好きになったが故に一瞬拗らせた話

度々そこらじゅうに書いているように、私は2022年の冬にある舞台を観て演劇部を引退しても演劇をやめたくないと思った。

その作品はある男性の役者さんの1人劇で、素朴で、寂しくて窮屈で、でも片隅に心許せる何かがあって、それが残酷に壊れるような物語だった。主人公は所謂陰キャの高校生で、陽キャの子達の前では友達と仲良くしづらいとか、こっそり秘密を共有すると仲良くなれるとか、そういう陰キャ特有の解像度というか細かな心情の描写とそれを漏らすことなく表現する役者さんの演技その一挙一動には本当に心動かされるものがあった。

しかしその実、それを演じていた役者さんは福岡で有名な人気劇団で主演も務めるスーパー愛され人気役者だった。当たり前だ。たった1人でもあんなに惹き込まれる演技されてるんだもん。演劇以外でも言えることだが、陰キャを演じる役者さんが実際に陰キャとは限らない。そんなことは分かっていた。私だって実際の己とかけ離れた役ばかり割り振られてきたし、むしろ自分と似た役を演劇部時代にやったことなんか自分が書いた脚本で1回だけだ。あの劇においても、物語と実際の気質が近い可能性があるとするなら役者さんではなく脚本家さんの方だ。そりゃそうに決まっている。だって書いたんだから。

でもなんかどうしても寂しい気持ちというか、ある種の失恋のような気持ちがどうしても拭えなかった。私はあの演技に大きく共感し心動かされたどころかあの舞台をきっかけに演劇を続ける道を選びある意味人生まで動かされたのに。全部嘘だったんですか、みたいなショックを受けてしまった。
勿論演技なんだから嘘もへったくれも無いし、なんで今更そんな幼稚な感情を抱いたのか自分でも分からない。とにかく、その人をきっかけに演劇界隈に興味を持ったのに、その結果役者さん個人の実際の姿を知ることになり観客としての私の夢は壊れてしまったのだ。勿論役者さんは何も悪くない。10:0で私の問題だ。

まあそれだけ素晴らしい役者さんだったというだけの話だし、今ではこんな幼稚な感情を抱いてしまったこと自体とても申し訳ないと思っている。故に、誰にも言ったことは無い。今日ここに初めて書いた。
それに、その役者さんには大変感謝している。結局その役者さん(勿論脚本家さんも)が居なければ私はここまで部活やサークルの域を出た演劇の楽しさを知ることも劇団の方々と関わらせて頂くことも、演劇のために沢山出歩いて素敵な舞台の数々と出会うことも無かったかもしれない。しかもとっても優しくて話しやすくて良い人だった。あるWSでお話しする機会があった時、その方が背中を押してくださったおかげで1番話しかけたい演劇人の方に勇気を出して話を切り出すことができた。その結果、演劇に携わる上でまた大事な一歩を踏み出すこともできた。しっかりお世話になってしまっているのだ。今も見かけたらだいたい気さくに話しかけてくださる。Twitterも普通にフォローしてくださっている。たまに心配してくださることもある。今や演劇以外でその方が出演されるイベントにも足を運んでしまっている自分がいる。シンプルに尊敬しているのだ。なんなら今度同じ舞台(短編集なので作品は別のだけど)にも出るし。


まとまらない。いつもありがとうございますっていう話でした。恐らく本人がこれを見ることは無いんだけど。


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