広開土王

アカデミックな文献史学が解決していない二つの重要な問題があります。
一つは四世紀末の倭国の統一問題(390年ごろから倭国は朝鮮半島に派兵しており、当然、倭国内は一定程度統一されていたはずである)です。
もう一つは512年の四県割譲の問題です。512年倭国は百済の要請に応じて4県を割譲しています。割譲したということは朝鮮半島に倭国領が存在していたということです。しかし、倭国が戦争でその辺りを領土とした記録はありません。369年ごろの神功皇后の新羅侵攻の話と、彼女が派遣した将軍が百済南方に侵攻した話はありますが、アカデミック史学はその史実性は否定しています。そこでなぜ朝鮮半島に戦争で取得した記録もない倭国領土があるのかという大きな問題が生じています。

私はアカデミックな文献史学が解決できていないこの大きな二つの問題を、素人研究家は研究し解決するべきだと思います。最近、私は『真実を求めて 卑弥呼邪馬台国と初期ヤマト王権』(東京図書出版)を出版しました。この二つの問題を論じていますので、ぜひご検討いただき、批判していただければありがたいと思います。

広開土王と倭国の関係について専門家はいくつかの重要な点を見落としています。
少しだけ指摘しておきましょう。

391年頃から倭国は高句麗軍と対峙していましたが、392年頃から395年頃までは倭国は前面には出ず、主として百済と高句麗の戦いが行われていました。396年、高句麗は百済から江原道に至る一帯の58城を陥落させています。百済王は広開土王の前に膝をつき、「今後、永遠に奴客となる(臣従する)」と誓いました。

400年新羅に倭人が満ちたので、新羅王は広開土王に救援を求め、広開土王は5万の軍隊を派遣してこれを救援しました。新羅王は広開土王に臣従しました。(新羅の王権を脅かすほど多数の倭人が新羅に集結した理由について説明できている学説はありません。ミチュホ仮説ではうまく説明できます。)

404年、倭国水軍は帯方郡の沖に出陣しますが、高句麗の水軍によって壊滅させられます。407年、倭国軍(議論はありますが倭国軍で間違いないでしょう)は高句麗によって壊滅されます。

ここまではどなたの認識もほぼ同じです。問題はこれ以後にあります。

三国史記高句麗紀によれば広開土王は408年8月に南巡に出ています。その後の記事は全くなく、突然412年に亡くなったとされています。

407年以後、高句麗と倭国の戦争は全くなくなっています。なぜ戦争が行われなくなったのでしょうか。倭国軍が敗退して倭列島に退却したからであると推測できます。南巡とは倭列島への侵攻と理解できます。

広開土王が亡くなった412年の翌年の413年、倭国では仁徳が即位しています。また興味深いことに413年、倭国使者と高句麗の使者が一緒に東晋に朝貢しているのです。なぜでしょうか、高句麗と倭国は和解したのだという説があります。しかし、このときの倭国の朝貢品が高句麗特産の朝鮮人参および貂の毛皮であったことは和解説では説明できません。私は、広開土王=仁徳説以外にうまく説明できる学説はないと思っています。

広開土王がなくなった412年の状況を復習します。高句麗王広開土王は百済と新羅を臣従させています。倭国は半島から撤退しています。加羅諸国は高句麗に対抗できる力はなかったでしょう。したがって高句麗は南朝鮮を統一したに等しい状況だったのです。

そのような状況の中で高句麗王広開土王が亡くなったとした場合、普通はどのようなことが起こるでしょうか。高句麗の広開土王の後継者巨連(後の長寿王)は大軍を引き連れて南朝鮮に来るはずでしょう。しかし、彼は南朝鮮には現れません。巨連(長寿王)は413年に東晋に冊封して営州諸軍事・征東将軍・高句驪王・楽浪公の称号を得ています。営州諸軍事のみです。ここが重要なところです。

広開土王の後継者であるならば少なくとも百済・新羅の諸軍事を求めるのが当然でしょう。南朝鮮を統一したに等しい状況であったのになぜ百済・新羅・加羅諸軍事の冊封を求めなかったのでしょうか。皆さん、考えてみてください。非常に面白い場面です。

また巨連が求めるべき百済・新羅・加羅諸軍事の称号に倭国も加えた六国諸軍事(倭・百済・新羅 ・任那 ・秦韓・慕韓 )の冊封を求めたのが仁徳の子の珍であったことも注目すべき点です。これは倭王珍が六国諸軍事の冊封を求めた淵源が広開土王の戦績に由来することを示していると私は考えています。

珍が自称していることも重要です。それは仁徳が本来、百済・新羅・加羅諸軍事を実質的に持っていたこと、その淵源の(広開土王の戦績)を示しています。

現在、河内王権説が主流と思われます(最近では福永伸哉氏も言及されています)が、なぜ河内王権が成立するにいたったかの経緯について通説はありません。広開土王=仁徳説はその謎を解明するに役立つと考えています。

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