では上ハモを入れるのはラスサビのみであり、なっている場所はボーカルの上ではなく真後ろです。これが何になっているのか言葉にすることは出来ませんがとても良いと思いました。
07 Another
作曲編曲:⽯川智久
2曲目となるインスト曲。Teaser Movieに採用されていましたがクレジットは書かれておらず、試聴動画でも聴けなかったためこのタイミングで第一曲がこの曲であったことが判明しました。
電子的なノイズとともに海の中を揺蕩うような音が断続的に流れ、ある場所で音が消えるとまた新たな音が鳴るようになっており、一つの海のような曲に感じました。ここはsleeplandやRefrainでみられた声音やサウンドであり、続く楽曲達のある種の回帰のような 誘導 になっています。
08 aquarium
作詞:唐沢美帆 作曲編曲:⾼橋 諒
Tr.07 Another を引き継ぐかのように不協和音から始まり、確実にあるはずの光が周りの暗闇によってぼやけ、それでもその光を求めもがき続けているような一曲になっています。
純粋なエレクトロニカではなく、ベースの音を小節の頭に何度も置くことで、またドラムビートを強弱を分かりやすいほど変化させることで得体のしれぬ海の暗さと抗い難さを表現しています。一方でストリングスは一貫して光を感じさせるアレンジであり、サビではメロディを持つ線とサビ通して同じ和音を奏で続ける線に分かれ、変化し続ける海との対比を作り出しています。また、ラストへの四つ打ち及びギターディレイは絶えず高みを目指す力強さを引き出し、アウトロのベースとシンセサイザーでその存える波紋のような後味を感じさせます。
09 旋律の⽷
作詞:RIRIKO 作曲編曲:⽯川智久
ピアノと歌のみのながら荒々しさのあるバラード。
一部分だけ聴くとヒーリングミュージックのような印象を受けますが実態は全く違うことがすぐに分かると思います。
短い歌詞の中に込められた柔らかな言葉に包まれた絶望、絶望。半ば諦めのような表現に対し、強引な音のとり方をするピアノ、間延びし繰り返されるリバースディレイ、徐々に近づいてくるコーラスによって混沌さが強調され、一聴するだけでは感じ取れないダークな世界観を醸し出します。
曲の後半にかけて段々とその絶望感がより明瞭になる一方明るいメロディの"lalala"が挟まることで諦観を表し、Tr.07 Another におけるあの終わり方が新しいステージへの希望ではなく絶望と諦めという全くの逆のイメージに突き落とすという残酷なギミックとなっていました。そして最後にダメ押しをするように繰り返されるのです。
10 Campanula
作詞:上⽥麗奈 作曲編曲:加藤達也
これまでの絶望感から一転して軽やかなサウンドになりました。
一途に相手の幸せを願い、どんな言葉をかけようか、どうやったら届くだろうかと四苦八苦している様子がみえます。この曲に関しては多くは書かず、第三者目線で「まっすぐに聞いてほしい」という気持ちがありますが、一つだけ"歌の主人公が決断した瞬間"があるのでそのタイミングをしっかりと受け取ってほしいです。よろしくお願いいたします。
11 Walk on your side
作詞:松井洋平 作曲編曲:⽥中秀和 (MONACA)
このアルバム最後の曲であり、耳馴染みの良い、でも確かな集束を感じさせます。曲の進行は王道であり特別なギミックを織り込まず、流れるようにアルバムの終着を送り届けます。
『Empathy』が過去作とは違う点は、自分自身を見ているだけではなく、明確な相手が存在する曲が多く、感情や彩りが鮮やかになっているというところです。この曲は自分と相手が歩いている情景ではなく、歩く自分の目線もしくはそのとき思い描いてる頭の中が描写され、手を差し伸べる、歩みを合わせるといった相手に寄り添い支えたいという意思の多幸感にあふれています。
上田麗奈 New Album『Empathy』について
ここまで1曲ずつ書いてきましたが、一通り聴いた後に思うことは"上田麗奈さんの歌の表現力は桁外れである"ということです。普段のお芝居やキャラクターソングでは、そのキャラクターの軸があった上で表現される一方、上田麗奈さん自身が表現するとき、乗せたい感情の揺らぎに声が呼応するように二転三転と変化している。明確に 透明ではなく、掠れて先が見えない声で同じ音玉やメロディであっても同じ表現にならないという不安定性が、歌の魅力に本質的に近い場所を表しているのではないかと思います。
そして、その魅力と上田麗奈さんが思い起こした感情を最大限汲み取る素晴らしい制作陣が起用され、制作された結果このような素敵なアルバムになったのだと思いました。
上田麗奈ワンマンライブ
上田麗奈 1st Live Imagination Colors が7月23日(木・祝)になかのZERO大ホールにて開催されることが決まっております。
今回のアルバムを含めて20曲近くになった楽曲達を生で聴ける数少ない貴重な機会です。ライブのチケット最速先行応募券はパッケージのアルバムにしか封入されておりませんので、是非お買い求めのうえ応募することを強くお勧めします。
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございます。長々と書きましたが、アルバム『Empathy』の魅力はこれだけには留まらないと思っています。ここには自分自身が書きたくなかったことは出来るだけ書きませんでしたし、読者の皆さんが気づいて自分がまだ気づいていないことなどがまだまだ沢山あるはずです。このアルバムに関してあなたが感じたEmpathyについても教えていただけると幸いです。このいろどりあるアルバムの興味深さに共感する方が一人でも増えることを願って、結びの言葉とさせていただきます。
P.S. 上田麗奈さん、僕に喉をください。
よだんです 好きに正直に 人生第2章