失恋

白亜紀くらい昔のことだが、飲酒を始めて間もない頃ある男友達と飲みすぎて初めて終電を逃し、ちゃっかり家にお邪魔したことがある。家までの道のりでふらつき散らかして助けられ、さらにお邪魔してからも散々絡み酒をかましてしまった。記憶も曖昧だが、今思えば自分に特に邪な考えが無いにもかかわらず相手(とりわけ男性)からすればどんな勘違いをしてもおかしくない距離感だった可能性が高く大変反省している。今更怒られたってスライディング土下座して謝る。

挙句丁度自暴自棄だった私はやけくそでひょんなタイミングで「もう手出せばいいじゃん」みたいなことを言ってしまった。本当によくない冗談だ。酔ってるからといって、なげやりだからといってどんなからかい方をしてもいいわけではない。
しかしそいつは「これで我慢する」とだけ言って抱きついてきた。
その後すぐ私に水を飲ませ、コンタクトを外すよう促してきた。
記憶はそこで途絶え、目が覚めたら私だけがベッドに寝かされていた。何もされた形跡は無かった。

まあ恐らく私なんかには手を出すまでも無かったというか、既に女にはこと足りていたから別に身近な友達にまで手を出そうとは思わなかったんだと思う。実際、あいつは他所で好きなだけ遊び回っている。酒と自暴自棄のおかげでこの世の全てがどうでもよくなった状態の私を気持ち程度によしよし宥めて慰めてやったんだろう。「これで我慢する」はおおよそ常習化した思わせぶりの手癖と見られる。
朝、そいつは疑われもしないようほぼ玄関みたいなところの床で貰い物の小さいぬいぐるみを枕に苦しそうに寝ていた。

悔しいことに、そういう奴のことを好きだったことがある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?