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愛する妻へ  「月命日の打ち上げ花火」

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がんで他界した愛する妻の小説風にした記録です。
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2023年8月の記事一覧

「月命日の打ち上げ花火」第5回

「月命日の打ち上げ花火」第5回

5.

一週間たった。札幌に着いて和夫はすぐに由美子の店に行った。

由美子を見つけて声をかけた。

「ようっ ご苦労さん。」
由美子も一週間前の話などなかったように
「マネジャー お疲れ様です。」と挨拶してきた。

「早速だけど 今晩、8時からこの前の居酒屋でいい?」

「はい、わかりました。8時に伺います。」

「じゃ ほかの店舗に行ってくるから。」

「はい いってらっしゃい。」

 由美子

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「月命日の打ち上げ花火」第4回

「月命日の打ち上げ花火」第4回

4.

由美子は言った。

「私、東京で仕事を続けたいと思っています。マネジャー、私の面倒見てくれますか?」

和夫は上司として答えるべきか、男として答えるべきか迷う事がなかった。すぐに男として答えてしまった。

しかし、逃げ道も必要だったのであくまでも冗談ぽく言った。

「ああ、君の面倒は見るよ、一生見るよ。」

その冗談ぽい和夫の言葉に由美子は真剣な声で言った。

「マネージャー、ぜひ 私の面

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「月命日の打ち上げ花火」第3回

「月命日の打ち上げ花火」第3回

3.

150センチと小柄だった由美子。

その小柄な由美子の歩く姿を和夫な何回か見た。

背筋を伸ばし、速足で凛とした感じで歩いていた。

可愛い由美子が札幌の街中をゆっくり歩いていると、ナンパな男から声をかけられてしまうだろう。

長い髪をなびかせながら速足で歩く由美子の姿は男が声を掛けられない雰囲気があった。

 会社の上司と部下という関係でなければ、和夫は由美子と知り合うことなど絶対なかっ

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「月命日の打ち上げ花火」第2回

「月命日の打ち上げ花火」第2回

2.

和夫は32歳の頃、1歳の男の子を残して、離婚した。

離婚前、子どもがいることで和夫は離婚することに悩んでいた。

悪いのは両親で全く罪のない子供を片親にしてしまう事がいいのだろうか、悩みに悩んだ。

仲の悪い両親に育てられるより、母親の愛情を一身に受けて育った方がいいだろうと無理に納得した。

 2回流産した後の子だったので、前妻は親権を譲らなかった。

和夫は子供に対する申し訳ない気持

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