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1.

妻が死んだ。

妻の由美子が死んだ。

「さあ 皆さま 最後のお別れでございます。」

葬儀会館のスタッフの声が聞こえた。

棺の中に花を入れる妻の母、そして、姉。

親類が次々に棺に花を入れていく。

 和夫はその様子を後ろから見ていた。

「喪主様もどうぞ。」とスタッフから声をかけられた。

「はい」と言って棺に近づいた。

 元気な時とは変わり果てていた妻由美子の顔。

亡くなって二日たった由美子の顔は目も窪み、
口も閉まらないままになっていた。

 和夫は由美子に頬ずりをした。

頬ずりをしながら、涙が流れだした。

取り乱さずしっかりやりたいと考えていた。

喪主の挨拶が終わり、緊張の糸がプチンと
音を立てて切れてしまったのだ。

「由美子、由美子」と叫びながら頬ずりを続けた。

そして、キスをした。

どのぐらいの間、キスをしていたのだろう。

かなり長い間キスをしていたように感じた。

長いキスの後、棺に入れていた顔をあげた。

 その時、和夫の見えていた景色があっという間に変わった。

由美子の母も姉も親類も葬儀会場の様子も青色に変わった。

そして、景色がゆがみだした。気を失う寸前だった。

 由美子が一緒に行こうって、迎えに来たのか 遠ざかる意識の中で和夫はそう思った。

 親類の姉さんが倒れる寸前だった和夫を後ろから支えてくれた。

そして、椅子に座らせてくれた。

「和夫さん、顔色が真っ青ですよ」

義兄が椅子から和夫がずり落ちないように押さえながら言った。

「誰か 和夫さんに水を持ってきて。」

 水を飲んでいる和夫にスタッフがゆっくり微笑みながら言った。

「喪主様、大丈夫ですか、すこし落ち着くまでおかけなっていてください。外で最後のお見送りで待っていらっしゃる参列の皆さまはもう少しお待ちなってくださいます。」

 そうか 俺がお位牌を持って、霊柩車に乗らないとみんな帰れないんだ。

「はい 大丈夫です。今から外に行きます。」

お位牌を持った和夫の後から親類の男4人に担がれた棺は霊柩車に吸い込まれた。

つづく